この連載は、最新のパソコンやゲームに用いられている3Dグラフィックス技術を気が向くままに紹介していくものだ。

方針としては、ひとまず、比較的最新のPCゲームや、PS3、Xbox 360などの新世代ゲーム機のゲームで用いられている技術を系統立てて紹介していこうと思っている。

さて最初は、近年までの3Dグラフィックス技術の進化の歴史を振り返ってみることにしたい。

リアルタイム3Dグラフィックス技術の進化の系譜

現在、ソニーPS3、マイクロソフトXbox 360、任天堂Wiiといった最新ゲーム機はもちろん、最新のマイクロソフトWindows Vistaではそのユーザーインタフェースまでが3Dグラフィックスとなっただけでなく、ニンテンドーDSやPSPといった携帯ゲーム機、一部の最新携帯電話もリアルタイム3Dグラフィックス技術が載ってくるようになってきている。

そもそも、リアルタイム3Dグラフィックスとはどのような進化を遂げ、どのような未来に向かっているのだろうか。今後、長くリアルタイム3Dグラフィックスに付き合って行こうとする人のために、まずは基礎知識を整理してみよう。

1980年代後半から1990年代前半~フラットシェーディングからテクスチャマッピング時代へ

それまでに3Dゲームへの応用がなくはなかったが、基本的に「3Dグラフィックス」は技術訓練用シミュレータや自然現象や光学現象の解明といった学術研究、あるいは映像表現への応用など、プロフェッショナル用途やアカデミック用途の世界の方で進化していた。1980年代後期から1990年代になると大手ゲームメーカーがアーケードの業務用ゲームシステムにリアルタイム3Dグラフィックスシステムを採用しだし、この頃からゲームに3Dグラフィックスが本格的に活用されだす。

この時代の代表的な作品といえばナムコ「ウィニングラン」(1988年)、セガ「バーチャレーシング」(1992年)、「バーチャファイター」(1993年)などがある。この頃はポリゴンモデルを使うもののリアルタイム表示できるポリゴン数が少なく、ライティングもポリゴン単位のフラットシェーディングが主流であった。

しかし、ゲームと3Dグラフィックスの出会いは、「リアルタイム3Dグラフィックス」という分野を確立し、その進化を一気に後押しする。

ナムコ「リッジレーサー」(1993年)では、テクスチャマッピングが適用された(画像をポリゴンに貼り付けた)3Dモデルが縦横無尽に動き回り、これまでのカクカクした積み木の集合体のようだった3Dグラフィックスから一気にリアリティが向上する。

「バーチャファイター」(1993年)。ポリゴン単位のライティングが基本の「フラットシェーディング」のみであり、テクスチャマッピングという概念もなかった。そのため、顔や服は"その形のポリゴン"を描画して表現していた
(C)SEGA

1990年代中期~家庭用ゲーム機が切り開いた民生向けリアルタイム3Dグラフィックス

特殊なグラフィックス・ワークステーションを除いて、「ゲームプラットフォーム」ということに限定すれば、当時、3Dゲームグラフィックス技術が最も先行していたのはアーケードゲームシステムであった。ところが、1994年には歴史的な逆転劇が起こる。それがソニー・プレイステーション(PS1)とセガ・サターンの登場だ。

解像度はそれほど高くはなかったが、テクスチャマッピングにまで対応したリアルタイム3Dグラフィックスが一般消費者の元へ送り届けられたという意義が大きく、これを機にリアルタイム3Dグラフィックスと3Dゲームグラフィックスはほとんど並行した関係性を持って急速な進化を開始する。

一方、このころのPCの一般ユーザー向けの3Dグラフィックス技術は、残念ながらゲーム機よりも大部遅れていた。PCにおける一般ユーザー向けリアルタイム3Dグラフィックス技術の本格普及は、1995年に登場した新しいOS、Windows 95の時代になってからだ。

マイクロソフトはWindows環境下におけるサウンド、グラフィックス、ネットワーク、ゲームコントローラなどのマルチメディアAPIコンポーネントをまとめた「DirectX」を発表し、これをWindows 95に採用したのだ。DirectXはそのバージョン番号を後に付け加えて呼ぶのが慣例となり、Windows環境下で本格的に3Dグラフィックスカードが普及して行く。リアルタイム3Dグラフィックスが取り扱えるようになったのは1997年にリリースされた「DirectX 5」の頃になってからであった。

丁度このタイミングに前後して、大手CPU/チップセットメーカーのインテルは新しいグラフイックスインタフェースとしてAGP(Accelerated Graphics Port)バスの実用化に乗り出しており、今も有力なグラフィックスチップメーカーであるNVIDIAはRIVA 128シリーズを、ATI(2006年にAMDと合併)はRAGE 3Dシリーズを投入し、これらが人気を博すようになる。PS1の登場から遅れること3年、やっとPCプラットフォームがPS1と同程度のリアルタイム3Dグラフィックスを取り扱えるようになったのであった。

NVIDIAの「RIVA 128」

DirectX 5時代、「PCで3Dゲームをプレイする」ことを広めた「Quake II」(1997年、id software)
(C)1997 id Software,Inc.All Rights Reserved.

DirectX 6時代、ビデオカードの定番ゲームとして名を馳せた「Incoming」(1998年、Rage社)
(C)Rage Games Ltd 1998

(トライゼット西川善司)