ウィル・アイ・アム(37)といえば、ブラック・アイド・ピーズのフロントマンとして知られる大物アーティストの一人。そのウィルが、ラスベガスで開催されている今年のCES(毎年1月に開かれる一大家電ショー)で「次世代のイノベータ」の一人としてパネルディスカッションに登場するらしい。
ウィル・アイ・アムのオフィシャルサイトはいかにも"ギーク"なデザイン |
「変化する企業とアーティストの関係」といった点で、前回のビヨンセのケースにも相通じるウィルの動向。ビヨンセの話の続きと順番が前後してしまうが、今回はこのウィルの話をすこし紹介したい。
老舗経済誌Fortuneの新年号では、ウィル(本名はウィリアム・アダムズ)の大きな写真が表紙を飾っていた。「The Future Issue」(「未来についての特集号」くらいの意味か)と題されたこの号には、「ウィル・アイ・アム:米国企業のヒットメーカー」(「Will.i.am: Corporate America's hit machine」)いう見出しで、そのウィルに関する特集記事が掲載されている。
インテル(大手プロセッサメーカー)のアドバイザーになったり、モバイル関連の新興アプリメーカーに投資したり、サイモン・コーウェル(X Factor USプロデューサー、元「アメリカン・アイドル」ジャッジのあのサイモン)と組んで「次のスティーブ・ジョブズを発掘するコンテスト番組」の企画をぶち挙げたり、はたまた自分で考案したiPhone用アクセサリー(「i.am+ foto.sosho」という325ドルもするカメラ)を開発したりと、近年では本業の音楽よりも、テクノロジー関連分野での動きのほうが目立つ印象のウィル。そんな多岐にわたる活動のニュースを目にして、彼がギークであることはなんとなく知っていたが、このFortune特集記事では「テクノロジーに明るいビジネスマン」といった面が詳しく採り上げられている。
この記事には、おもしろいTIPSがたくさん載っている。
たとえば、ウィルの現在の愛車が、車種こそ不明だがテスラであるというのが一つ。また、日本でもよく見かけるようになった「Beats by Dr. Dre」ブランドのヘッドフォンメーカー、ビーツの「3人目の出資者」である話もそうだ。ちなみに、ビーツは、アメアイのメンターとしてお馴染みの音楽プロデューサーで、インタースコープ・ゲフィン・A&M会長のジミー・アイオビーンと、Dr. Dreが共同で創業した会社。Beatsのヘッドフォンにある「b」のロゴで有名だが、実はそのロゴ、ブラックアイドピーズが以前使っていたものだということも分かる。そのほかにも、P2Pソフト「Napster」を生み出したショーン・ファニングや「セグウェイ」発明者のディーン・ケイメンなどとも仲がいいとか、面白い話が満載だ。
でも、それらはあくまでもお刺身のつま。「お刺身」の部分は、ウィルがインテルやコカ・コーラといった大企業と続けて来たコラボに関する記述だ。
なかでもコカ・コーラとは、自分から持ち込んだエコ(ペットボトル再利用)関連の企画「Ekocycle」を実現させ、この取り組みから生まれた素材を利用するリーバイスの501やiPhoneケース(Case-Mateというブランドのもの)がすでに一般に出回っている、などとある(ちなみに、この取り組みで得る売上はさまざまな慈善活動に分配されているという)。またインテルからは「クリエイティブ・イノベーション担当ディレクター」という肩書きをもらい、今後10年~50年先に消費者が欲しがりそうな製品やサービスに関するさまざまなアイデアを出す役割を演じているらしい。
「ビジネスマンと話が通じ合う音楽アーティスト」というと、この連載で何度も採り上げているジェイ・Zをはじめとして、いまではそれほどめずらしくはない。またボノ(U2リードシンガー)のように、故スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツといった大物実業家と協力して、社会的な問題の解決に取り組むアーティストもいる((PRODUCT)REDもその一例)。だが、IT技術にも明るい人物、それも「プログラムのコーディングを覚えたいと、学校に入学してコンピュータ・サイエンスの授業を受講する」ほどのギークとなると、さすがにまだめずらしいのかもしれない。
「五十歳過ぎてまでライブのステージに立っている自分の姿を想像しがたい」というウィルにとって音楽はもはや最優先事項ではなくなっているようだ。また「ほかの人間(企業)がつくった製品をエンドースするのと、自分の手で何かを創り出すのとは大違い。ウィルの場合は、単なるエンドースメントはかえってリスクになる」という関係者の指摘も見られることなどから、325ドルもするカメラ・アクセサリーがたとえ売れずに終わっても、また何か新しい(たぶん、へんてこな)ものを手に世間の前に姿をみせる可能性が高そうだ。
【参照情報】
Will.i.am: Corporate America's hit machine - Fortune
Mobli adds Leonardo DiCaprio as advisor and investor, looks for help with branding - Venture Beat
Simon Cowell and Will.i.am to launch 'X Factor for Tech' - WIRED UK
Will.i.am launches i.am+ to ‘turbocharge iPhone camera’ - Telegraph
Will.i.am: the evangelist for technology is 'dreaming what the future will be' - Telegraph
Will.i.am: the player - Financial Times (FT)