人気トークショー『エレンの部屋』などで知られるコメディアン、エレン・デジェネレスがHollywood Reporter誌(THR)最新号の表紙を飾っている。

The Booming Business of Ellen DeGeneres: From Broke and Banished to Daytime's Top Earner - THR

「エレンはどうやって昼のテレビ番組でトップをとったか」("HOW ELLEN WON DAYTIME")という大文字の見出しも躍るこの表紙、右上隅には「特別拡大号」("SPECIAL DOUBLE ISSUE")の一文も見える。つまりこの号は、9月にいよいよ新シーズンの幕が切って落とされる米テレビ業界にとっての「新年特大号」といった位置づけのもの。そしてその表紙を飾ったエレンは、押しも押されもせぬ「ハリウッド(米芸能界)の顔」的存在になったということだろう。

エレン(2011年の年収約5,300万ドル)がいまや超一流のアーティストやプロスポーツ選手と比肩する年収を稼ぎ出す人気タレントとなっていることは、以前の話のなかでも少し触れた通り。THRのこの長い特集記事のなかでは、そんなエレンの人気の秘密や、彼女が関わるビジネスのことなどが事細かに記されている。

エレンが「昼の時間帯の女王になった」というのは、直接的にはオプラ・ウィンフリーが「昼のトークショー番組はもうやらない」となったから。何十年間も君臨してきた女王の「退位」に伴い、エレンが繰り上がりで新しい女王になった格好だが、『エレンの部屋』("Ellen DeGeneres")だけで昨シーズンに8100万ドルもの広告料を稼いだというのだから、その人気はただものではない。

なお『エレンの部屋』の平均視聴者数は320万人、番組ごとの広告収入の額ではオプラ・ウィンフリー・ショーにつづいて全体で第2位。さらにほかのトークショー番組に比べて、学歴も高く、おサイフに余裕のある女性の視聴者が多いのも特徴というのだから、いろんな企業が放っておくはずがない。

ちなみに、自分自身を「ブランド化」して、それを核にさざざまな事業を手がけるというやり方では、オプラや、それにマーサ・スチュアートといった先達がいる。こうした大ベテランが経営者としてそれぞれ苦戦している、といった話を目にするとハリウッドのセレブも大きな交代期にあるのか、といった気がしなくもない。

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さて。このTHRの記事には、今年10年めのシーズンを迎える『エレンの部屋』の人気ぶりがうかがえるエピソードが紹介されている。視聴者だけでなく、ゲストとして登場する有名人の間でもとてもウケが良く、仲良しのジャスティン・ビーバーはもう12回も登場しているとか。

いまではそんな人気者のエレンも、15年ほど前に同性愛者であることを公にしたあと、ほぼ3年間も仕事がなくて破産しかかったという。この大ピンチをどう乗り越えて見事に復活を遂げたのかということも同記事に詳しい。ディズニー&ピクサー映画の『ファインディング・ニモ』でドリー役のナレーションを引き受けたのは、このカムバックを目指して準備していた途上のことだったとか。

エレンのこのカミングアウトについて、先輩のオプラは「あれがなかったら、いまほど人気者になって、成功することはなかったと思う」とコメントしている。

なお同性愛の問題についてはなかなか複雑なようで、今年初めに、JC Penneyという老舗デパートチェーンが、ライバルのターゲット(やはり大手の小売チェーン)の広告塔だったエレンを引き抜いて、自社の変身をアピールする新たな顔に起用しようとした際にも、"One Million Moms"という保守派のグループから反発の声があがり、不買運動の脅しをかける、という出来事もあった。

さて。そんなガッツの持ち主であるエレンも、やはり万能というわけではないようで、『アメリカン・アイドル』の審査員は結局1シーズンしか続かなかった。当人曰く「人のことを判断したり、時には相手の気持ちを傷つけてしまうというのは、私には難しいこと」だそうだが、THRが7月末に結果を公開していたアンケートでは「審査員をやるのはやはり成功した音楽アーティストでないと」という意見が9割にのぼったというから、どうやら本人の得手不得手の意識とは関係なさそうにも思える。

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なお、エレンは若い頃、スタンドアップ・コメディアンの道を志す前には、ホームデザイナー("home designer")になることを夢見ていたこともあったそうで、いまでも「いつか、やるわ」というつもりでいるらしい。また実際に友人たちから頼まれることが今でもよくあるという。ひとつ「なるほど」と感心してしまったのは、よい不動産物件を探し出す才能があるというところで、この記事のなかにはロサンゼルスに引っ越そうとしていた知人がエレンによさそうな物件の紹介を頼んだところ、「1日に最低でも8軒くらいの物件情報を、しかも詳しい説明付きで送ってきた」というエピソードも紹介されている。ライアン・シークレスト(『アメリカン・アイドル』の司会を務めるMC)も、エリック・シュミット(Google会長)も「あのエレンが選んだ物件だったら……」というある種の安心感(?)から彼女の所有していた邸宅を購入したのかもしれない。