【コラム】

山田祥平のニュース羅針盤

52 会話で蓄積されたビッグデータが女子高生「りんな」を大人にする

 

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MicrosoftのHsiao-Wuen Hon氏

マイクロソフトの研究機関Microsoft Reserch Asia所長であり、同社副社長でもあるDr. Hsiao-Wuen Hon氏が来日、MicrosoftにおけるAI分野での研究・開発の取り組みについて説明した。

同氏の説明によれば、マイクロソフトはAI領域に関するさまざまな研究開発を継続しているが、それを集約するものとしてChatbotをあげる。中国では「XiaoIce」、日本では「りんな」と呼ばれるボットが公開されている。「りんな」については、マイクロソフトの女子高生AIとしてLINEアカウントを取得しているので、友だちになっている方もいるかもしれない。

「りんな」や「XiaoIce」は、マイクロソフトのあらゆる研究開発成果を集約するものとして日々成長を続けている。現在では、画像も会話のバリエーションに加わっている。AI的な存在としては、SiriやGoogle Nowが知られているが、これらはタスクをこなす効率志向のボットだ。でも「りんな」は違う。まずは、ソーシャルなフレンドを目指し、そのあとに、効率についても追及することが想定されている。

Hon氏によれば、AIはマッチングの技術の粋であるという。クエリーに対するマッチングが会話という形になる。そのためにりんなは過去にかわされた膨大な量の人と人との会話を収集、さらには、りんなと人との会話も蓄えている。そして、これらの会話データが他のユーザーとの会話にも役立てられるわけだ。特に、中国でXiaoIceが登場してから1年以上が経過し、会話データもずいぶんたまっているということだ。

「りんな」の進化のこれまで

特徴的な面として、人間は話す内容がそれほど変わらないという点に注目する必要がある。これこそが、ビッグデータが重視されるゆえんだ。たとえば、画像をりんなに見せると、りんなは同じような画像が過去になかったかどうかを調べ、それに対して、人はどう反応したかを見つけてして反応する。つまり、人間が過去につぶやいたコメントを探してくるわけだ。だから、画像を理解するだけではなく、それに見合った反応ができる。文章にしても同じで、それに見合った画像を返したりもする。

顔認識技術も貢献している。たとえば犬の写真を見せたとしよう。すると、りんなはデータベースをマイニングし、それに対する会話をレスポンスする。書籍も約1,000万冊分のデータが入っていて、タイトルや読者層も把握、ファッションなら、衣服の種類や記事のことを知り、背広やシャツといったスタイルも熟知している。

Hon氏は、将来的にりんながエージェント化することも想定しているようだ。最初は人と人との会話から始まっても、途中からショッピングアドバイザーのような役割を果たし、いつのまにかショッピングサイトに誘導するようなことも考えているらしい。りんなの未来は、まだまだ表面さえ削り切れていない。もっともっとエモーショナルなコネクションが可能だと同氏はいう。

Skype翻訳の技術も応用される。これは、スピーチからスピーチへの翻訳だ。これもまた、データが増えれば増えるほどシステムが改善できる。また、How-Old.netのように、人の顔写真から年齢をあてるインテリジェントクラウドサービスは、イメージ分析のAPIを使い、たった10行程度のコードで作れるという。その運用から、人は笑っていると5歳は若く見えるといったこともわかったらしい。そのオブジェクト・ディテクションの技術は、りんなにも活かされ、今後は、彼女は写真も理解するようになるだろう。最新の研究では、ビデオ動画の中に出現するオブジェクトの種類を認識する技術も実用化されようとしている。

人の顔写真から年齢をあてる「How-Old.net」。このサービスは、たった10行程度のコードで作られているという

Windows 10では、Always on Mic というテクノロジーが紹介されている。これは、スリープ状態にあるPCに話しかけるときに、ボタン操作などが不要になるというものだ。ここでは話者認識の技術も使われている。誰が話しかけているかを認識し、PCの持ち主以外がしゃべっても無視する。コルタナがこの技術を取り入れた形でWindows 10に実装されているのはよく知られている。

Hon氏は、AIとマシンラーニングとビッグデータは、95%が重なった領域の研究であるとする。つまり、データがなければAIは存在しえない。1950年代の新聞記事をHon氏は提示し、過去において、人間は強力なキン肉マンを作ることができた。空も飛べるようになった。だが、将来的にはそのキン肉マンが頭脳を持つだろうという。

機械にはいろいろなことができる。だが、それをチョイスするのは人間だ。AIは危険だという論調もあるが、その心配はないとHon氏。人間のクリエイティビティはきわめてすぐれたものであり、マシンはルーチンワークを代わりにやっているにすぎない。今のところ、マシンが新しいアルゴリズムを書くようにはなっていない。どんなものでも悪の手にわたればたいへんなことが起こる。クルマにしても、飛行機にしても、そして、コンピュータにしてもだ。でも、それは機械のせいじゃない。

1950年のTIMEの記事を引用。筋肉超人な機械には慣れたが、人を超える頭脳を機械が持つのは怖い……

誰も見たこともない、考えたこともない発想が世に広まるのに5分はかからない。それがコンピューターネットワークがもたらす新しい世界だ。人間には世界中の情報を集めることなどできないが、コンピューターならそれができる。誰かが解決できたことは、集合知となるのに5分もあればいい。そして、それをりんなは次の会話に活かす。

ヒューマンとマシンが協調すればスーパーマンになれる。それがマイクロソフトの考える未来のAIの姿だ。

ヒューマンとマシンが協調したスーパーマン。それがマイクロソフトの考える未来のAI

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)

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インデックス

連載目次
第71回 教育IoT、その普及へのハードル
第70回 UQをめぐるややこしい回線
第69回 Androidはそろそろ共同戦線を張っていい
第68回 「名刺の時代」は当分続く
第67回 「紙の印刷」とITの未来
第66回 本当は合理的な「Windows 10 無償アップグレード」
第65回 3割が経験する割れスマホ問題、もっと真剣に考えてもいい
第64回 実質0円の本当の問題は「わかりにくさ」
第63回 LINEのニュースとコミュニケーション
第62回 通信に大切なのは速さだけじゃない
第61回 進撃するもうひとつのレノボ
第60回 VAIO Phone Bizをめぐる「付加価値」
第59回 岐路に立つMVNOビジネス
第58回 8型では小さすぎる、13型では大きすぎる
第57回 【番外編】今年買わなかったもの
第56回 仕事と感情、「りんな」のAIの見せどころ
第55回 だからみんな一太郎を忘れない
第54回 コンピュータをもういちど「みんなのもの」にしてみよう
第53回 紙のインターネット始動 ~ ScanSnap Cloud誕生
第52回 会話で蓄積されたビッグデータが女子高生「りんな」を大人にする
第51回 モノを売る前に、知識を売る - ヤマダ電機新店舗「Concept LABI TOKYO」の戦略
第50回 携帯料金値下げ指示の懸念、安いのにも高いのにもそれなりの理由がある
第49回 パナソニックの電子マネー端末が100万台、市場倍増を見据え何が起こる?
第48回 Imagine Cup日本予選、栄誉を勝ち取ったのは…
第47回 YouTube Space、東映太秦と組んで何をねらう?
第46回 Googleがインターネットの正義の味方大募集中
第45回 ノートPCから映像出力端子が消える?
第44回 学校・地元・家族自慢、小学生がパワポでプレゼン
第43回 変わることを目指す日本HP、最重視するのは「モビリティ」
第42回 何年も本当に代わり映えしなかったパソコン、いま再び変化の芽生え
第41回 「Yahoo!検索大賞2014」発表、「急上昇」を初選出
第40回 「デバイスを守る」から、「ユーザーを守る」へ
第39回 感動する心を持ち、感動した理由を考え抜く - Googleのデザインコンテスト
第38回 いつでもどこでも誰でもOffice
第37回 日本マイクロソフトが"新しい働き方"に挑戦する意味
第36回 「WiMAX 2+」がキャリアアグリゲーション対応に、移行のメリット
第35回 新「YOGA」に見る、パソコンの存在感を取り戻そうとするレノボ
第34回 KDDIの異色のスタートアップ支援、参加チームが決定
第33回 増えすぎたWi-Fiデバイス、これからも"つながる"ために
第32回 Xperiaが目指すSony Now
第31回 Googleで渋谷の街を丸ごとサーチ
第30回 脱ガラパゴスで世界に挑戦する「AQUOS CRYSTAL」
第29回 そうだったのか総務省、彼らが仕事を急ぐ理由 ~ IIJmio meeting #4より
第28回 UQの新しいWiMAX2+モバイルルータ「HWD15」が発売に、WiMAX2+の向かう先
第27回 事業部直営のリアル店舗でサービスを模索するLet's note ステーション
第26回 海の家に象徴されるレノボのコンシューマー戦略への覚悟
第25回 マイクロソフトが支援するモノ空間サービス
第24回 デコして満足、男子より花
第23回 ぶっちゃけ発言続出だった日本マイクロソフト2015年度経営方針記者会見語録
第22回 「リアサカLIVE」でサッカーW杯を楽しんでみる
第21回 Microsoftの「IoYT」、小さなものから大きなものまで身近なものからつないでいこう
第20回 COMPUTEX TAIPEI 2014会場で見つけた2つのビックリ
第19回 Centrino リターンズ - Core MとXMM-7260に感じる11年前のデジャブ
第18回 Intel " M" リターンズ - Core MはPentium M以来の革命を起こせるか
第17回 auとUQがもくろむもうひとつの"キャリア"アグリゲーション
第16回 ドコモのVoLTE、音はいいけどただの内線?
第15回 刷りホーダイ & 刷りあえるスマートチャージ
第14回 横浜F・マリノスをバージョンアップするアディダスのウェアラブルデバイス
第13回 Windows Phoneは、第三のモバイルOSになれるのか
第12回 IIJがアピール「ドコモだからといってどこでも同じではない」
第11回 ビッグローブはほぼ大手キャリアをめざすのか
第10回 Office for iPadが担うMicrosoftのデバイス&サービスカンパニー戦略
第9回 コンビニサービスで痛感する「あると邪魔」と「ないと不便」
第8回 親のスマホを子どもが独占、本当にそれでいいの?
第7回 プラチナバンドの時代は遠く
第6回 スマホとプリンタに婚活を促す出会い系アライアンス
第5回 プロが土足で踏み込むアマチュアの聖域
第4回 定番の呪縛をサムスンはどうUnpackするのか
第3回 VAIOを捨てたソニーの覚悟
第2回 Windowsのために一歩進んで二歩戻るMicrosoft
第1回 YouTubeコンテンツとGoogleの関係に変化の兆し

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