今回のテーマは「お風呂vsシャワー」だ。

実に明快なテーマだ。今すぐシャワーを「甘寧一番乗り」みたいな感じで振り回し、ヘッド部分で風呂を10回ぐらい殴打してみるといい。恐らく、シャワーの方が先にイカれるだろう。しかし、浴槽の方もヒビぐらいは入っているはずだ。修理費としては、シャワーよりも浴槽の方がヤバイと思う。よって、「お風呂vsシャワー」により、持ち主に甚大なダメージを与えるのは風呂であり、風呂の勝利、ということになる。

信じられないかもしれないが、私は毎日風呂に入っている。ここ数回、いかに己の部屋が汚いかを書かされたので、風呂なんか、よほど調子のいい日かいいことがあった日にしか入らない人間だと思われているだろう。もちろん、調子のいい日やいいことがあった日なんて存在するわけないので、実質「風呂に入らない人」である。

だが、何かの間違いで風呂には毎日入る。だが、本当に入るだけである。面倒くさがりな人間というのは、その内容より、「掃除した」とか「風呂に入った」とかの事実に重きを置く。むしろ、「風呂に入った」と言えるなら内容はどうでもいいのである。

つまり、巧みにゴミを避けながら掃除機をかけ、何ひとつ吸いとっていなかったとしても、「掃除機をかけた」つまり「掃除をしたのだ」と他人にアピり、更に自分自身にも、「今日掃除したから、向こう5年はしなくていい」と、納得と安心を与えるのである。よって、私も毎日風呂に入ることによって、「そうは言っても、毎日風呂に入っているんだから大したものだ」ということにしているのだ。

ちなみに私の風呂の定義は、湯船につかって、顔を洗い髪をお湯洗いするだ。もちろん、それ以上をする日もあるが、とりあえずそれさえクリアしてれば「風呂に入った」ことになる。我ながらハードルが少し高すぎるので、「全裸になった」もしくは「全裸にはならず湯船に浸かった」でも、「風呂に入った」とジャッジしてもいいかもしれない。

入浴時間は大体10分だ。むしろ、10分以内で出なければいけない。なぜなら、風呂に入る前に、電子レンジでパスタをゆで始めているからだ。そのゆで時間が10分なのである。私は365日中、330日は夕飯がパスタだ。なぜなら、夜パスタを食う以外、一日の楽しみがないからだ。よって、悠長に長風呂し、麺が伸びてしまったら、もうその1日は台無しな上、そこから寝るまで、いいことはひとつもない。

よって、きっかり10分、もしくは少し早く風呂から出なければいけない。そして、風呂からあがってすぐ、ギャンブルの借金で困ってるとか大変な人のブログを見ながらパスタを食う。至福の時間だ。

よって、風呂の時間というのは私にとって「パスタの待ち時間」なのである。ただ何もせずに待っていたら、「まだかな」「まだかな」とそわそわして、電子レンジを開けたり締めたりしてしまうと思うので、風呂に入るのだ。合理的である。

ちなみに、「お風呂vsシャワー」であるが、「どっちも使う」としか言いようがない。むしろ、「何で戦わせようとしたんや」という話だ。湯船にもつかるし、髪を洗う時はシャワーだ。強いて言うなら、湯船にお湯さえあれば、シャワーは最悪使えなくても事足りる。

しかし、そのシャワーが命を救うこともある。風呂に入ろうと、全裸になり浴室に入り、風呂の蓋をあけたら湯船が空だった、という経験が誰でもあるだろう。ないやつは出て行け。ここはお前のくる場所ではない。

夏ならまだいい。しかし、冬なら命の危機だ。暖を取る術なく、真冬に全裸になってるんだから当たり前だ。急いで給湯ボタンを押してもたまらない。5cmぐらいになれば、湯船の底にほぼ水平状態に寝そべり命をつなぐことができるが、そこまでが一刻を争う。そんな時はシャワーだ。

もちろん、すぐ湯が出るわけではない。むしろ、全裸で浴室に飛び込み、湯がないことに気づき、あわててシャワーをひねったら熱湯が出てきて火傷したとなると、それは猿蟹合戦の猿状態である。風呂から飛び出たら次は牛糞が出てくるはずなので、出ない方がいい。

ともかく湯船に湯がたまるまで、シャワーで湯を浴びながらやりすごすしかない。一旦出て、服を着直して、湯がたまるのを待てば、と思われるかもしれないが、すでに電子レンジはパスタをゆで始めているのだ。何としてでも10分以内で終わらせないといけないのだ。

つまり、「お風呂vsシャワー」は「パスタ」のひとり勝ちである。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。