今回のお題は「もし自分の作品がTVアニメ化(ないし実写化)されるとしたら」だ。

実にハードなテーマである。語る方も苦しいが、聞く方もキツい話になることが、開始前から予想できる。

どの作家だって、一度くらいは自分の作品が映像化された時のことを夢想したことがあるだろうし、むしろそれを目標として描いていると言ってもいい。しかし、夢想はあくまで本人の頭の中のみで行うものであって、決して人に語っていいものではない。

映像化が決まってもいないのに、「俺の漫画を実写化するなら、主演は『福山雅治』、アニメならヒロインの声は『大塚明夫』、これは譲れない」などと語るのは、ブスが「つきあうなら松潤だけど、結婚するなら翔くん、ニノはたまに遊ぶぐらいでいいかな(笑)」と言っているのに等しいし、そんな話を聞かされる方だって、まるで両親の初夜をノーカットで見せられたかのような苦々しい顔になってしまうことは容易に想像がつく。

このコラムの読者は紳士淑女のため、それらの方が見たことがないであろう言葉は使えず、明言することはできないのだが、上記のような行為は、はっきり言って作家の自己満足行為、アルファベットで言うところのGである。

もしくは「自家発電」「セルフサービス」「右手との親睦を深める会」「ワンマンライブ2016~明日もやるよ!~」等々、このままでは、いかに検閲に引っかからず表現するかに全力を尽くすことのみで今回のコラムが終わってしまうので、この辺にしておくが、とにかく人に見せるものではない、ということである。

しかし、文字通りワンマンショーなものに観客を入れてもらえる上、原稿料をもらえるなんてまたとない僥倖な気もする。普通だったらこんな話、観客全員にクオカードぐらい配らなければ、暴動が起きる。

カレー沢薫が希望する「映像化」

それで実際映像化のオファーが来た場合、何か希望があるかというと、特にはない。何せ木っ端作家なので、映像化してもらえるなら何でもありがたいのだ。

もちろん生来のオタクなので、イケメン俳優や、女性人気のイケボ声優を使って欲しいぐらいのことは考えると思うが、製作側に「ヒロインは強い女なので曙を起用します」と言われれば「いいですね、そういう冒険はどんどんしてもらいたい」と鼻の下の産毛を撫でながら言うに決まっているのだ。

このように私は、原作が私であるとしてくれるなら、なんでも構わないスタンスである。いっそのこと、アニメ版『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』のエンドクレジットに「原作:カレー沢薫」と入れてくれるだけでもいい。

しかし、作家の中には作品が自分の手を離れて作られることを良しとしない人もいるようだ。確かに、作者が手を放した結果、大幅なストーリー改変、原作にはいないオリジナルキャラの投入などで原作とは似ても似つかぬものになってしまった漫画の映像化作品は決して珍しいものではない。つまりオレのカワイイあの娘(原作)が、映像化するやいなや、健康診断に必ず引っかかることで定評がある中間管理職のオッサンに描き換えられていた、というわけである。

なぜ美少女が中間管理職になるかというと、「何十巻もある原作を1クールのアニメにまとめるのは無理だから、オリジナルストーリーにする必要があった」とか、ドラマだったら、「まずは俳優ありきで、それに原作の方を合わせて作っているから」等の理由があるようだ。

アニメやドラマからその作品に入る人はそれでもいいだろうが、やはり原作ファンとしては、原作に忠実であればあるほど嬉しいものだろう。しかし、私はもし自分の作品が映像化されたら、あんまり原作に忠実にしてほしくないと思う。

私は、自分の漫画の単行本などを、あまり見返すことがない。何故なら「自分が描いた通りの絵」が載っているからだ。たまに「もしかしたら、誰かが気を利かせて描きなおしてくれてるかもしれない」と思って見てみることもあるが、大体残酷にも自分が描いた通りで載っている。このように、私は自分の作品でありながら「他の人が描いてくれればもっとマシになる」と思うことが非常に多いのだ。

実は私の作品がフラッシュアニメ化されたことはある。非常に出来が良く、作者として本当に嬉しく、感動さえしたのだが、唯一「寸分違わず、私が描いた通りの絵が再現されている」という欠点があった。

なので、もし私の作品が映像化されたとしたら、「あんまり原作通りに作らないでくれ。むしろ原作(中間管理職)を美少女に変えてくれ」と言うつもりである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。連載作品「やわらかい。課長起田総司」単行本は1~2巻まで発売中。10月15日にエッセイ「負ける技術」文庫版を発売した。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年3月1日(火)掲載予定です。