前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。

男にとって、女の一番厄介なところは何か――。先日、仕事仲間の男数人でそんな話題に花が咲いたのだが、中でも全員が迷いなく同調したことがあった。

それは突然の不機嫌モードである。

簡単に説明すると、男目線で申し訳ないが、男から見たら女はどういうわけか何の前触れもなく急に不機嫌になることが多い気がするのだ。(あくまで私見です)

例えば一緒に住んでいる夫婦や恋人の場合、男がいつものように帰宅すると、なぜか女の様子がいつもと違うときがある。明らかに表情が暗く、男が話しかけてもまともな返事をしてくれない。「何かあったの?」と訊いても「別に……」としか答えてくれず、あんまりしつこく問いただすと、今度は「うざい」「きもい」といった殺傷能力の高い言葉を浴びせてくる。かといって、放っておいたらいいかといえばそうじゃなく、そうすればするほど不機嫌モードがますます加速していくから厄介だ。

話しかけてもダメ、黙っていてもダメ。かくして、こういう事態に遭遇したときの男はどうしていいかわからず、ただただ胸の中に鬱憤を募らせてしまうわけだ。

当然、僕にも心当たりがある。晴れて結婚が決まり、傍から見たら順風満帆の僕とチーだが、その内実はいまだに三日に一度は大喧嘩を繰り返す激情型カップルだ。

さらにチーが件のような不機嫌モードになるなんてことも日常茶飯事である。チーの場合は怒っているかいないかを見極めるポイントとして、「下唇のめくれ」があるからわかりやすい。本人がどれだけ「別に怒ってないよ」と言ったとしても、下唇がびろろんとめくれていれば間違いなく怒っている。本人は無意識らしい。

こういうとき、世の男の大半もそうだとは思うのだが、僕は真っ先にチーの怒りの理由を探してしまう。「俺、何かしたかな?」と自分の身を振り返り、それでも見当がつかないとなると、今度はチーに理由を訊いてみる。

「ねえ、なんで怒ってるの?」

「別に……。怒ってないよ」

「いやいや、完全に不機嫌になってるじゃん」

「なってないよ。普通なんだけど」

「普通じゃないじゃん。下唇がすごいことになってるもん」

するとチーは大抵の場合、そこで一瞬ハッとした表情をして、慌てて下唇を引っ込める。こうなったら怒っていることを認めたようなものだ。

繰り返すが、これが本当に厄介でならないのだ。チーが怒っていることがはっきりしたため、僕はますます怒りの理由を知りたくなる。理由がわからないと解決のしようがない。僕の目的はあくまでチーの怒りを鎮めることなのだ。

しかし、そうやって怒りの理由を探そうとすることは、どうやら不毛でしかないようだ。先日、僕はチーが上機嫌なときを見計らって、「なぜ女は急に不機嫌モードになるのか?」という質問をあらたまってしてみたのだが、そのときのチーの返答があまりに的を射ていて、僕は絶句してしまったのだ。

「不機嫌になる理由ねえ……。特にこれといった明確なものがあるわけじゃないんだけど、強いて言えばこういうことじゃないかなあ」

チーはそこでいったん含みのある表情を見せた後、強い口調で言った。

「女だから」

なるほど――。思わず膝を打った。返す言葉が見つからない。

「細かく言えばお腹がへってるとか、疲れてるとか、眠たいとか、色んな理由があるんだけど、なんとなく機嫌が悪いバイオリズムになったときに、つい一番信頼している人に当たっちゃうんだよね。要するに甘えてるのよ」

もちろん、これはチーの意見であり、世の女性全般に言えることではないのかもしれないが、女には女特有の生理的且つ精神的なバイオリズムがあり、男と違って不機嫌になることにそこまで明確な理由があるわけじゃない。だからこそ、それを無理矢理にでも説明しようと思うと、「女だから」という言葉が一番しっくりくるわけだ。

要するに、男と女はまったく別の生き物ということだ。一般的に男が不機嫌になるときは何らかの理由があることが多く、だからこそ男は他人の不機嫌にも理由を求めてしまう。しかし、それは男独自の尺度であり、女には通用しないことなのだ。

例えば、犬が猫に対して「なんで雪が降ってて楽しいのに、炬燵で丸くなってんだよ」と不思議がっていたとする。そんなとき、僕はその犬に「だって猫だから」と言うしかないだろう。チーの「女だから」という言葉は、それと一緒なのだ。

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