かつて、GUIはボタンを立体的に見せることで、CUIのような平面的な世界からの脱却を印象づけた。Windows 7まではこの方向性を受け継いで来たが、大きく変わったのはWindows 8の「モダンデザイン」である。Microsoftは「Windows 8.1 UXデザインガイドライン」の中で、モダンデザインを次のように説明した。
「モダンデザインとフラットデザインは同じではない。フラットデザインでは表現できない奥行きや特徴、背景などを含んでいる」。スイススタイルの呼称でも有名な国際タイポグラフィー様式を基軸に、視覚的なアプローチを行うのがモダンデザインであると定義した。
なぜ、この話から始めたのかいえば、今後Windows 10が実装する「フルエントデザイン (Fluent Design System)」もフラットデザインを否定する存在だからである。Microsoftは6月下旬に公式ブログで、「古いフラットデザインから流暢 (Fluent) なデザインに移行するために、Composition APIによるビジュアルとパフォーマンスと、これらの機能を引き出すXAMLレイヤーが欠かせない」と説明している。
UWP (ユニバーサルWindowsプラットフォーム) 開発者は、XAMLやC#など既存技術とともにFluent Design Systemが提供する視覚効果などの演出が実現可能になるという。すでに、Windows 10 SDK ビルド16190には、NavigationViewやTreeViewなどがWindows.UI.XAML.Controls名前空間から利用可能になった。
MicrosoftはFluent Design Systemについて、Windows 10 Fall Creators Updateで完成するものではなく、数年掛けたプロジェクトであることを表明している。そのため前述の公式ブログでは新たな機能として、SVGファイルのサポートや、Composition APIのコアコンポーネントとなるCompositionVirtualDrawingSurfaceの強化、ビジュアルオブジェクトをアニメーションで切り替えるSetImplicitShowAnimationなどの追加をアピールした。現時点でFluent Design Systemは開発者が学び、自身のソフトウェアに効果を組み込んで行く段階のため、我々エンドユーザーが恩恵を受けるレベルには至っていない。
Microsoftはサイズが異なる各デバイスで同じWindows 10が動作する環境を作り上げたが、どのデバイスでも同じUXの実現と、一貫したガイドラインが必要なため、本プロジェクトを開始した。我々は光や奥行きに目が行きがちだが、Fluent Design Systemの重要性はスケールにあると筆者は考える。UWPアプリケーションの2次元から、MR (複合現実) であるMicrosoft HoloLensやWindows Mixed Realityの3次元のように、多次元で展開可能なUIデザインに対応するために欠かせない要素だからだ。
HoloLens用2DアプリケーションはWindows 10でも利用可能なUWPアプリケーションのため、普段使い慣れたモノをヘッドマウントディスプレイを通じて操作する (インタラクティブな3Dホログラムを利用するアプリケーションは排他的で、他のアプリケーションは同時利用はできない)。このように、PCやスマートフォン、ヘッドマウントディスプレイなど異なる状況で、同じUWPアプリケーションから得るUXを統一するため、スケールという要素が重要性を増すのだ。
振り返るとMicrosoftは、モダンデザイン (Windows 8.x) やWindows Aero (Windows Vista / 7) とWindowsのデスクトップを彩ってきた。同社はUWPにおいてレイアウトや文字体裁や配色などの形式、コントロールやパターンなどを定義してきたが、Fluent Design SystemはUWPデザインシステムを一歩先に進める存在と認識すべきなのだろう。今後の開発でFluent Design Systemがどのように進化し、最終的にはUWPデザインシステムの1要素に吸収される可能性もあるが、MicrosoftがWindows 10利用者にどのようなUXを提示するのが興味深い。
阿久津良和(Cactus)