逆に言えば、ターゲットが曖昧ではリターンの設定もできず、そのプロジェクトは失敗に終わる可能性が高いということ。中山氏は「インターネットは何にでもつながるツールであると同時に、誰にもつながらない“陸の孤島”でもある」と称していたが、クラウドファンディングに限らずネットはユーザーの顔がダイレクトに見えづらい。自分たちのコンテンツを求めるターゲットをしっかりと見定め、戦略を立てることが必要不可欠。

顧客の応援は最大の宣伝

そして「作り手の熱意が伝わらないのも、失敗することが多い」と中山氏は言う。現に『この世界の片隅に』のエンドロールでは「クラウドファンディングありがとう」の文字と共に多くの支援者の名前が載っていた。しかもエンドロールにただ流れるのではなく、名前を一時停止して見せるという心遣いに、作り手の“思い”を感じた。

さらに、顧客の“熱”を冷まさないことも『この世界の片隅に』のヒットにつながった要因。「資金のみならず、いかに“応援顧客”を作るか。初期のアンバサダー顧客の応援がヒットにつながった」(中山氏)。制作初期を支えたファンの熱量は途切れることなく拡散。第2弾プロジェクトでは、海外渡航のレポート冊子や報告イベント参加券などがリターンとして出資者に提供されたという。

最後に、中山氏はこう締めくくった。「資金や制作、意見出し、宣伝、すべてを満たすのがクラウドファンディング。どの部分の実現を応援者にゆだねるかがポイントになる。そして、ファンがもはや制作チームの一員となり、自分たちが関わったコンテンツをいかに“ドヤ顔”で紹介してくれるかがカギ。作り手にとって出資者は、一緒に船に乗る共犯者でありパートナーだ」と。

今やクラウドファンディングは、資金調達のプラットフォームであると同時に、最大の宣伝ツールにもなり得る。そして出資というダイレクトな支援により、自分は直接手を動かさずともモノ作りの一端を担い、完成までの一部始終を目撃することができる。モノづくりの新しいカタチが、ここにある。