2016年のNAMM Showで発表されて以来、多くのシンセサイザーファンから注目を浴びていた完全アナログ・サウンドのモンスターシンセサイザー、ARTURIA「MatrixBrute」が今春遂に日本国内でも登場する見込みだ。本レポートでは、国内発売を控え東京・青山のRed Bull Studios Tokyo Hallにて先日開催された体感イベントの様子をお伝えすると共に、その気になるサウンドや機能の詳細についてお届けしよう。

ARTURIA「MatrixBrute」は、3基のオシレーターをはじめ、Steiner- Parkerフィルター、ラダー・フィルター、5系統のアナログ・エフェクトなどを搭載し、さらに強力なモジュレーション・マトリクスを採用したモンスター級のアナログシンセサイザー。オーディオ・パスは、エフェクターを含め100%アナログとなっている。なお、国内販売予想価格は25万円前後

最高レベルに太い音のオシレーターによる完全アナログ・サウンドを実現!

イベント冒頭登場したのは、のテクノポップ・ ミュージシャン/音楽プロデューサーのYasushi.K氏。同氏からは、「MatrixBrute」の基本的なシステムの概要や操作方法などに関するレクチャーが。まず、同氏が強調したのがMatrixBruteならではの最高レベルに太い音を生み出す3基のオシレーター。各オシレーターは、ノコギリ波、パルス波、三角波を内蔵しており、メタライザーなどのウェーブシェイプ機能により、Bruteならではの強烈なサウンドを生み出すことが可能となっている。なお、VCO3はオーディオ信号を出力すると同時にLFOのモジュレーション信号も出力できる。また、LFOには7種の波形とトリガー・モードに対応したLFO2基とVCO/LFO兼用タイプの合計3系統、エンベロープはADSRエンベロープ2基と先頭にディレイを加えたDADSRエンベロープの合計3系統、 さらにサウンド作りの要となるフィルターにSteiner-Parkerフィルター/ラダー・フィルターなどを用意。「考え得る限りの複雑なモジュレーションとエンベロープにより、多彩なサウンドメイキングを実現してくれる」とのことである。さらに、本体左サイドに配置された256個ボタンで構成されたマトリクスは、モジュレーション設定や64ステップシーケンスの作成、プリセットの呼び出しも兼ねており、その軽快かつ直感的な操作性をデモンストレーションを交えながらアピールした。

Yasushi.K氏は「MatrixBruteとの圧倒的なルックスを恐れることなく、まずは実際に触れてみて欲しい。LCD画面や階層化されたメニューを利用することなく、すべてをパネル上のノブやボタンでダイレクトに操作できる。見た目以上に操作が簡単で、すぐに思い通りに音作りが行える!」と力説した

図太いサウンドはもちろん汎用性の高いサウンドメイキングが可能

続いては、スペシャルゲストとしてbeatmaniaI、Dance Dance Revolution、pop'n musicなどの楽曲制作でも知られるコンポーザーのSota Fujimori氏が飛び入り参加! 同氏は、「MatrixBrute」の中でもとくに、マトリクスおよびシーケンサーの機能がお気に入りと伝えると、自身で制作したオリジナル音色をベースに、リアルタイムにステップシーケンスを入力すると共に、さらにLFOやフィルターよる音色変化などを付けるといったデモンストレーションを披露した。さらに、3VCOのピッチをそれぞれド/レ/ソに設定したアナログ・リードサウンドの紹介や、外部シーケンサーを利用して平均律から解放された音階を演奏するといった、シンセサイザーマニアの同氏ならではのテクニックも解説していった。

「MatrixBruteは、とにかく音が太くてアナログ感がイイ!もちろん図太いサウンドを活かしたリードやベースにも最適だが、それだけでなくパッドやSEなど多彩な音色にも使える高い汎用性を備えるもの魅力。「MatrixBruteさえあれば、他のアナログシンセサイザーは必要なくなるのでは?(笑)」と、Sota Fujimori氏もMatrixBruteを評価した

イベント後半、「MatrixBrute」の開発には当初から深く関わっており、プリセット音色の作成も手掛けた氏家克典氏が登壇。MatrixBruteに内蔵されたプリセット音色からピックアップした多数のサウンドをデモンストレーションを交えながら「すべての音には、すべてストーリーがある」として次々に紹介した。MatrixBruteには、世界中のトップ・プログラマーが作成した、聞いても弾いても最高に気持ちいいサウンドが満載。特に、本体左サイドのモジュールデザインホイール横にある4つのマクロ・エンコーダーと、VCOセクション下部にあるAUDIO MODセクションは、触るだけでアナログシンセサイザーならではの大胆なサウンド変化が楽しめるようになっている。まずは、プリセットを演奏しながらMatrixBruteの魅力を堪能してみるのがオススメとのこと。最後に、Yasushi.K氏、Sota Fujimori氏がステージ上に再登場し、3人のキーボーディストによるMatrixBruteをフルに活用したパフォーマンスが行われ、会場がさらなる盛り上がりを見せる中イベントは幕を閉じた。

セミナー中にも「MatrixBrute」を演奏しながら、そのサウンドに「最高!」とのコメントを連発。同氏が制作したサウンドも、16音色がプリセットとして収録されているとのこと。「完全アナログのためサウンド切替時の数秒のタイムラグがあるのも愛らしい!!」と氏家氏

なお、会場には、「MatrixBrute」の実機がハンズオンできる状態で展示されており、多くのイベント来場者で賑わっていた。実機はイメージするよりコンパクトでパネル部を寝かせると、平面状に設置することも可能となる。気になるサウンドについてはまさに圧巻の一言であり、アナログシンセサイザーを知る世代には懐かしくも心地よい、デジタルシンセサイザー世代には未知のトゥルーアナログサウンドを体験できる1台。一見複雑そうにみえる操作パネルも、それぞれが美しく機能的にレイアウトされているため、シンセサイザーの基本的な知識さえあれば、音作りの際に迷うことも少ないだろう。一方、マトリクスのモジュレーション設定などは、独特の操作方法を覚える必要も多少ありそう。シンセサイザー好きの方なら、ぜひとも一度は触れていただきたい現代の最新アナログシンセサイザーだ。

多数のノブとボタン、e-inkディスプレイなど整然とレイアウトされたパネルは圧巻。宇宙船のコクピットを彷彿とさせる、そのデザインは男心をくすぐること間違いなし!回すだけでご機嫌なサウンドが得られる同社アナログシンセサイザーでお馴染みの「Brute Factorノブ」も健在だ。多数の入出力端子を備えており、流行のモジュラーシンセサイザーのハブとしても活用できる

完全アナログサウンドを実現しながら、PCと接続することで専用ソフトウェア「MIDI Control Center」から自動認識され、PCによるプリセットサウンドの一括管理が可能になっている点も、多数のソフトシンセを手掛けるARTURIのアナログシンセサイザーならではといえるだろう。ファームウェアも日々アップデートが行われており、今後のソフト的進化や追加音色ライブラリの登場にも期待大!