子どもの理系脳、文系脳って本当にあるの? その分かれ道はいつ??※写真はイメージ

理系脳、文系脳という言葉を最近よく耳にする。親としては、子どもの可能性を最大限に伸ばしてあげたいが、その分かれ道はいつなのだろうか?「個別指導教室 SS-1」代表で、中学受験や家庭学習に関する本を数多く執筆している小川大介先生に聞いてみた。

理系的、文系的な子どものタイプとは?

子どもは十人十色。計算が速くて数字に強い子もいれば、言葉に関わる表現や記述が得意な子もいる。

小川先生の定義によれば、理系的な考え方とは「不要な情報を削って、優先度の高い情報を選び、最も密度の濃い言葉ともいえる"数字"にまとめる考え方」を指すという。一方、文系的な考え方は、「物事を具体的にとらえ、関係する情報を集め、想像して膨らませ、頭の中の引き出しに情報をストックして使う考え方」と捉えられるのだとか。

例えば、「子どもが3人いる」という状況を伝える時、「3人」と表すのが理系的表現で、「花子ちゃんと健太郎くんと次郎くんです」と説明するのが、文系的表現だという。

理系・文系の分かれ道はいつ?

気になる理系・文系の分かれ道について尋ねたところ、小川先生は「新たに何かを学ぶうえで、何歳までにやらないと手遅れということはありません」と前置きしたうえで、「8~10歳になると、"自分はこうだ"と強く思い始める傾向があります」と説明する。

この頃から、「やっぱりあなたは●●が苦手ね」と言われることで、子どもの中で、セルフイメージが強く出来上がり、脳の使い方を固定させてしまうことがあるという。そのため、できないことを親が決めつけるのは、避けた方が良いそうだ。

理系・文系のタイプは、「遺伝が影響する部分もあるが、外的環境の影響の方が大きい」と小川先生。日々接している母親の不得意科目が似てしまうこともあるそうだが、その場合は、親がどのような過程でその科目を嫌いになったのか思い出し、子どもが同様の過程でつまずかないよう、サポートすると効果的だという。

「例えば塾の先生や夫など、その科目が得意な人から、子どもと一緒に勉強を教えてもらうのも良い方法です」。教わる過程で、母親が「この問題文からどうしてこの図を導き出したの?」など、子どもであれば気づきにくい鋭い質問をし、親子で一緒に理解していくことで、子どもの算数の習熟度が上がることもあるそうだ。

理系・文系に分けることはナンセンス!?

ただし、小川先生は「そもそも、子どもを理系と文系の2つには分けられません」と強調する。算数と理科が得意な子が理系、国語と社会の成績が良い子が文系という分け方は、現代の子どもたちの教育にマッチしていないからだ。社会の地理は、統計データに関わる点で科学的思考力が不可欠であるし、理科の生物分野に関心を持てる子は、文学的感受性が豊かであることが多い。

この視点は、実社会に近づくほど明らかだ。例えば、文系の法学部を卒業した弁護士も、情報を整理し、法律という枠組みの中で、論理的に当てはめる作業には、数学的な能力を使っている。また、理系の医学部を卒業した医師も、患者とのコミュニケーションには、物事をより具体的に捉えて、分かりやすく説明する文系的な能力が求められる。

他にも、経済学には数字が必須だが、経営者には人の心に働きかけるコミュニケーション能力や、人を観察し、相手の気持ちを想像する力という点で、文系的側面も必要とされるだろう。つまり、どちらの頭の使い方を好むかの特徴で分けると、文系的・理系的というだけであって、人間が育つうえで、当然ながら必ずどちらも大切な要素なのだ。

将来安定した職に就けることを期待し、子どもを理系の道に進めたいと思う親も、最近は多いかもしれない。しかし小川先生は、「両方の基盤を持ったうえで、自分がやりたいと思うことを決め、それを実現させるにはどちらの考え方をより多く使うのかを見極めることが大事。文系的・理系的な力のバランスをとることが大切」と語る。

理系脳・文系脳を突き詰めるよりも、今、世の中に求められているのはどのような人材なのか、20年後も活躍し社会に貢献できるのはどのような力を持っている人なのか、そして、子どもがどのような道を進みたいと願うのか、考えることが必要なのかもしれない。


小川大介先生 プロフィール

「中学受験専門 個別指導教室 SS-1」代表。1973年生。京都大学法学部卒業。大学在学中より大手進学塾で受験国語の指導を開始し、最難関の灘中コースを担当。2000年より関西、東京に「個別指導教室 SS-1」を展開。コーチング技術や心理療法的なアプローチを取り入れた指導に定評がある。最新著書『もう悩まない中学受験』の他、『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』、『中学受験基本のキ!』など著書多数。