ソニーがCES 2017で、大画面の有機ELテレビ「A1Eシリーズ」を発表した。この製品、高画質にこだわっただけでなく、実はパネルから音が出る、しかもとびきりいい音で。こうしたハイクオリティへのこだわりを、BRAVIAの開発に携わるソニーの長尾和芳氏に尋ねた。

ソニービジュアルプロダクツ 企画マーケティング部門 部門長 長尾和芳氏。有機ELテレビの開発にも携わった

ソニーは2008年に初の有機ELテレビ「XEL-1」を発売。あれからおよそ10年の時を経て、再び有機ELテレビを開発する理由は、大型サイズの有機ELパネルの画質が向上してきたことだけではない。それに加えて、ソニーが誇る高画質エンジン「X1 Extreme」が完成し、理想的な映像チューニングができるようになったからだという。

X1 Extremeは、2016年に発売された4K HDR液晶テレビのフラッグシップ「Z9Dシリーズ」にも搭載されたエンジンだが、「もともと液晶に限らず、有機ELも含むあらゆるデバイスを想定してつくりあげたエンジン。許容値を広く持っている」と長尾氏は語る。その豊かなパフォーマンスを土台に、有機ELが持つ特性に合わせて丁寧に画づくりを行ったモデルが、「BRAVIA OLED」として今回のCESで発表したA1Eシリーズなのだ。

有機ELの特徴を活かした引き締まった黒色、自然な色合いは「X1 Extreme」エンジンの高いパフォーマンスが実現している

持ち前の映像技術を有機ELに最適化

ソニーの平井一夫社長は、CESの会場で実施した記者会見で「有機ELと液晶、どちらかが上下の関係にあるデバイスではなく、それぞれの持ち味を活かしたBRAVIAのラインナップが広がったと捉えてほしい」と呼びかけている。

A1Eシリーズには、X1 Extremeのパフォーマンスを活かして、Z9Dシリーズにも搭載された「HDRリマスター」の技術を搭載。テレビに入力されたSDR、HDRの映像信号をそれぞれ有機ELのパネルで高画質に再現できるようアップコンバート処理をかけて画面に表示する。

映像の精彩感も、画面に表示されている被写体をオブジェクトごとに解析して超解像処理を施すことで、しゃきっとした切れ味のよい映像を画面に表示する。パネルが持っている性格に合わせて処理を最適化したことで、精細感に加えて色味や明るさもさらに一皮むけるのだという。

夜景も画面が黒浮きせず、X1 Extremeプロセッサーがノイズ成分を正確に抽出しながら低減することによって、リアルな空気感を伝えてくる

ソニーが長年のテレビ開発で培ってきた超解像処理と、ノイズ低減処理を最適化してリアルタイムで処理する「デュアルデータベース」も、有機ELテレビに合わせて最適化。明部・暗部にノイズが乗らず、透明感溢れる映像をリアルな空気感とともに再現する。用意した映像モードの種類も液晶テレビと同じだが、その一つずつに対して、有機ELテレビに合わせたチューニングをやり直す手間をかけながら、画質を練り上げてきた。

「画面から音が鳴る」仕組みとは

A1Eシリーズは「画面から音が鳴る」大画面テレビだ。その仕組みは、振動を生成する「アクチュエーター」を、背面カバーガラスに密着させるかたちで左右に2基ずつ、合計4基を内蔵するというもの。入力された音声信号に合わせてフロントパネルを震わせ、音を鳴らす。

これがアクチュエーター

アクチュエーターは背面カバーガラスの上、真横に配置されたケースの中に収納されている。ケースの搭載位置は、上下でいうとやや上寄り。テレビの音響技術を担当したサウンドエンジニアによれば、「アクチュエーターを取り付ける場所や、パネルを振動させる方法にノウハウが隠されている。パネルが独自に持っている課題も含めて考え、取り付け位置のカット&トライを繰り返しながらベストポジションを見つけていった。場所を誤ると、音が曇ってしまったり、定在波を生む原因になる」のだという。

有機ELテレビの背面。アクチュエーターが振動して、背面カバーガラスを支えにしながら表側のパネルを震わせて音を生む

画面から音が出るという仕掛けは、決して奇をてらうことを狙ったわけではないという。たとえば、映画館で作品を鑑賞するとスクリーンから自然に音が出る感覚が味わえる。一般的な薄型テレビは、画面から下に、あるいは背面に向かって音が出るので、映像と違う場所から音が出ているような違和感がある。より自然な音の定位感と、音場の広がり感を求めた結果、パネルを鳴らすという発想に辿り着いた。

スタンドは本体の背面にレイアウトし、卓上カレンダーのように画面を立たせるデザインとした。コンセプトは「ワン・スレート (一枚岩)」。視聴者は高精細な映像が宙に浮かんでいるような体験を味わえる。画面から音が出る「アコースティック・サーフェス」の効果は、音と映像を掛け合わせてコンテンツに深く入り込む効果を演出。なお、スタンドには厚みのある低音を再生するためのサブウーファーユニットが1基組み込まれている。取り付け位置はスタンドの上側で、壁掛け設置の際にはスタンドを折りたたんで、低音再生に影響が出ないよう音場モードの設定を調節できるようになっている。

スタンドの上部にサブウーファーを備えた

長尾氏は、A1Eシリーズで映像と音の双方に高いリアリティを実現できたのは「X1 Extreme」の賜物と語る。たとえばHDRの方式も、従来からの「HDR10」に加えて「Dolby Vision」を新しくサポートすることになる。この機能追加をたやすく飲み込めたのも、X1 Extremeが恵まれた性能を備えているからだ。

筆者はソニーブースで「アコースティック・サーフェス」により再生された音を聴く機会を得られた。画面に表示される赤い鳥が鳴きながら左右に動く "音の移動感" が、一枚のパネルで再現できているから驚きだ。映画や音楽ライブのサウンドを聴いてみても、驚くほど左右、そして縦方向にも立体的な音場が広がる。A1Eシリーズが日本でも発売されれば、パネルから音が出せるテレビとして大いに注目を浴びるだろう。実機を試聴すれば、高品位な音と映像が押し寄せてきて、その没入感が "ホンモノ" であることを実感できるはずだ。