話が大分逸れたが、再びIntel Custom Foundryに戻したい。Moore氏によればARMがターゲットとする10HPMは「GP、つまりHigh Performance(HP)向けの派生型で、Vtがやや低めでリークもやや低めになる」ということであった。さてそのArtisan IPやPDKなどの提供時期についてだが、「2017年の第1四半期にはSoCのデザインを開始できる。この時期にPDKやイニシャルセルライブラリ、POP IPが提供され、リスク生産(Risk Production)向けに開発が可能になる」(Photo08)という話であった。

Photo08:ただし「では10GPには提供しないのか?」というと、そういう訳でもないようだが(これも後述)

Photo09:2017年第1四半期にARMから提供されるフロントエンドライブラリの一覧。これはARMからの提供なので、ほかにIntelから提供されるものもあるはずだが、そちらは今回は明らかにされなかった

ちなみにハードIPの提供はないのだが、その代わり彼らは"POP Landing Team"(つまりPOP IPを実際の物理設計に落とし込むためのサポートチーム)を持っており、すでにSpreadtramなどと協業しているという話であった。ただこれは「新しいファウンドリと新しいCPUなので、最初の顧客にはそうしたサポートが欠かせない」ということでもあるらしい。

またSoCを構築するためにはCPUだけではなく、インターコネクトを含む周辺回路も当然のごとくインプリメントの必要がある。こうしたもの(ARMで言うところのSystem IP)は今回最適化の対象にはなっていない。もっともCortex-M向けはともかくCortex-A向けのCoreLinkは通常POPの対象ではないのだが、Intelの10HPMプロセスへのインプリメントはどの顧客も未体験の話である。これに関しても、L1/L2/L3と、これをサポートするキャッシュコヒーレンシのネットワーク(ここにはbig.LITTLEも含まれる)のインプリメントまではARMがサポートする(Photo10)という話であった。

Photo10:今回ARMから提供されるPOP IPの概要。現時点では具体的なコアはまだ明確にされていない

これはIntelとの協業に含まれる役割だという。POPを利用することで、一般に物理設計の時間を5~8カ月短縮できるというのはこれまでも語られてきた話(Photo11)であるが、これはIntelの10HPMにも当然当てはまるという訳だ。その先に関しては、例えばIntelが提供するSystem IPを使うことも、ARMのSystem IPをRTLレベルでインプリメントすることも、あるいは顧客自身のSystem IPを使うことも出来る(「それは顧客が決めることだ」)という話であった。

Photo11:POPといっても実際にはいくつかパラメータを選択できる事もあり、それでも4カ月ほどは最低でも掛かる

またこれまで言及されていなかったことだが、今回のIntel 10HPMへ提供されるPOP IPは「高性能のCPUコア、高効率のCPUコア、big.LITTLE、それとGPUだ。モバイルCPUを構成するのに必要なすべてを提供する」とはっきり明言された。もっともGPUに関しては、POPの構成は色々難しいそうだ。CPUの場合は高性能と高効率の2つで、端的に言えば高性能に振ったCortex-A73と高効率に振ったCortex-A53コアの2つを、2+4あるいは4+4の組み合わせで提供するだけでいいから、組み合わせ数は少ない。ところがGPUの場合、まずコア数が1/2/4/6/8/…と色々ある上、高性能なのか低消費電力なのか省エリアサイズなのか、最適化のオプションが色々あるからで、大変という話ではあった。

ちなみにテストビークルのリリース予定時期などは「言えない」ということで、このあたりは来年のIDFなりTechConなりの開催時期まで細かい話は一切なさそうであるが、10HPMの量産に向けて順調に進んでいることがわかったのは、大きな成果であった。