シャープは9月8日、都内にて「プラズマクラスターの新たな効果に関する発表会」を開催。内容は「プラズマクラスター技術を使用することで、結核病院での院内感染リスクが低減される効果が実証された」というもの。そして、この発表会はなんとインドネシアとリアルタイムに中継されるほど注目度が高いものだった。一体なぜいま「結核」なのか?

今回の検証で使用された、臨床研究専用に作られたイオン(プラズマクラスター)発生装置

「結核」は過去の病気じゃない

「結核」というと過去に流行した病気のイメージがあるが、WHO(世界保健機構)によるデータでは、2014年に結核を発病した患者数は960万人。そのうち死者は150万人にもおよぶ。感染者が一番多かったのがインド、そして世界2位に挙げられたのが、今回の発表を同時中継していたインドネシアだ。

このように書くと「先進国である日本は大丈夫なのでは?」と感じるかもしれない。しかし、厚生労働省によると、2014年は日本でも約2万人の患者が発生。うち約2,000人が死亡しているという。先進国としてはかなり高い数字で、日本は結核に関しては「中まん延国」として世界から認識されているという、かなりショッキングなデータも発表された。

発表会の様子は、世界で第2位の結核高まん延国であるインドネシアでも同時中継された

結核により、年に150人の死者が出ている。日本でも2,000人近くが亡くなっており、身近な病気といえる

さらに危険な多剤耐性結核の存在も

今回の実験を行ったのは、南コーカサスのジョージア国立結核病院、院長のザザ・アヴァリアニ氏。アヴァリアニ氏によると現在、世界の総人口の約3分の1が結核に感染しており、結核は世界的に深刻な問題なのだそうだ。

最近とくに問題となっているのが、従来まで結核治療に有効といわれていた薬「イソニアジド」と「リファンビシン」に耐性のある「多剤耐性結核(MDR-TB)」の存在。さらに、薬が効かない「超多剤耐性結核(XDR-TB)」の発症も、世界各地から報告されている。「結核再発患者」も多く、これは院内感染などの環境による問題が大きい。

結核はほぼ完全に空気感染する病気であり、現在WHOによる指針では「換気」と「紫外線による殺菌」による予防が推奨されている。しかし、アヴァリアニ氏によると、これらの対策は効果が高いとはいえないという。

ジョージア国立結核病院の院長であるザザ・アヴァリアニ氏

ザザ氏によると、ジョージアは小さな国だが、世界27位以内に入る多剤耐性結核の高まん延国

ジョージアにおける結核患者の推移。青い線が「すべての結核患者」、ピンクが「新規結核患者」、緑が「再治療患者」の数。結核患者総数や新規に罹患する人数は大幅に減っているのに、再感染する人の減少は緩やか

プラズマクラスター技術を使用した実験

ジョージア国立結核病院 臨床研究部門ディレクターでWHO感染管理テクニカルアドバイザーであるネスターニ・ツクヴァッヅェ氏によると、医療現場ではさまざまなガイドラインに沿って感染の予防や制御を試みている。とはいえ、どれも完全に成功しているとはいいがたい。

そこで今回、プラズマクラスターを使用した研究プロジェクトでは、結核専門病院内における医療従事者を対象に「プラズマクラスターの有無による院内感染リスクの低減効果」、そして「一般結核患者が多剤耐性結核へと移行する予防効果」を検証する実験を行った。

ジョージア国立結核病院 臨床研究部門ディレクターでWHO感染管理テクニカルアドバイザーであるネスターニ・ツクヴァッヅェ氏

プラズマクラスター技術によりイオンを発生させる装置。空間平均イオン濃度を10万/立方センチ以上にキープする

イオン発生装置は8畳につき一台設置された。病室はもちろん、廊下など患者や医療従事者が通る経路すべてに設置されたという

一つ目の試験は「結核保有者ではない人が結核に感染するリスクは、プラズマクラスター技術の有無で変化するか」というもの。

試験の対象となったのは、結核病院で働く医療従事者のうち、血液検査で陰性(結核ではない)と判断された32人。結核病院内において、21人は「プラズマクラスターのない環境」、11人は「プラズマクラスターのある環境」で働いた。6~8カ月後には、プラズマクラスターを導入した環境において、約75%の感染リスク減少があったという。

「結核ではない」と確認された医療従事者32人のうち、プラズマクラスターのない環境では21人中6人が結核に感染。一方、プラズマクラスター下では11人中1人と、4倍近いリスク低減がみられた

もう一つの実験では、多剤耐性結核に対するリスクを検証した。こちらは「通常の(多剤耐性結核ではない)結核患者は、プラズマクラスター技術下にいると多剤耐性結核に移行するリスクは変動するか」というもの。

ツクヴァッヅェ氏よるとこちらの実験は、まだ詳細な分子検査などは終わっていない。あくまで現時点のデータでは、プラズマクラスター技術の影響下にいた患者は、プラズマクラスターがない場合と比べて、約78%も多剤耐性への移行リスクが減っているとのこと。

「通常の結核患者」49人のうち、プラズマクラスターのない環境では23人中4人が多剤耐性結核に移行。一方、プラズマクラスター下では26人中で1人のみ移行した

これらの実験の結果から、アヴァリアニ氏「プラズマクラスター技術に関する実験では、結核の予防に効果があり、感染対策の改善期待できるという感触を得られました。これは、ひとつの国、ひとつの病院ではなく、世界レベルで広まるべき技術だと思っています。これらの結果については、11月にバンコクで行われる国際会議のほか、世界的な国際会議シンポジウムでもどんどん発表し、世界でシェアしたい」とコメントした。