最後に紹介するのはアドビ システムズのモバイルアプリ群だ。実にさまざまなアプリを用意しているが、今回はイメージ系にフォーカスして幾つか紹介していこう。

アドビ システムズのモバイルアプリ

一番目は「Adobe Photoshop Lightroom for iPad - 写真のキャプチャ、編集、整理、共有」だ。無料で配布されているアプリだが、「Adobe Creative Cloudフォトグラフィプラン」に参加することでフル機能を利用できるようになる。写真の整理、共有だけでなく、後述する細かな補正機能などを使えるようになるので、できれば加入しておいたほうが良い。また、デジタルカメラで撮影したRAW画像の読み込み、編集、同期も可能となる。これはプロフェッショナルでなくとも、本格的なフォトシューティングを楽しんでいる人々にとっては嬉しい機能なのではないだろうか。SDカードからのデータの取り込みに、アップルは純正アクセサリとして「Lightning - SDカードカメラリーダー」を用意しているので、これを使用して写真を取り込めばiPad ProでRAW現像が直接行える。ちょっと前まではPC環境がないとできなかったことが、モバイル環境で作業できるようになったというわけだ。

写真の補正機能としては色温度や露出などをコントロールできるほか、新しく霞の除去が加わっている。この新機能は従来まで、PCの環境がなければ利用できなかったものだ。これらの機能は、前述のAdobe Creative Cloudフォトグラフィプランに加入していれば、写真の特定の部分だけに適用することができるようになる。部分補正が使えると、例えば逆光で撮った人物写真の顔だけを明るくしたりといったことができるようになる。他に傾きやクロップも自在だ。さらにレンズのゆがみ修正もできる。さまざまなレンズの特性に合わせたプリセットが搭載されていて、大抵の写真のゆがみを直してまっすぐにしてくれるのだ。これらの編集、補正機能は非破壊的なものなので、元のデータを書き換えてしまうことがなく、いくらでもやり直しができる。

写真の整理、共有だけでなく、細かな補正機能などが利用できる

もう一つ、面白い機能は、今編集している写真を長押しすることで、その設定内容をコピーし、他の写真にペーストできるという機能だ。モノクロ写真を加工しているのをコピーし、その設定を他のカラー写真に適用することで、色からトーンまでを合わせられるのだ。

二番目は「Adobe Capture CC」を紹介しよう。これはiPad Proで撮った写真から、色、形、ブラシ、パターンなどの素材を生成してくれるというユニークなツールだ。写真をベクターの素材に変換することができ、カートゥーン調の画像を簡単に作成することもできる。ベクター素材なので、拡大や縮小も自在だ。「パターン」は写真からテクスチャーを作れるというもので、カレイドスコープ効果を使って曼荼羅模様のような地紋をお手軽に利用可能だ。

Apple Watchのバンドを撮影して、それを飾り罫にすることも

「ブラシ」も写真からブラシのパターンを生成でき、例えばApple Watchのバンドを撮影して、それを飾り罫にするといったことが行える。このアプリはその名の通り、「取り込む」のをベースに素材を作成するのを柱としているので、当然、素材を使うためのアプリとの連携機能にフォーカスした仕様となっている。作った素材はデスクトップ用のAdobe Photoshop CC、 Illustrator CC、Dreamweaver、After Effects CCなどのアプリへの橋渡しが簡単に実行できるのだ。

三番目は「Adobe Photoshop Sketch」を。名前の通り、手描き感覚で使えるペインティングアプリで、Apple Pencilと組み合わせることで、よりダイナミックかつ繊細な表現を楽しむことができる。描画ツールを豊富に取り揃えており、サイズ調整、カラー、不透明度、ブレンド機能などをツールごとに装備。もちろん、Apple Pencilの筆圧検出、傾きにも対応し、インクのにじみや、シェードをつけるといった表現をリアルに再現している。レイヤーを利用することも可能で、アートワークはレイヤー付きPSD ファイルとしてPhotoshop CC、 Illustrator CCに送信することもOK。写真素材を取り込んで、それを下書きに利用して新しい絵を描き上げるといったことも可能だ。

Apple Pencilの筆圧検出、傾きにも対応し、インクのにじみや、シェードの表現ができる

ほかにもアドビ システムズのモバイルアプリは沢山あるが、ひとつひとつ際立った個性があり、ひとつ使うと、またもうひとつ別なアプリを使いたくなるという魅力に溢れている。UIも分かりやすいのに加えて、統一感のあるデザインを採用しているため、あるアプリを使えるようになると、アナロジーを利用して、他のアプリも使えるようになるのだ。これはプロフェッショナルなユーザーでなく、ホビーのユーザーでもとっつきやすいということを意味している。さらに、前述のAdobe Creative Cloudフォトグラフィプランを含む、Adobe Creative Cloudを利用すると、トータルな制作環境が確保できるようになる。iOS端末だろうが、Macだろうが、いつでもどこでも作業に取りかかれ、かつ、アプリ間でデータをやり取りできるというメリットは非常に大きいと思うのだ。なぜなら、浮かんだアイディアを腐らせず、かつ少ない手数で完成までこぎつけることができるからである。クリエイターにとって、アイディアは突然降って湧いてくるものだが、書き留めたメモをなくしたり、書いたけど読み返すと意味が分からなかったりという経験をしたことがある人は少なくないはず。それがなくなって、クリエーションに直結できるなら確実にその人の作品の質は上がるはずである。

***

今回はイメージング、ペインティングアプリを開発しているデベロッパにフォーカスして、iPad Pro+Apple Pencilの組み合わせでどんなことができるのかを中心に見てきた。筆者はそれこそAdobe Photoshopのバージョンが1.0、Illustratorのバージョンが3.0だったか3.5だったからのユーザーなので、その頃から比べると隔世の感がある。外でスケッチを描いたり、撮った写真を加工したり、その上ネットワーク越しに共有したりといったことは全く想像できなかった。その意味ではiPad Proの持っているポテンシャルは驚異的であるとも言えるし、そのパワーと機能を利用して、よりクリエイティヴィティを高めてくれるアプリやソリューションを提供してくれるサードパーティのデベロッパの支援にも感服せざるを得ない。

iPad Proは、もちろん、クリエイティヴの現場だけでなく、ビジネスや教育、ホビーなど、幅広いシーンでの利用が考えられる。これを「ファースト・コンピュータ」として選択するのも大いにありうることなのではないだろうか。