ソーシャルアパートメントの状況と展望について、ソーシャルアパートメント事業を展開するグローバルエージェンツの代表取締役・山崎剛氏に話を聞いた。

グローバルエージェンツ代表取締役・山崎剛氏

ソーシャルアパートメントは「足し算」の物件

――ソーシャルアパートメントの特徴について教えてください

シェアハウスとの相違点についてお話しますと、シェアハウスは「割り算」の発想ですが、ソーシャルアパートメントは「足し算」の発想の物件です。本来であれば高額の賃料がかかる物件を分け合って使うのがシェアハウスで、プライベート空間が確保された上で、プラスアルファとしての共用空間を提供しているのがソーシャルアパートメントということです。

――地域の相場と比較して、賃料は高くなるのでしょうか?

ワンルームマンションに共用スペースをプラスしていますので、必然的に相場より高い賃料設定にはなります。「NEIGHBORS 二子玉川」の賃料は7万円前後ですが、近辺のワンルームマンションの相場は5万円強ではないでしょうか。

――共用空間について、シェアハウスのそれと違いはありますか?

シェアハウスの場合は、"共用"空間と言うより"共有"空間と表現した方が適切ですよね。居住者が分けあって所有している物件ですので、その管理も居住者の手に委ねられているわけです。対してソーシャルアパートメントでは、当社のスタッフが共用部の清掃や管理を行っており、イメージとしては行政のサービスに近い形です。住人が管理する"共有"空間は、例えば清掃のレベルにも個人によってばらつきがありますが、当物件の"共用"空間ではそれがありません。

共用部はグローバルエージェンツのスタッフが管理。住人が自由に本を置けるワーキングラウンジの本棚も、定期的にリフレッシュするそう

人の目がセキュリティーになる

――セキュリティーについてはどのように対策をしていますか?

まず、オートロックなど、普通のマンション並みのセキュリティーは設けています。他には、居住部の廊下やすべての共用部に防犯カメラを設置していますね。防犯カメラは、普通のワンルームマンションではありえないほどの数を投入しています。しかし、本質的には「人の目がセキュリティーになる」という考え方を持っています。住人同士の関係性が、違法行為に対する抑止力になるということです。

――「人の目がセキュリティーになる」というのは、住居者のモラルの高さに担保されている部分が大きそうですね

実際にそうした面はありますね。ただ、「人の目」がセキュリティーになり得るのも、共用スペースが第三者に管理されているからこそです。シェアハウスのリビングなどの共有部だと、そもそも防犯カメラを設置すること自体がありえないですよね。しかし、当物件の共用スペースは"貸し出し空間"という位置づけなので、セキュリティーに関しては逆に安心感があります。

仮に「自分のものが盗まれた」というトラブルがあったとしても、遠慮なくそれを言える雰囲気があるんです。なので住人にも変な気が起きないというか、結果的には空間そのものが抑止力になっています。

共用部のルールはあらかじめ決められているため、住人が余計な気を使うこともないそうだ

都心に住む人が郊外に魅力を感じてくれる

――「NEIGHBORS 二子玉川」が建つ二子玉川といえば、近年は特に「先進」「洗練」というイメージがあります。オシャレな共用部があるソーシャルアパートメントとフィットする街だと思いますが、そのような土地を見極めて展開しているのでしょうか?

基本的には「ワンルームマンションが成立するマーケットがある」土地であれば、展開していきたいと思っています。全体のイメージを高めるフラッグシップとしては、ブランド力のある土地に展開することも必要なのですが、皆が皆二子玉川や原宿に住めるかというとそうではなくて、賃料や勤務地の関係で郊外にほしいという人もたくさん出てきます。ですので、そういう人のニーズに応える物件も用意していきたいですね。既に郊外部にも多くの物件を展開しています。

――逆に、ソーシャルアパートメントが建つことで、コアターゲットである若年層が土地に定着したという事例はありますか?

あります。実は当社は、多摩信用金庫の「第9回 多摩グリーン賞 経営部門」で最優秀賞をいただいています。新しいビジネスモデルにより地域経済の発展に貢献した中小企業が受賞する賞です。

多摩エリアでも、若者が徐々に減っているんですよ。ところが、ソーシャルアパートメントの存在によって、本来なら都心に住むような人たちが多摩エリアまで住みに来てくれるようになりました。

花小金井のソーシャルアパートメントがその好例です。勤務地や学校を中心とした円の範囲内で住まいを探す人が多いのですが、「ソーシャルアパートメントに住みたい」と思うと、その円内にあるソーシャルアパートメントを探しますよね。すると、普通の物件では検討の範囲外だった花小金井が候補として浮上する。で、実際に行ってみると「あ、全然アリだな」と。さらに実際に住んでみて「花小金井、全然悪くないじゃん!」となるわけです。そうやって多くの若者が住めば、友達も連れて来てくれるので、周辺の商圏や地域も活性化していく。そういったポイントが評価されました。

ソーシャルアパートメントの多くはリノベーション物件。その土地の建物の再生も行われる

出身者に"交流"を広めてほしい

――ソーシャルアパートメントによって今後、社会にどのような影響を及ぼしていきたいですか?

交流が普通になる社会を目指していきたいですね。ソーシャルアパートメントでは「住人同士の交流」をコンセプトとして推進していますが、こうした交流は、「ソーシャルアパートメントでなければできない」というものではないと思うんです。普通のマンションでも、廊下ですれ違ったらあいさつをしたり、世間話をしたりできますし、そこから仲良くなって、一緒に食事をしたり出掛けたり、といったこともできます。

ただ、やっぱりお互いに警戒感がある状態では交流を生み出すのは難しいです。そこで、ソーシャルアパートメントで住人同士のコミュニケーションの楽しさを体験した人が、他の物件に引っ越した時にそのコミュニケーションを実践してくれればいいなと思います。どちらかが歩み寄れば、コミュニケーションは自然発生するものですから。そうやって"草の根"的に交流を広めていければ、と思っています。

――ありがとうございました

住んでみたくなった!

「自分の時間を過ごすときはワンルームにこもり、暇なときやちょっと人と話したいときは共用スペースに顔を出す」と、プライベートタイムのオンとオフを自在に切り替えられるソーシャルアパートメント。

「シェアハウスはハードル高すぎ!」と思っていた筆者も、「ここなら住みたいかも」と思えるような魅力がそこには満ちていた。聞けば、共用部を通ることなく居室に帰れる動線がすべての物件に必ず用意されているという。密接なコミュニケーションを強要しない、住人同士の程よい距離感もそのひとつだろう。

コミュニケーションは決して難しいものではなく、互いにとって無理のないところから始めるもの。都会の一人暮らしで忘れかけていた当たり前のことを思い出した。