「物忘れ」「尿失禁」といった認知症に似た症状が出る疾病・正常圧水頭症(NPH)。中でも「特発性正常圧水頭症」(iNPH)と呼ばれるタイプは認知症と同じく高齢者に患者が多いため、医学的知識を持たない人が2つの疾病を見分けるのは困難だ。

だが、iNPHは早期に発見できれば、高い確率で症状を改善できる。そのためには、周囲の人間が「iNPHかもしれない」と気づけるかどうかがカギを握る。

そこで今回、高島平中央総合病院脳神経外科の福島崇夫医師にiNPHと認知症の見分け方や、治療法などについて解説してもらった。

歩行時の足の幅で見分けられる

iNPHは脳内の「脳脊髄液」の生成・循環・吸収のバランスが崩れることで発症する。脳脊髄液がうまく組織に吸収されず、脳内に異常にたまることで障害が起きるという仕組みだ。

iNPHの症状は「歩行障害」「尿失禁」「物忘れ」「集中力・注意力の低下」など。尿失禁や物忘れなどはアルツハイマー型認知症の患者にもよく見られる。高齢のiNPH患者は認知症やパーキンソン病などと勘違いされやすいが、iNPHは治療での改善が可能。そのため、「治る認知症」とも称されることがある。

正常圧水頭症の脳(左)と健常人の脳(※写真は高島平中央総合病院より提供)

一般的にこれらの判別方法は難しいが、福島医師によると医学的知識を持たない人でも、見分けられる可能性があると話す。ポイントは「歩幅」だ。

「ある程度早期のiNPH患者では一足の歩幅が小さく(小刻み)、すり足で歩く際の両足の幅が横に広く(開脚)のが特徴です。これがiNPHと同じように歩行障害を伴うパーキンソン病だと、一足の歩幅が小さくて両足の幅も狭く、開脚にはなりません」。

この見分け方なら、家族や知人でも区別がつくかもしれないが、iNPHの症状が進行しているとこの歩行時の特徴が見られないため、「時間」という制約があることを覚えておこう。

物忘れや集中力という観点から見ると、アルツハイマー型認知症でみられる「日付や生年月日が言えなくなる(見当識障害)」「被害妄想」といった症状は早期のiNPHでは出ない。一方で、iNPHでは前頭葉が障害され意欲が減退したり、集中力が低下して何事にも前向きになれなかったりするといった症状がみられるという。ただし、高齢者の場合には両者を合併することもあるので鑑別が難しいこともある。