シネコンの危機に、どう立ち向かうか

「2004年頃にシネコンのピークは終わったな、と思った」と語るのは、シネマシティ 企画室室長の遠山武志氏。東京都・立川市にあるシネマシティは、複数のスクリーンを持つシネマ・コンプレックス(以下、シネコン)という形態をとる。一般的にシネコンはショッピングモールなどに併設されていることが多いが、シネマシティはそうではなく、「立川という街全体がショッピングモールみたいなもの」だという(遠山氏)。

インタビューに応じてくれたのは、シネマシティ 企画室室長の遠山武志氏

"ピーク云々"の話に戻ろう。ビデオレンタルショップだけでなく、YouTubeやHulu、Netflixなど、オンラインで動画を楽しめるサービスの台頭に、遠山氏はシネコンの危機を感じ取った。映画を享受する方法が増えれば、わざわざ映画館へ足を運ぶ人が減るのも当然のこと。では、立川シネマシティは映画館として生き残るためにどんな方法をとっているのか?

答えは有料の会員制度

「映画館に行く人が減れば、そこには"濃い層"が残る」(遠山氏)。シネマシティはそういったロイヤルティの高いユーザーにとってメリットが多い策を講じ、みごとファンの獲得に成功している。その策のひとつが「シネマシティズン」という有料の会員制度だ。

シネマシティズン会員は「6カ月会員(180日間)」「1年会員」の2種類。会費は6カ月が600円、1年が1,000円となる。会員の種類にかかわらず、平日は1,000円、土日祝日は1,300円で映画を楽しめるのだ(一般料金は通常1,800円)。現在の会員数は約6万人。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と『ガールズ&パンツァー 劇場版』の極上爆音上映(詳しくは後述する)をきっかけに、一気に増えたという。

ところで、シネマシティには「レディースデー」「メンズデー」がない。以前は存在したらしいが、廃止してしまった。「たまたま来たら1,000円で映画を観られてラッキー」と思った来場者が、次回来た際に、通常料金を割高に感じてしまうからだ。「通常料金へのハードルが高くなった結果、映画館から足が遠のいてしまうなら、有料の会員サービスを作って"会員はいつでもおトク"という仕組みにしたほうが、会員もシネマシティもみんな幸せになれる」(遠山氏)。

「シネマ・ツー」には窯焼きピッツァを食べられるカフェも併設されている

シネマシティズンには、リピーターを増やしたいという思惑もある。一般的に、上乗せしてどんどん高くなっていく料金体系では、リピーターが増えにくい。たとえば、現在注目を集めている体感型の映画上映システム「4DX」。4DXの鑑賞料金は通常の鑑賞料金に+1,000円(3D作品の場合は一般的に+1,400円)で、2D作品なら2,800円、3D作品なら3,200円となる。4DXを味わった後に「もう1回観たい!」と思えど、約3,000円をもう一度支払うのは多くの人がためらうだろう。

シネマシティズンはそこをうまく突いた。「1,000円なら」と案外ひょいっと払ってしまうのだ。その結果、リピートのハードルを下げることにも成功し、同じ作品を観るために何度も何度も足を運ぶ人が数知れずいる。