いやー、盛り上がりましたね、五輪エンブレム問題。

ネットで叩いた人も、飲み屋で酒のツマミにした人もいると思いますが、忘れてしまうにはまだ早い。問題の芯にあったものは、誰でも持っています。
ようやく、「パクリだったかどうか」「あのエンブレムはふさわしかったのか」という点にフォーカスせずに考えられる時がきたと思いますので、今日は、そのことには触れません。予めご了承ください。

たった39日間のできごとだった

画像はイメージ

エンブレム発表会は2015年7月24日、取り下げが決定したのが9月1日。つまり、たった39日間の出来事だったわけです。テレビ通販のショップジャパンが使用後返品に応じてくれる期間とちょうど同じであることは、面白い偶然です。

発表当初のネット界隈は「ダセエよ」という冷ややかな意見は多かったものの、強くバッシングする空気ではありませんでした。
これが変わったのは発表から3日後の7月27日。リエージュ劇場(ベルギー)のエンブレムを担当したデザイン会社「Studio Debie」がFacebookに「似てるよね(抄訳)」と投稿したのがきっかけでした。
真相はわからないものの「これは確かに似てるわ」ということで、パクりバッシングへと発展。さっそく、7月31日(エンブレム発表から7日後)には五輪組織委員会を通じたコメントで、8月5日(同12日後)には会見で佐野氏本人が「パクリじゃない」ことを説明します。

しかし、これが逆にネット民を燃え上がらせてしまい、その日のうちに佐野氏がデザインを担当したサントリーのキャンペーンで賞品になっているトートバックに明らかなトレースがあることを告発。
サントリーは8月13日(同20日後)にトレースが疑われた賞品の発送取りやめを発表、その翌日に改めて五輪組織委員会が「エンブレムの使用は問題ない」と表明したものの、続々と問題が取り沙汰され、ついに9月1日、39日間だけ使われた「公式エンブレム」は返品されてしまったわけです。

あまりに早い取り下げの裏には何があった?

こうしてタイムラインに沿って文章にしてみると、あまりに早いことに驚きます。
おそらく、佐野氏がエンブレム制作にかけた時間よりも短いでしょう。審査にかかった日数よりも短いかもしれません。

なぜ、こんなにも素早く、取り下げにまで発展してしまったのか?
どこかで加速したポイントがあったのか?

ありました。8月5日の佐野氏による説明会見です。
内容は「ベルギーには行ったことないしロゴも見たことない」「デザインの過程を知ってもらえば、盗作ではないことを分かってもらえると思う」というもの。

佐野氏の頭の中にしかない、検証不可能な根拠を提示されても…という不満が不信感を募らせ、逆にパクりの証拠を見つけてやろうという流れを加速させたのは間違いないでしょう。サントリーのトートバッグにトレースがあったことが告発されたのは、会見が行われた日の午後でした。
「パクり癖のあるデザイナー」というイメージの定着から逃れることができなくなってしまいました。それが真実かどうかは置いておいて、です。そうなると、オリンピックのイメージを守るために「取り下げ」の判断になるには時間がかかりません。

いや、たぶん、佐野氏にはあれ以外に会見のやりようがなかったんだと思います。
著作権違反の告発を受けた側はそれについての反証を用意しなくてはいけませんが、それは、いわゆる「悪魔の証明」というか、「それでもボクはやってない」的なジレンマに苦しめられるのは必定です。
もしあの時、一言でもリエージュ劇場に詫びていたら多少は…と思いますが、それは今語っても仕方のない事です。