任天堂のWii Uソフト「Splatoon(スプラトゥーン)」 は、人気を集めている新規タイトル。身の回りにも同作をやっている人は多いように感じますし、個人的にも楽しくプレイしています。最近、ブキはバケットスロッシャーをよく使っています。新ステージ「マサバ海峡大橋」は複雑なつくりですが、景色の眺めがよくてプレイしていて気持ちがよいです。

先月マイナビニュースに掲載されたSplatoonのデザイン面に関する開発者インタビューには、コメントを寄せさせていただきました。ですが、この記事が公開された後、サウンドトラックの発売をはじめ、サウンド面についての気になる情報公開があいついでいます。

もともとSplatoonのBGMに対するプレイヤーの注目は強く、サントラの発売を希望する声は、発売当初から聞こえていました。どうして、Splatoonの「サウンド」はここまで人気を集めているのでしょうか。今回はバトル中のBGMとシオカラ節を中心に、私なりに人気の理由を分析していきます。

(c)2015 Nintendo

■筆者プロフィール
作・編曲家 こおろぎ

1982年8月3日生まれ。宮崎県出身。ギター、ベース、キーボード等の楽器を演奏し、編曲、TV、舞台、アプリ、ゲームのBGMなどを制作。近作ではMBS ・TBSドラマ「となりの関くん」、SUBARU WRX STI 「ドライビング イメージ篇」の音楽を担当。

徹底してメロディを聴かせる伝統的なゲームサウンド

「Splatoon」は主に公式Twitterアカウントから情報公開が行われているのですが、サウンドトラックCDの発売をアナウンスするツイートは1万回以上RT(リツイート)されており、待望されていた事がわかります。

SplatoonのバトルBGMについて、「今までの任天堂っぽくないハードなロックサウンド」という感想をよく聞きます。後述しますが同作のBGMはバンド編成で収録されているため、任天堂のタイトルとしてとらえると、「曲調」は確かに新鮮に聞こえます。ですが、曲の「つくり」 は伝統的なゲームサウンドを踏襲していると感じました。

マリオ、ドラクエ、ファイナルファンタジーなど、1980年代から今まで遊ばれている名作のゲームタイトルは、音楽も人気です。この時代は限られた容量の中でゲームを成立させなければならなかったため、サウンドにおいても使える音数は少なかったんです。こうした状況下では、柱となるひとつのメロディと、それを支えるわずかなバックサウンドというつくり の音楽が精一杯だったのですが、シンプルだからこそメロディが記憶に残りやすかった、という面もあるかと思います。

この、「柱になる1本のメロディと、それを支えるわずかな音」というつくり は、Splatoonのサウンドにも適用されています。どの曲もメロディラインは常に1本。それに寄り添う「ハモり」もほとんど入っていませんし、伴奏も動きのある音があまり入ってないので、メロディが引き立っているように感じられます。歌以外のギター、シンセのソロフレーズ部分もほとんど1本のメロディで作られています。また、メロディのパターンのくり返しが多い事も、覚えやすさ、キャッチーさにつながっていますね。以下の動画の冒頭でBGMとして流れているのが、メインテーマ「Splattack!」です。


加えて、BGMがボーカルを据えた「歌モノ」なのも、覚えやすさに影響しています。例えばシンセなどの楽器が中心となっている楽曲だと、メロディがあっても人が歌えない音域やリズムになっていたりすることもあります。口ずさめるということは、記憶に残るということです。

その一方で、歌詞は人間には聴き取れない「イカ語」なので、真剣にバトルをしている最中に耳を奪われ、気が散るということはありません。「イカ語」というどの言語にも属さない言葉を採用したことで、「プレイの邪魔にならないけれど、”歌モノ”として耳に残る」、という面白い効果があると思います。

さらに、バトル中のBGMは「4人編成のバンド」の曲が流れているという設定がされていて、バンドメンバーのビジュアルもゲーム中に登場します。「バンド」が同時に鳴らせる音、使える音色は限られています。その制約のおかげで、アレコレと色んな音が入らず、サウンドがシンプルでわかりやすくなっていると言えるでしょう。

というのも、現代はハードが進化して音数や音色の制限はなくなったことで、重層的なメロディーを採用したり、多様な音色を混ぜたりした音楽も見られるようになりました。表現の幅が広がったのは喜ばしいことである一方、複雑にしすぎると先ほど述べたような理由で、かえって聴き手の印象に残らないんです。

ちなみに、8月6日の大型アップデートで数曲が追加されたのですが、それらの曲はちょっとだけ複雑なものになっています。ステージやブキもシンプルなものから先に出して後からテクニカルなものを出してきたように、BGMもそういった流れがあるようです。