青森県の大間と言えばマグロで有名なところ。そして、津軽海峡を隔てて大間の対岸にあたる北海道・函館の戸井地区でも、「戸井マグロ」としてブランド化されている。いくら地元でマグロがとれると言えど、津軽海峡産マグロは函館でも高級食材なのだが、そんなマグロを手頃な値段で食べさせる店が2014年、北海道・函館に登場したという。
「大間マグロ」「戸井マグロ」に代表されるように、津軽海峡産マグロは品質の高さで知られる。一説には、赤身をおいしくさせるイカと脂のりをよくする青魚の両方を食べているからだとされ、市場でも高値で取引されているのだ。「そんなマグロを格安で」となると、マグロ好きの筆者としては見逃せない。
厚みのあるマグロはほんのり甘く
やってきたのは、海産物店や食堂、土産店などがひしめき合う函館朝市にある「駅二市場」2階の「朝市食堂 二番館」。お目当てのマグロはメニューの一番最後のページにあった。刺し身の単品や刺し身定食などもあったが、ここは豪快に「函館海峡まぐろ丼ぶり」(980円)を食べてみよう。
注文している間にメニューの写真をもう一度見返してみると、なかなかのマグロの量である。津軽海峡産マグロを使用してこの量で1,000円を切る値段とは、にわかには信じがたい。もしかしてメニュー写真と実物が違うパターンではないだろうか……。
そんな失礼なことを考えていると、間もなく大きな丼が運ばれてきた。しっかりとした大きさの刺し身がご飯を覆い隠すほど敷き詰められている。まずは一切れ、マグロだけいただこうと箸で持ち上げると、なかなかの厚み。かむと後味のいいほんのりとしたマグロの甘みが口の中に広がる。さすがは津軽海峡産マグロだ。
津軽海峡産マグロを1本買い
一瞬とはいえ、疑って申し訳ない。でも、高級品の津軽海峡産マグロをこんなに安く提供して大丈夫なのだろうか。
「専門の問屋さんにお願いして、いいマグロがあったら1本買いしてもらってるんだよね」。同店を運営する函館駅二商業協同組合の理事長、藤田公人さんがあっさりとその秘密を教えてくれた。買い付けて解体し、部位ごとに切り分けて鮮度を保った状態で冷凍するまでを一貫してマグロのプロにお願いすることで、安定したマグロの供給と安さとを実現しているのだという。もちろん、マグロの時期には生のマグロが店頭に並ぶことも。
問屋にはいいマグロがあれば多少値が張っても買い付けるように指示しているが、「函館海峡まぐろ」と銘打っている以上、マグロは函館と津軽海峡産のものに限る。「そこは絶対に守らなければ。もしそれで在庫がなくなってしまったら、その時は一時的に提供をやめます」(藤田さん)。7月から店での提供を開始したが、これまでは人気・知名度ともにメキメキ上昇している北海道の松前町産、知る人ぞ知る函館・南茅部(みなみかやべ)地区産などが中心に入ってきているという。
今までは高級寿司店などに行かなければなかなか出会えなかった地物マグロだが、「まず食べてもらないとおいしさは伝わらないので、提供を続けることで北海道新幹線開業までに少しでも津軽海峡産マグロの知名度を上げ、定着させたい」と藤田さん。観光客が多く訪れる函館朝市で価格を抑えて提供することでいつでも気軽に食べられる環境を作り、イカに続く第2の函館名物を目指しているのだ。
※記事中の情報・価格は2014年12月取材時のもの。価格は税込