「第2回ノーマリオフ コンピューティングシンポジウム」において、ルネサスの林越正紀氏が同社の研究開発状況を発表した。ルネサスの目標は、スマートシティの実現に使われる各種のセンサの消費エネルギーを、ノーマリオフ技術を使って1/10に低減することである。

図1 IoT(Internet of Things)のセンサでの物理世界の把握とデータセンターのサイバー世界をつなぐCyber Physical Systemが今後の情報処理の方向。(この記事の図は、すべて林越氏の発表スライドからの抜粋)

図1のようなCyber Physical Systemの世界では、大量のセンサが使われることになる。また、センサが計測するデータの種類の増加や、精度や分解能の向上も必要となり、扱う情報量も増加する。しかし、センサは電池で動かすものも多く、その電池の交換も難しいというような場合もあり、低電力化は重要な課題である。

そこで、ノーマリオフ技術でセンサがアイドルの時間は電源をオフして消費電力を低減しようというわけである。図2に示すように、ノーマリオフのマイコンや電源制御技術、システムの電力プロファイリングなどはルネサスの分散研が担当して研究開発を行い、休止期間を長くするタスクスケジュールや電源オフを制御するAPIやハードウェアの制御プロトコルなどは集中研で研究開発する。

図2 ルネサスの分散研がハードウェア技術を研究開発し、集中研では電源オフの時間を延ばすタスクスケジューリング技術や、電源オフを制御するAPIやハードとのインタフェースプロトコルを研究開発する

センサシステムは一定期間でデータをサンプリングして、データを送るとか処理するのが普通であるが、サンプリング期間が短いと、十分なオフ時間がとれずに電力消費が多くなってしまう。これに対して、図3のようにセンサからのデータは、一旦、不揮発性メモリのバッファに格納しておき、ある程度、まとまったところで処理するという方式とすれば、電源をオンにする期間がまとまって、長いオフ時間が作れる。とくに、このバッファを不揮発性メモリで作れば、データの書き込み時は動作させる必要はあるが、大部分の時間は電源をオフにしておくことができる。

このため、消費電力は図3の右側の上の図に示すようになり、従来型のパワーゲートを行うシステムと比べて80%削減できるという。

図3 サンプリングデータを不揮発性バッファに貯めて、まとめて処理する方法で80%の消費エネルギーを削減

図4は、低電力のセンサシステム向けの制御用マイコンのアーキテクチャを示すもので、不揮発性バッファを含むセンサモジュールとデータ処理を行うマイクロコントローラからなっている。

図4 低電力センサシステム向けのコントローラアーキテクチャ

そして、パワーマネージャが、センサへの電源のVcc-1、センサ制御用CPUへのVcc-2、不揮発性バッファへのVcc-3、制御用マイクロコントローラへのVcc-4の4系統の電源制御を行えるようになっており、すべてのモジュールが必要なときだけ動く、ノーマリオフ動作をするように制御される。

そして、図5に示すように、制御用のマイコンを替えたり、各種のセンサや通信ボードを接続して、消費電力を計測できる評価ボードを開発している。

図5 評価ボードはマイコンの取り換え、各種のセンサ、通信ボードなどが接続できる。また、電力測定ができ、各種のタスクスケジューリングや電源制御を行った場合の実機評価ができるようになっている

図6は、この評価ボードを使った測定結果で、不揮発性バッファを使って、まとめて処理するというタスクスケジューリングとパワーゲートを組み合わせることにより、センサの電力とCPU2の電力を大幅に減少させることができ、従来方式と比較して79.8%減の消費電力となったという。

図6 評価ボードを使った測定で、センサ、MCUともに大きく電力を減らし、従来システムから79.8%の低減を達成

そして、実用化を目指して開発している自動車の加速度センサ系のデモを行った。図7に見られるように模型の車を走らせ、搭載した3次元加速度センサを、加速度が小さい場合はサンプリング間隔を延ばし、加速度が大きい時にはサンプリング間隔を短くするとうデモで、直線走行の場合は、アイドル状態になり消費電力が減らせることが示された。

図7 車に搭載した加速度センサにより、加速度に応じたサンプリング間隔を自律的に選択して電力を削減するというデモ

また、図8に示す、はこだて未来大学に委託しているデマンドバスシステムの知的バス停システムでは、バス停に人が来たかどうかを検出する焦電型の人感センサを使っており、乗客が来るとバス停が動作し、無線でバスの運行センターに連絡する。

図8 はこだて未来大学の知的バス停システム

図9の1日のログでは利用者41人、通りがかりの人49人とスタッフ9人がバス停を訪れ、人感センサの検出でバス停を動かし、スリープまでの時間を5分とするとバス停は53%の時間動作することになるが、スリープまでの時間を1分とすると15%の時間だけ動作すれば良いという結果になったという。

図9 知的バス停の第1次実証実験結果。事象の発生(下)と消費電力(上)

1次実証実験ではノーマリオフ技術は使われていないが、2015年9月に第2次の実証実験を行う計画であり、この時には、本格的なノーマリオフシステムを構築して検証を行う予定である。