つい数年前まで、ほぼ大手メーカーを中心とする大企業だけが利用していた3Dプリンターだが、この1、2年ほどの間に日本市場でも急速に普及が進んでおり、そのユーザー層は中堅・中小企業にも広がってきている。業種に関しても、製造業のみならず、建築、医療、アート、そして教育など、多様な領域で利用が進む。今後、国内3Dプリンター市場の盛り上がりの勢いがさらに増すのは間違いなく、企業の規模や業種を問わず新たに導入する企業も続々と現れることだろう。そこで、3Dプリンターの世界トップメーカー・米国3D Systems社の国内正規代理店であり、3Dプリンターの活用による企業のビジネス強化を支援しているセイコーアイ・インフォテックに、同社の3Dプリンター戦略、そして3Dプリンター導入時の注意点や効果的に利用するためのポイントなどについて聞いた。

3D Systems社ならではのプロダクトの多様性と高品質造形が決め手に

セイコーアイ・インフォテックは、40年にわたって業務用の大判プリンターを開発・販売し、エンジニアリング分野やグラフィックス分野などを中心に幅広い層の顧客企業に導入してきた実績を誇る。そんな同社が3Dプリンター事業に進出した背景には、長年にわたって築き上げてきた企業ユーザーとの深い信頼関係がある。これから3Dプリンターの導入検討を進めていく顧客から、より設計効率を向上するためにも、自社開発の大判プリンターと合わせ3Dプリンターも合わせて取り扱うことを強く求められたのである。

現在セイコーアイ・インフォテックが扱うプロフェッショナル領域の3Dプリンターは、主に1,000万円クラスの製品が中心である。造形方式も、樹脂タイプ、フルカラー粉末タイプ、そしてフルカラープラスチックタイプと各種取りそろえられており、幅広い市場とニーズをカバーしているのが特徴となっている。例えば樹脂タイプであれば、詳細なデザイン検証や機構設計時の組み立て評価に、粉末タイプの場合は鋳造用途、デザイン確認やクライアントとのコミュニケーションサンプル、建築デザインやアートなどに、またフルカラープラスチックタイプはデザインモックアップやオリジナルアクセサリーの製作などの直接造形などと、それぞれに最適な活用範囲が存在している。

株式会社セイコーアイ・インフォテック 営業部 3Dソリューション・プロダクトマネージャー町田 林氏

同社営業部 3Dソリューション・プロダクトマネージャーの町田氏は、3Dプリンターを選定する際に注意すべきポイントについてこうアドバイスする。「3Dプリンターのメーカーや種類(=造形方式)によって、造形物や用途に対する向き不向きがあります。実際の造形の品質や強度、耐熱性などはカタログスペックでは表せないので、3Dプリンターを使ってどのようなことをやりたいのか、明確な目的を意識した機種の選定が必要です」

昨年4月に3D Systems社との販売パートナー契約を発表したセイコーアイ・インフォテックだが、3D Systemsをパートナーとして選んだ最大の理由も、同社製品のラインナップの豊富さとその造形物の品質の高さにあるという。

販売パートナー契約締結前、セイコーアイ・インフォテックでは3Dプリンターの提供分野として、製造業や建築業の他に、アクセサリーやフィギュア、アート、そしてデジタルアーカイブなどの分野を想定。そこで、樹脂タイプとフルカラーの石膏タイプ両方の3Dプリンターを手がける3D Systems社とパートナーシップを結ぶことにより、より広い市場へと訴求することを目指したのである。

また、一般的なものづくりのプロセスは、まず設計者やデザイナーの意図を明確に伝達するための「デザイン検討」から始まり、3D-CADでは掴みきれないパーツの組立性や微妙な形状の確認などを行う「機構検討」、続いて量産試作の手前で実施する「機能テスト」を経て、「量産試作」、「最終確認」、「量産」へと至る。このうちセイコーアイ・インフォテックでは、大判プリンター製品の製造業での利用領域としてデザイン検討から機構検討、そして機能テストの手前までにフォーカス。これらの領域において最も造形品質が高く、車載パネルなどの構造物から、コネクターなどの微細なパーツ作成までを幅広くカバーできる製品群をラインナップしている3D Systems社製の3Dプリンターに白羽の矢が立ったのである。

「極めて精密な造形を実現できる点で3D Systems社の3Dプリンターは群を抜いていました。例えば表裏はめ込み式の携帯電話のケースを造形すると、実際にお互いはめ込むことができてしまうので勘合確認が可能ですし、干渉チェック、さらには簡易動作確認までも行えてしまいます。この優れた造形品質は他社製品と比べて3D Systems社の3Dプリンターが特に優れている点です」と町田氏は言う。

3Dプリンターの4つの効用(製造業の事例)

大判プリンターで培った高度な技術を軸に全国にメンテナンス網を展開

同社は全国にサポート拠点を構えているが、3Dプリンターのサポート・メンテナンスも同様に展開している。インクジェットプリンターや大判プリンターは日々トラブルなく安定稼働させる必要があり、そこで培ったレベルの高いサポートや保守メンテナンスを全国で実施できるのは、同社ならではと言えるだろう。そのため、参入から一年というわずかな期間で、既に自動車、電気、ゼネコン、部品など各産業の名だたる企業への3Dプリンターの導入を実現しているのである。

「お客さまの声を聞き、それをサポートや保守メンテナンスサービスに反映できるのは、40年という歴史があるからこそだと自負しています。保守メンテナンスはとても重要で、これからの3Dプリンターに対する世間の評価にも関わってきます。インクジェットプリンターの自社開発で培った技術力を生かして、お客さまに満足いただける保守サービスを提供し続けていきます」と町田氏は抱負を述べる。

また、セイコーアイ・インフォテックが属するSEIKOグループ自身も、多くの製造部門を有している3Dプリンターユーザーであることから、他社製品を含めそれぞれの特性を深く理解したうえで既存の顧客をベースに、幅広い潜在顧客への提案活動も積極的に行えることも強みであろう。「3Dプリンター販売の事業化を決断するにあたっては、自社でのプリンター開発を通じ、データ処理技術や造形のノウハウがあるからこそスタートできた(町田氏談)」ということもあり、製品自体への改善要望などがあれば3D Systems社へとフィードバックを図っていくとしており、3D Systems社側もそうした同社の姿勢に期待しているという。

セイコーアイ・インフォテックは、6月25日から27日にかけて東京ビッグサイトで開催される「設計・製造ソリューション展(DMS)」に出展。そこでは最新のフルカラープラスチック3Dプリンターである「Projet 4500」を展示予定だ。また同社ブースでは、新製品に加えて、3Dプリンターで造形した造形モデルや、関連する3Dソリューションなども展示する予定となっている。自社のビジネスにこれから3Dプリンターを役立てようと検討中の方は、ぜひ当日同社ブースを訪れて生の情報に触れることで、活用のヒントをつかんでいただきたい。

世界で初めてプラスチック材料でのフルカラー造形を可能にした3DプリンターProjet 4500

3Dプリンター Projet 4500で制作した造形サンプル

3Dプリンター Projet 4500で制作したオリジナルのスマホケース