メンテナンスの有無で、ブレーキ性能も変わってくる

「通勤も自転車で」などと自転車ブームがある一方で、自転車事故が後を絶たない。1月28日にも、信号無視による自転車死亡事故に関する判決が行われ、損害賠償として自転車運転者に4,746万円の支払いが命じられた。こうした事故はなぜ起こり、どうすれば防げることができるのだろうか。

自転車事故の8割以上は対自動車

三井住友トラスト基礎研究所の古倉宗治研究理事

まず、国内ではどのような自転車事故が起きているのか。「自転車の安全利用促進委員会」のメンバーでもある、三井住友トラスト基礎研究所の古倉宗治研究理事が集計したデータでは、2011年には14万4,018件の自転車事故があり、その84%(12万1,004件)が対自動車での事故だったという。一方、対歩行者は1.9%(2,801件)にとどまっている。

また、自転車事故が発生する場所としては裏道の交差点が一番多く、以降はわき道の交差点、幹線道路の交差点、歩道、車道と続く。全体の7割を占めている交差点での事故だけを取り上げると、裏道では出会い頭の事故が最も多く、幹線道路では出会い頭に加えて左折巻き込みでの事故が起きている。

車道走行の方が事故率が低い

では、そうした事故はどうすれば防げるのか。警視庁の資料によると、自転車事故の3分の2は自転車のルール違反であり、実際にルール違反の検挙件数はここ数年格段に増えている。信号遵守や一時停止、夜間の点灯など、「自転車安全利用五則」の徹底が不可欠と言えるだろう。

この五則にある「車道は左側を走行」に関して、そもそも自転車で車道を走ることに不安を感じている人は多い。しかし、古倉氏が2002年~2005年のデータを集計したところ、交差点での事故では車道を左走行した場合が、一番事故発生率が低いことが分かったという。

交差点での事故では車道を左走行した時が、一番事故率が低くなっている

メンテナンスの有無が事故に影響

事故を防ぐためにできることのもうひとつが、自転車のメンテナンスである。しかし、「自転車の安全利用促進委員会」が2013年12月に、主婦1,000人を対象として行った調査によると、26.7%が定期メンテナンスを全くしておらず、1年に1回程度と答えた主婦も25.9%だった。つまり、52.6%の主婦が、ほとんどメンテナンスをしていないということになる。

実際、メンテナンスによってどの程度自転車の性能が変わってくるのか。そこで「自転車の安全利用促進委員会」は「日本車両検査協会」とともに、整備されている自転車と整備されていない自転車を使って、性能比較テストを実施した。なお、このテストでは、共に26インチ車輪のシングル軽快車を使用した。

まず、ブレーキ制動距離に関しては、タイヤが乾燥した状態では定期メンテナンスの有無で1.64m(初速度16km/h時)の差が生じ、雨天時ではその差は3.50mになった。また、クルマから視認して停止できる距離である30m先からリフレクタ性能を比較すると、整備されていないリフレクタは反射量が低下することが分かったという。加えて、適正空気圧のタイヤに比べてそうでないタイヤでは、パンクのリスクが高くなるのみならず、操作性能が下がることが判明した。

リフレクタは水平・垂直に設置するのがベスト

空気が足りずに設置面積が広くなりすぎると、操作性は下がる

「自転車の安全利用促進委員会」のメンバーで、自転車博物館の長谷部雅幸事務局長は、いわゆる「ママチャリ」と呼ばれるシティーサイクルにおいても、快適に乗り続けるためには半年に1回程度、定期メンテナンスが必要と言う。とは言え、自転車の不具合を発見できたとしても、それを適切に整備できるかとなると、また別の難しさがある。メンテナンスが必要な際には、自転車技士・自転車整備士の資格を持ったサイクルショップを訪れるようにしたらいいだろう。

「BAA」マーク以外にも、様々な自転車マークが設定されている

そもそも日本には安価な自転車も出回っているため、「自転車=使い捨て」という意識の人も少なくない。しかし、工場出荷時からしっかり検査して作られた自転車であれば、定期的にメンテナンスをすることで、自転車を安全に長く乗り続けることができる。

例えば、自転車のサドルの下の縦パイプに、「BAA」と書かれたマークが貼られているのを見たことはあるだろうか。この「BAA」マークは、フレーム強度やブレーキの制動性能など約90カ所の検査項目をクリアした自転車にのみ貼付されている。「BAA」以外にも、自転車の安全性などを示すマークはいくつかあるが、初めからこうした自転車を選ぶということも大切になるだろう。自分は本当に自転車を安全に乗りこなせているか、今一度確認していただきたい。