『ドクターX』と『リーガルハイ』の圧勝で終わった昨年末の秋ドラマ。年が明けて放送される冬ドラマは、在宅率の高い時期だけに、例年各局力作ぞろい。『あまちゃん』『半沢直樹』で湧いた昨年のドラマブームを継続できるのか、注目を集めている。ドラマ評論家の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視!」したガチンコでオススメ作品を探っていきます。

今クールの主な傾向は、[1]各局が"テレ朝化"へ [2]人気原作を幅広く採用 [3]主役も脇役も"おっさん" [4]意外な2つの主演バトル の4つ。

『S -最後の警官-』で主演を務める、向井理

傾向[1] 各局が"テレ朝化"へ

昨年のテレビ朝日は、ほぼ全てのドラマを刑事と医療に絞り、続編を大量投入するアメリカ型の編成で大成功を収めた。今クールは、それを受けた各局が、第2の『相棒』『ドクターX』を得るべく、右へならえ。その結果、今クールの初回視聴&ガチ採点で取り上げたドラマ16作中、刑事・医療モノが9作を占めることになった。 特に刑事モノは、キャリア官僚、取調室、戦力外、怪しい探偵、特殊部隊など、切り口の試行錯誤は明らか。シリアス、コメディ、謎解きなどの脚本・演出面で何とか差別化している。見方を変えれば、「今、視聴者が何を求めているのか?」がハッキリしそうだ。 ただ、各局の"テレ朝化"は、「ヒット狙い」の姿勢であり、『半沢直樹』のような「ホームラン狙い」がもっと見たい。

傾向[2] 人気原作を幅広く採用

このところ、脚本家以上に原作者ありきで作品が選ばれる傾向が強い。今クールも、今野敏の『隠蔽捜査』、角田光代の『紙の月』、有川浩の『三匹のおっさん』、東川篤哉の『私の嫌いな探偵』と人気作家の作品がズラリ。 一方、一時の量産化が終わった感のあるマンガ原作からは、『失恋ショコラティエ』『Dr.DMAT』『S-最後の警官-』と、こちらも厳選された様子のラインナップ。 一方、実力派脚本家を起用した『僕のいた時間』橋部敦子、『緊急取調室』井上由美子は、オリジナル作品で勝負。どちらが面白いのか、今後のドラマ作りにも影響が出るかもしれない。

傾向[3] 主役も脇役も"おっさん"

ジャニーズや20代イケメンが主演を務めてきた日本ドラマ界に、堺雅人という“新視聴率男”が現れ、「人気よりも演技力」の機運が高まっている。そこで考えられた策が、おっさんの主演抜擢と、助演の大量起用。特に『隠蔽捜査』は杉本哲太、古田新太、生瀬勝久。『三匹のおっさん』は北大路欣也、泉谷しげる、志賀廣太郎をメインに据えることで、安定したの世界観を作り上げている。また、小日向文代、大杉漣、草刈正雄、でんでんら名優をそろえた『緊急取調室』など、「重要な脇役をおっさんで固める」作品も多い。 前作の役柄を引きずらず、共演俳優を生かし、演出意図をくみ取る力もある。2014年は、おっさんたちが大暴れしそうだ。

傾向[4] 意外な2つの主演バトル

日本テレビとフジテレビが、毎クール一進一退のバトルを繰り広げている水曜22時枠。今クールは、奇しくもヒューマン作品がモロにかぶってしまった。日本子役界のエース・芦田愛菜の『明日、ママがいない』か、女性支持率が高い三浦春馬の『僕のいた時間』か。全く毛色の違う2人だが、シビアに主演としての明暗が分かれるだろう。 また、オスカー事務所が猛プッシュする2大若手女優も、意に反したバトルになりそう。武井咲の『戦力外捜査官』と、剛力彩芽の『私の嫌いな探偵』は、"事件コメディ"というテーマ、"推理好きの変わり者"というヒロイン、イケメン俳優とのコンビ構図、脚本家が鴻上尚史と福田雄一という奇才など、とにかくテイストが酷似。しかも金曜、土曜に連日放送されるだけに、比較される材料がバッチリそろっている。

これらの傾向を踏まえたオススメは、原田知世がアラフォー女性の葛藤を静かに演じる『紙の月』。全5回のため、オンデマンドも含めてぜひ。理屈抜きで楽しめるのは、勧善懲悪に徹した"ジイさん仕事人"の大活劇『三匹のおっさん』。 さらに、『S -最後の警官-』は戦隊モノのようなエンタメ、『僕のいた時間』はバランスの取れた脚本、『私の嫌いな探偵』はシュールな世界観と、それぞれ抜きん出た魅力があり、この5本はほとんど差がなく、好みの問題かもしれない。

一方、裏オススメは、コメディの味つけが迷走している『戦力外捜査官』、設定から脚本・演出まで既視感の強い『夜のせんせい』、1話1日のコンセプトが裏目に出ている『ロストデイズ』。とはいえ、今クールは軒並み高水準で、初回で「バイバイ」するほどの作品はなく、巻き返しに期待したい。

【おすすめベスト3】
No.1 紙の月
No.2 三匹のおっさん
No.3 S -最後の警官-

【おすすめワースト3】
No.1 戦力外捜査官
No.2 夜のせんせい
No.3 ロストデイズ