シャープは、新規事業分野への取り組みを加速し、2015年度の売上高として800億円を目標する計画を明らかにした。同社では、5月14日に発表した中期経営計画では、「既存事業の成長」ともに、戦略的アライアンスを活用した「5つの新規事業領域の開拓」と「革新商品の創出」を進める考えを示しており、ここで掲げた5つの新事業分野と革新商品によって、新規事業分野での売上拡大を目指す。

奈良県天理市のシャープ総合開発センターで展示された新技術の数々

5つの分野としては、「ヘルスケア・医療」、「ロボティクス」、「スマートホーム・モビリティ・オフィス」、「食・水・空気の安心安全」、「教育」を掲げる。同社では、新規事業を推進する組織として、新規事業推進本部を200人体制で発足。技術担当の水嶋繁光代表取締役副社長執行役員が新規事業推進本部長に兼務で就任した。

シャープ 代表取締役副社長 執行役員技術担当 兼 新規事業推進本部長の水嶋繁光氏

水嶋副社長は、「シャープはコアとなる技術を多数有していても、既存事業や既存チャネル、既存商材の領域でしか勝負をしてこなかった。また、開発力はあっても、マーケット目線での商品企画、モノづくりに課題があった。挑戦する風土が乏しかったともいえる」と語り、「こうしたシャープの課題、反省点を踏まえ、挑戦的な風土、新たな組織、仕組みづくりにより、新規事業、革新商品の創出を積極的に推進していく。私自らが本部長を務めることで、新事業への取り組みを大胆に進め、シャープが持つ技術を、製品やサービスにつなげ、新たな事業を生む形に持って行く」などとした。

新規事業の投資額については明らかにしていないが、「今年度は本社予算のなかで実行する。来年度以降は、進捗状況を見て予算を決めていく」という。

2013年度には数10億円規模の売上高を目標とし、2015年度には800億円を目指す。「初年度は赤字となるが、次年度以降で収益化を目指す。売り上げ規模は全社の3兆円に対して、800億円と規模は小さい。しかし、社員のモチベーションをあげ、風土改革のインパクトになるといった効果が重要である」と水嶋副社長は語る。

「ヘルスケア・医療」に関しては、製薬会社や研究者向けの理化学機器、町医者や診療所などの初期診断医療、高齢者やフィットネスなどを対象とした健康管理・ヘルスケアにフォーカス。センシング技術を核として、タンパク質分析装置や医用超音波洗浄装置、診断のための計測システム、クラウドを活用した健康管理サービスなどを提供する。

注目される技術のひとつがIGZO-TFTを応用したIGZO高精細X線イメージング診断システムだ。デジタルが超えられなかったフィルム性能を凌駕する高解像度および高ダイナミックレンジを実現することで、微小な病変を発見できるとともに、従来比2分の1となる低被ばく量にできる。また、広範囲を一括撮影することでの大型化によって、内視鏡を使った手術などにも活用できるという。

IGZO-TFTを応用したIGZO高精細X線イメージング診断システム

また、初期診断支援や健康管理では、活動計や体組成計、血圧計などのContinua準拠の医療機器を通じて、自動的にスマートフォンやタブレットにデータを転送。それをクラウドで管理し、個人による日常の健康管理や、クリニックでの診断データに利用することで、適切な助言や予防などにも活用できるという。初期診断支援は2014年前半にも事業を開始するという。

「ヘルスケア・医療分野は、研究者個人、生活者個人に密着したところで展開していく。大病院を対象にした高度先端医療分野はシャープのターゲットにはならない」などと市場ターゲットを明確化した。

「ロボティクス」については、シャープが持つ自動制御装置、精密加工、機構設計・解析といったコア技術を活用し、産業用ロボットによるエンジニアリング事業、サービスロボットによるロボティクス事業を展開する。

水嶋副社長は、「これまでは、製造業の競争力に直結する生産技術は、外部に出したくないという発想であったが、これを転換し、生産装置や検査装置を外部に向かって販売していく。エンジニアリング事業では、システムや共通化ツールを含めた生産ラインの販売も行っていくことになる」と語る。

ロボティクス事業については、床清掃ロボット、ソーラー清浄ロボット、歩行アシストロボット、介護施設用見守りロボットを投入。「大きな成長と大きな規模を持つ領域であり、外部の企業と連携しながら開発を進めていくことになる」という。

床掃除ロボットは、ウェット掃除機とドライ集塵機の製品化に取り組み、清掃事業者が清掃を請け負う大規模施設清掃用途に展開していく。雰囲気は、家庭向けに販売しているロボット家電のCOCOROBOの大型版といった形だ。また、メガソーラー清浄ロボットは、汚れると約20%も効率化が落ちるソーラーパネル表面を自動的に清浄するロボットとなる。

大規模施設を自動的に掃除するウェット掃除機。濡れた床も清掃する

ドライ集塵機。音声も発するなど、COCOROBOの業務版といった様相だ

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ドライ集塵機が動作している様子(再生時間約24秒、ファイルサイズ43.7MB)

「これらは、液晶パネルの生産工程でガラスを清浄する技術を活用したもの。液晶パネルの清浄ができる水準の技術であり、床やソーラーパネルをきれいにするぐらいなんでもない」と語る。いずれも2014年度前半の投入を予定している。

歩行アシストロボットでは、COCOROBOおよび携帯電話のカメラモジュール技術を活用し、障害物検知や音声によるアシスト、歩行時転倒防止などを実現する。2014年度後半に投入予定。見守りロボットは、カメラや画像処理による離床検知を行うもので、2015年度前半に投入する。

動画
クラウドと接続することでCOCOROBOがしゃべる内容が無限に増える(再生時間約12秒、ファイルサイズ30.0MB)

「スマートホーム・モビリティ・オフィス」では、共通クラウドプラットフォームを活用し、家中の各種機器がつながるスマートホームを実現。COCOROBOに搭載している「こころ」のファクターをサービスに加えることで、利便性追求だけでなく、精神面にも踏み込んだ生活向上支援を図るという。

たとえば、現在、COCOROBOで発する言葉は特定のものになっているが、クラウドサービスを活用することで、「明日は自治会の大掃除があるので忘れないでね」というように、地域密着型の情報を付加した言葉を追加できるなど、利用者とのコミュニケーション機能が大幅に進化することになる。

「食・水・空気の安心安全」では現在、グリーンフロント堺で実施している完全制御の人工光型植物工場や、環境センサーやプラズマクラスターイオン技術などを活用した食品加工工場向けの安全管理システムといったソリューション提案に取り組むという。

なかでも、空気中のカビ菌や最近などの微生物を自動測定する微生物センサーでは、従来の培養法では3日~1週間かかっていた測定時間が、10~20分へと大幅に短縮。繰り返し測定も可能になるとして、工場の管理用途や公共施設や病院などからすでに引き合いがきているという。2013年度後半の事業化を予定している。

微生物センサー。空気中の微生物を迅速に自動測定する

「教育」では、シャープが提供するスタディシリーズによって、タッチディスプレイの「BIGPAD」と、タブレット端末を連携した学習環境の提案などに取り組むという。

一方で、革新商品の創出としては、「フィット戦略」を軸に掲げ、ASEANや中国などの特定地域をターゲットとした「ローカルフィット」、ライフサイクルの特定時期の生活シーンに対応した「ライフフィット」、先進的な機器に興味を持つユーザーや、デザインの価値を求めるユーザーなどに対応した「パーソナルフィット」を展開する。

「子育て世代やシニアを対象にした製品は、それ以外の年代の人にとっては価値がない製品かもしれない。だが、それぞれの世代や生活シーンには、ある期間限定とはいえ、必要な製品がある。市場規模は小さいが、そこでしっかりとシェアを取っていける製品群を投入していく」という。

なお、シャープでは、新規事業分野への取り組みを発表したのに合わせて、奈良県天理市の同社総合開発センターで、同社が開発した新技術などについて公開した。以下、展示された技術の数々について写真を通じて紹介しよう。

展示された技術(写真をクリックすると拡大します)

ソーラーパネルの自動清掃ロボット。メガソーラー施設向けのものだ

手書き認識技術。約2万種類の漢字を縦書きでも、横書きでも識別できる。教育分野への応用を狙う

人工光型植物工場。大阪府堺市のグリーンフロント堺で実験を行っている

モスアイ技術と呼ばれる超低反射フィルム。反射率を40分の1以下に抑え、ガラスの存在感を消し去る

タンパク質分析装置のAuto2D。すでに一昨年から発売している

蛍光イメージャーのBM-A100LD。2013年2月から発売。これらのシステムでタンパク質の分析を作業時間を大幅に削減するなどの効果がある

初期診断医療向けのシステム提案。計測するとデータが自動的にタブレットに転送される。家族5人が順番に乗っても、差分データから個人を分析し、それぞれのデータとして自動的に保管される

データ受信および保存機能は、はシャープ製の21機種のスマートフォンに標準搭載されているという

肌の様々な部位を簡単に光測定できる肌センサー

睡眠センサーは、布団の下に敷くだけで、睡眠中の体動を測定できるマット型センサー。睡眠状態などの計測が可能になる

クラウド見守りサービス。自治体や福祉施設が独居老人の家庭などに導入。テレビのスイッチを入れたことなど確認し、健康に生活していることを確認。地域の情報を自動的にテレビに表示する。埼玉県北本市で試験導入を行っており、今年秋には事業化を目指す

COCOROBOとエアコンを連携して、外部から操作を行うといった使い方が可能

スマートミラー。テレビが鏡に切り替わる

クアルコムと共同開発中のIGZOを用いたMEMSディスプレイ

均一照明技術。照射面内の強度分布を平滑化することで、従来にはないスポット照明を実現する

こちらが一般的な照明の場合。一カ所に照射されていることがわかる