鉄旅オブザイヤー実行委員会は23日、鉄道博物館にて「鉄旅オブザイヤー2012」授賞式を開催した。鉄旅オブザイヤー実行委員会は日本旅行業協会と鉄道旅客協会が結成し、国内の鉄道会社や旅行業団体が後援する組織で、同賞の開催は昨年に続き2回目。

「鉄旅オブザイヤー」を受賞した旅行会社企画スタッフと審査員によるフォトセッション

鉄道ファン&飲み屋好き女子の心をとらえた「やきとり列車」

旅行業者10社から寄せられた応募総数は64作品で、1次審査、2次審査を経て5作品に絞られた。審査委員長を務めるのは、俳優でテレビの鉄道旅行番組などへの出演で知られる関口知宏さん。審査員はほかに旅行雑誌編集長、鉄道好きのタレントら12人がそろった。

グランプリの「長州やきとり列車」スタッフはニワトリのコスプレで登場し、会場を和ませた

グランプリを受賞した作品は、JTB中国四国が催行した「長州黒かしわを味わう! 長門湯本温泉 or 俵山温泉に泊まる! 貸切やきとり列車の旅2日間」。新山口駅を専用列車で出発し、車内でビールなどを配布。途中駅で地鶏のやきとりやアイスなどを配布または追加販売する。車内に持ち込んで居酒屋感覚を楽しみ、温泉に1泊するプランだ。7月と8月に1回ずつ開催され、どちらも90名の参加となった。

他の4作品は豪華列車を仕立てた大がかりな企画だったが、それらと比べて地味なキハ40系2両編成で旅する同作品がグランプリとなった。その理由は、「集中豪雨の鉄橋流出などの被害から1年も不通となり、運行再開後も乗客が少ない美祢線を盛り上げたい」「地域の人々と交流できる」「見知らぬ同志が車内で仲良くなれる」「手頃な日程、価格で"非鉄"(鉄道ファン以外)も参加しやすい」などの企画意図にあるという。「ローカル線を盛り上げたい」という鉄道ファンの気持ちにも響いたようだ。

審査員からは、「ものすごくおじさん向けに見えるが、かわいいイラストを使ったパンフレットや各駅の歓迎行事、イカ釣り、アイスなど、飲み屋好き女子の心をくすぐった」(鉄旅ガールズ)、「ビール列車はたくさんあるけれど、やきとりメインが新しい。お客様の笑顔が目に浮かぶ」("元祖鉄道アイドル"豊岡真澄さん)とのコメントが寄せられた。

準グランプリの「欧亜連絡列車の旅」。鉄道趣味のこだわりは、客車と同じ色をした「トワイライトエスプレス」仕様の機関車

準グランプリは日本旅行と日本クルーズ客船による「欧亜国際連絡列車 100周年記念号」。2012年は新橋~金ヶ崎(敦賀)間の欧亜国際連絡列車運行開始から100年、敦賀~ウラジオストック間の定期航路就航110年にあたり、その記念企画となる。使用車両は「サロンカーなにわ」で、運行区間は大阪駅から敦賀駅まで。敦賀駅からウラジオストクまでの客船「ぱしふぃっく びいなす」の旅がセットになっている。さらにオプションとして、シベリア鉄道でモスクワへ到達する旅が用意されていた。

受賞コメントとして、次は東京駅から「サンライズ敦賀」に乗り、航路を挟んでシベリア鉄道に乗り、モスクワ乗換えでベルリンに到達する14日間の旅を実現させたいと語り、壮大なプランで会場をわかせた。

審査員特別賞に選ばれた「サロンカーなにわ 鉄道クルーズ 日本海の絶景を望む 山陰縦断ローカル線の旅4日間」(JTB西日本)は、船のクルーズ旅行にヒントを得て、車内でカメラ講座、古事記講話、クラシック生演奏などのイベントを開催。出雲大社の遷宮による修復工事見学など、個人やグループでは体験できない旅が魅力だ。

「クラブツーリズム 紅葉エクスプレスで行く 秋色輝く北海道5日間」(クラブツーリズム)は、JR北海道の協力でリゾート車両「スノーレインボーエクスプレス」をチャーターし、同車両による初の根室本線の営業運転が行われた。到着地の歓迎イベントも参加者を喜ばせたという。なにより、秋が短い北海道において、ピンポイントの日程で紅葉観光企画を実施できたところがすごい。北海道を知り尽くした会社ならではのプランだ。

「鉄道でめぐる! 日本一周の旅14日間」(クラブツーリズム)は、高額商品ながら集客が良好で、新たな鉄道旅需要を開拓したといえる。「トワイライトエクスプレス」「サンライズ」を軸にして定期列車を選択したが、鉄道博物館見学など施設の休館日との兼ね合いもあり、行程の作成には苦心したという。

「鉄旅オブザイヤー」に選ばれた5作品はいずれも、個人では体験できない旅。旅行会社の底力が示された作品となった。「サロンカーなにわ」が2作品に採用され、「スノーレインボーエクスプレス」も入れると貸切列車企画は3作品。目的地は関西が目立っていた。

「ななつ星 in 九州」が鉄旅オブザイヤーに"宣戦布告"!?

今回の授賞式では、Twitterで応募できる「140字で綴る鉄旅の記憶」ショートエッセイの受賞作品3本も発表された。さらに、JR九州が今年から運行するクルージングトレイン「ななつ星 in 九州」のプロモーションビデオと列車の紹介も。新たなサービスとして、「客室で朝食を提供」する場面のイメージイラストも披露された。

「ななつ星 in 九州」水戸岡鋭治氏による初公開イラスト。その他、いままで断片的に報じられていた行程、客車と同色のバス、阿蘇駅のレストランなどについてもまとめて紹介された

「ななつ星 in 九州」のアテンダント2名が授賞式のプレゼンターを担当し、来場者に強い印象を与ていえた。これはいい意味で、JR九州から同賞の実行委員会あるいは旅行業界へ"宣戦布告"となったかもしれない。

今年デビューする「ななつ星 in 九州」が、ハイグレードな「鉄旅」を提供することは間違いなく、これを迎え撃つ企画が他社からも登場することだろう。2012年の授賞式は、2013年の新たな「鉄旅」への始まり。来場者に大きな期待を抱かせるイベントとなった。