日本人の食欲と幸福感を刺激する言葉「今夜はカレーよ」。一般的な国民はこの言葉を聞くと、お母さんが作るカレーを想像する。しかし、帯広の家庭でこの言葉が出た日は、とあるカレー店に出掛けるのが常識となっているのだ。その店の名は「カレーショップインデアン」…。
えっ?カレー屋に鍋を持って来店?
「カレーショップインデアン」は帯広市内および近郊に10店、釧路に2店の合計12店舗展開している。限定した地域でチェーン展開しているため、北海道全域で見ると「知る人ぞ知る」といった雰囲気だ。しかし、帯広のある十勝全域では絶大過ぎる人気を誇っている。しかしなぜそんなに人気があるのか。その秘密を探るべく、まずは「カレーショップインデアン芽室店」の駐車場で、どのような客がやってくるのかを観察してみた。
第1陣のピークである昼ごろになると、学生からサラリーマン、家族連れ、高齢者までが、来るわ来るわの大賑(にぎ)わい。帯広の人口構成通りのあらゆる層の人がやって来た。テークアウトしていく人も多い。もっとも、この人の入りも人気店であれば珍しくないかもしれない。しかし衝撃を受けたのは、第2陣のピークである夕方だ。
同じくたくさんの人が来るのだが、皆、昼とは様子が違う。なんと手に鍋を下げている。説明の必要はあるまい。お客たちは、夜、家庭でいただくカレーを鍋ごとインデアンに買いに来ているのである。こうなると単なる人気店の域を超えている。インデアンのカレーは「十勝住民の家庭のカレー」と呼べるほど浸透しているのだ。世の中にご当地グルメは数あれど、これほど地元で愛され、密接に定着している料理には出合ったことがない。
奇をてらわぬ優しい味
そうなると、もちろん味を試さずにはいられない。7種類あるメニューの中から、最もベーシックであろう「インデアン」をオーダー。4段階から選べる辛さは、舌をマヒさせぬよう警戒しつつ最も低い中辛に。価格はなんと399円である。
口に運ぶと、深いコクとほんのり優しい味が口中に広がる。食べ進めるほどにゆっくりと辛さが効いてくるが、どこかサラリとしている。なるほど、幅広い年齢層にも親しまれていることがよく分かる。しかも、家庭のカレーとは一味違う。この奥深いコクは、決して素人に出せるものではない。しかもルーは1種類ではない。メニュー応じてスパイスを足す…などというのではなく、初期段階からキッチリ作り分けたルーを用意している。
ここまで味にこだわりながら、しかも低価格。今回オーダーした「インデアン」の399円というのでも奇跡的だが、これがルーだけになるとさらに低価格となる。テークアウトのための容器が有料で用意されているが、自分で鍋を持っていけば容器代はかからない。これだけおいしいカレーを手軽に食べることができるとあれば、十勝のみなさんが家庭でカレーを自炊する気がしないというのも当然だと納得できる。
これこそまさにご当地グルメ
カレーショップインデアンは昭和40年代に記念すべき1号店がオープンした。母体である藤森商会は、明治30年代に帯広で外食産業をスタートした。以来、帯広の市民と一緒に生きてきた企業である。必要以上に大きく展開することなく、帯広の人々みんなが親しめる味と価格を守り続けている。
帯広から20200キロ離れた札幌に住む私には、インデアンのカレーを食べる機会はなかなかない。寂しいけれど、札幌にこのカレーが無くてもいいと思っている。十勝を訪れた時にだけ食べることができるインデアンカレーこそ、まさにご当地の味。北海道が誇る最強B級グルメのひとつであることは間違いない。十勝に行ってこのカレーを食べた経験がないという人は、大いなる損失をしているかもしれない。
最後に余談だが、私が書いている「インデアン」という表記について、「それって“インディアン”の間違いじゃね?」と思っている読者もおられると思う。しかし「インデアン」が正解なので、どうかご安心いただきたい。