米NVIDIAが主催する「GPU Technology Conference 2012 (GTC 2012)」が5月14日(現地時間)より米カリフォルニア州サンノゼでスタートしている。本カンファレンス初日にあたる15日には同社共同創業者でプレジデント兼CEOのJen-Hsun Huang氏による基調講演が行われ、「CUDA」をベースとしたGPUコンピューティングの広がり、HPC向けの最新アーキテクチャを採用した「Kepler 2」の概要、そしてGPU+クラウドコンピューティングを組み合わせた新しい戦略が紹介された。

米NVIDIAプレジデント兼CEOのJen-Hsun Huang氏

CUDA登場から5年で業界はどう変わった?

NVIDIAが推進する「CUDA」アーキテクチャの躍進については多くが知るところだ。GPGPU (General Purpose GPU)の先駆けであり、この技術を応用してゲームや画像処理だけでなく、HPC (HIgh-Performance Computing)分野におけるさまざまな科学技術計算やシミュレーションなど、さまざまな分野での応用が進んでいる。現在では各方面での応用研究が進んでおり、どういった分野で応用が可能なのか、どのように効率的に利用できるのかといったノウハウが蓄積されることで、開発者の数や学術論文の数も増え続けている。これを象徴するのが「Top500」などで知られるスーパーコンピュータの世界であり、ランキング上位のスーパーコンピュータの多くがGPUベースのものであることからも明らかだろう。Huang氏が例として挙げたのはTop500の最新リストが発表されることでも知られる「SC」カンファレンスの展示ブースにおけるCUDA関連の展示スペースで、2007年当時はNVIDIAブースただ1つのみだったのが、最新の2011年秋のリストでは文字通りの緑一色に近いものになっている。わずか数年でこの変化は驚異的かもしれない。

CUDAをめぐる現状。最初にCUDAが発表された当時から、デベロッパーの数や搭載スーパーコンピュータ、学術論文まで、4年以上の年月を経て大きく拡大している

スーパーコンピュータの世界的なカンファレンス「SC」における展示フロアのCUDA関連スペースも、当初はNVIDIAが出展していた1ブースだけだったのが、2011年秋のSCではここまで拡大している

コンピュータサイエンスやシミュレーション用途を中心に応用範囲も幅広い。学術論文も増えており、現在も活用方法が模索されている

こうしたGPUコンピューティングに新たな風を吹き込むのが、最近同社が発表したばかりの「Kepler」アーキテクチャだ。最新の28nm製造プロセスを採用し、前世代のFermiからアーキテクチャを一新している。その一部となるKeplerベースのGPUは「GeForce GTX 690」として発表されているが、性能と電力効率の高さはすでに各種のベンチマークテストでご存じだろう。Kepler世代のGPUにより、より高度で高速な演算が可能となり、壇上ではリアルタイム・レイトレーシングのデモが紹介された。レイトレーシング(Ray Tracing)は光の反射を正確に追従して描写するもので、対象となる光源が複雑になればなるほど映像クォリティに比例して演算時間がかかるようになる。壇上のデモでは光を反射するガラス状の物体をその場で破壊するシーンや、金属やプラスチックのような光源があるシーンの中で流水のシミュレーションを交えたリアルタイムでのレイトレーシングを披露するなど、その性能の高さをアピールしている。

こうしたなか発表されたのが最新の28nm製造プロセスを用いた新アーキテクチャのGPU「Kepler」だ。すでにゲーミングユーザー向けのKepler GPU「GeForce GTX 690」は上海のイベントで発表されており、今回の話題はそのKeplerのHPC向け製品だ

リアルタイム・レイトレーシングのデモその1。ガラス状の円柱の物体を破壊し、その複雑な形状での光の反射を正確に再現する

リアルタイム・レイトレーシングのデモその2。NVIDIAのロゴに加え、透明な水槽と銀色の球体を組み合わせた状態での光の反射を再現。水槽に水を加えてミルククラウンや波の発生をシミュレートしつつ、レイトレーシングによる光の反射も忠実に再現する。もちろん視点を変更することもできる