ソニーは12日、経営方針説明会を開催し、代表執行役社長兼CEOの平井一夫氏がソニー再建に向けた道筋を語った。ソニーは、2012年3月期に5,200億円という大幅な赤字に陥る見通しを明らかにしており、平井氏は「必ずソニーを変革させ、再生させる」と決意を述べるとともに、エレクトロニクス事業の再生をはじめとした事業立て直しの方針を説明した。
ソニーは現在、エレクトロニクス、エンターテインメント、金融という3つの事業分野がある。「お客さまの強い支持を受け、高い収益性を誇る」(平井氏)という金融事業と、豊富な映画や音楽のコンテンツを抱え「業界でリーディングポジションを有する」というエンターテインメント事業に加え、エレクトロニクス事業を復活させることで、「ほかのどの企業にもない、ソニーの強みが発揮できる」ようにすることが狙いだ。
このエレクトロニクス事業を再生させ、成長軌道に転換させるのが、「最大の責務」だと平井氏は話す。ただ、再建のための道筋に「秘策はない。だが、時間をかける余裕も我々にはない」と危機感をもって職務に当たり、再生計画を確実に、スピーディに実行することが問題解決の唯一の方策だと強調する。
このスピードを実現するために、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)、ホームエンターテインメント・サウンド、ソニー・ネットワークエンタテインメント(SNE)の3事業を平井社長の直轄事業とし、根本章二執行役EVP、鈴木国正執行役EVP、鈴木智行執行役EVP、吉岡浩執行役副社長がそれぞれ事業部門を担当する新経営体制を構築。CFOの加藤優執行役EVP、CSOの斉藤端執行役EVP、そして根本氏を技術担当、鈴木国正氏を商品戦略担当に据えることで、「商品戦略に結びついた技術開発力の強化」(平井氏)を図る。
新経営陣は、平井氏を頂点とする「1マネージャー体制」で、コンシューマ事業とB2B事業(法人、業務向け)を区分せず、相互に連携することで独自の強みを実現したい考え。1マネージャー体制によって経営のスピード化を図り、「決断が出たらすぐにアクションに移す、1回決めたら迷わず実行に移す」体制にしていくと平井氏は語る。
長期戦略にもとづいて投資領域の選択と集中も行い、平井氏曰く「立て直しが喫緊の課題」と語るエレクトロニクス事業では、デジタルイメージング、ゲーム、モバイルの3分野に集中する。この3分野がエレクトロニクス事業に占める売上高の割合は、2011年度では60%だったが、2014年度には70%にまで拡大し、営業利益も85%と高収益構造を実現する考えだ。
デジタルイメージングでは、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラおよびレンズ交換式カメラの民生用機器、放送局向けカメラや監視カメラなどの業務用機器、そしてイメージセンサーで、14年度には売上高1兆5,000億円、営業利益率は1,500億円以上を目標とする。特にイメージセンサーに関しては、スマートフォンの市場拡大に伴い、成長が見込めるとしてさらなる売上の増加を目指す。
ゲーム事業では、カジュアルゲームやソーシャルゲームの台頭で、ゲームユーザーの楽しみ方や事業モデルが変化している中、「市場環境やニーズを見極めながら、没入感のあるエンターテインメントを提供していく」と平井氏は語る。発売6年目になり、「収穫期にある」というプレイステーション3をはじめ、PS Vita、PSPといったハードウェアプラットフォームで「確実な利益を創出する」と平井氏は強調。PlayStaiton Networkなどのネットワークサービスも強化し、事業全体で14年度には売上高1兆円、営業利益率8%を狙う。
モバイル事業では、スマートフォンのXperia、タブレットのSony Tablet、PCのVAIOが含まれるが、特に100%子会社化したソニーモバイルコミニュケーションズの下でスマートフォンをさらに強化。開発リードタイムを従来の半分以下に短縮し、魅力的な製品を市場に素早く投入。「タブレットとVAIOの融合をさらに進めていく」という。設計や販売を効率化したり、効果的な人員配置でコスト削減も図る。
テレビやレコーダーなどのコンシューマエレクトロニクス製品のネットワーク化が進展したことで、「スマートフォンはさまざまなサービス・機器のハブとなる商品」と平井氏はみており、通信の高速化やクラウドの進展を前提とした商品開発、ビジネスモデルの開発も進めていく構えだ。14年度には、11年度の2倍となる売上高1兆8,000億円と、営業利益の黒字化を目指す。
この3領域のコア事業に加えて平井氏が特に強調したのが、「ソニーのDNAの中に脈々と受け継がれている中心的な商品」であるテレビ事業だ。すでに8期連続で赤字を続けているが、13年度には黒字化するよう再生プランを進める。パネル事業におけるサムスンとの合弁解消を始め、固定費を11年度比で60%削減、モデル数の削減や効率向上などでオペレーションコストを同30%削減して収益性を向上させる見通しを示した。
商品開発も強化する。まずはボリュームゾーンの液晶テレビで高画質・高音質を追求し、各国のニーズをきめ細やかに取り込む。その後、有機EL、Crystal LED Displayという次世代ディスプレイの開発も進め、モバイルとの機器連携やネットワークサービスの活用といった、他事業との融合も進める。次世代ディスプレイでは、他社との協業なども視野に入れ、柔軟に対応していく考えだ。
エレクトロニクスでは新興国での事業も強化し、11年度の1兆8,000億円から14年度に2兆6,000億円まで拡大することが目標だ。
これらの経営方針に加え、平井氏が重要とみている要素が「ソニーに脈々と引き継がれている新しい価値創造や挑戦意欲」であり、「そのエネルギーが社員のDNAの中に確実に存在している」と述べた。この"DNA"を活用して、イノベーションを加速し、魅力ある新たな製品・サービスの開発も目指す。平井氏は、ある部署から、200近い商品・サービスのアイデアが寄せられたことを例に挙げ、アイデアをビジネスにつなげる体制作りも構築していく。
また、医療分野の事業も強化し、14年度には売上500億円を達成させ、今後の事業の柱の1つに成長させたい考えで、1,000億円規模の売り上げを目標とする。映像技術では4K技術も強化し、業務用途から民生用途まで、幅広い製品展開をしていく。
既存の事業では、高収益体質の会社になるために、損失計上、低収益、営業キャッシュフローがマイナスといった観点から事業性を判断し、提携や譲渡でスリム化を図り、コア事業を強化していく。12年度には全世界で1万人の人員を削減するなど、750億円の構造改革費用を計上する。
平井氏は、「戦略や施策は、どれだけ周到に準備をしても、実績をともなって初めて意味がある。評価されるには、確実に実績を積み重ねていくしかない」と強調。「One Sony」というスローガンの下、こうした再生プランを実施することで、14年度にはエレクトロニクス事業で売上高6兆円、営業利益率5%、ソニーグループ全体では売上高8兆5,000億円、営業利益率5%以上、株主資本利益率(ROE)10%を目指していく。
「ソニーが変わるのは今しかない。本気で、全力で、社員一丸となって変えていく。必ずソニーは変わると信じている」と平井氏は力を込めてアピールしている。