CPUとGPUをワンチップに統合したAMDのFusion APUは、今年のPCにおける大きなトピックになっている。ネットブックや、従来はCULV版CPUが搭載されていたノートPCのプラットフォームに、新しい選択肢が加わった格好だ。エムエスアイコンピュータージャパン(MSI)が発売した「X-Slim X370」も、そうしたFusion APU搭載のスリムノートPCだ。

Fusion APUを採用したエムエスアイコンピュータージャパンの「X-Slim X370」

主な仕様 [APU] AMD E-350(1.6GHz) [メモリ] DDR3-1066 4GB [HDD] 320GB SATA 5400rpm [ディスプレイ] 13.4型光沢液晶(1366×768ドット) [バッテリ駆動時間] 約6.83時間 [サイズ/重量] W324×D227×H22.5mm/約1.74kg [OS] Windows7 Home Premium 64ビット [店頭価格] 65,000円前後

Fusion APUを用いたGPUエンコードにも対応

エムエスアイコンピュータージャパンが発売した「X-Slim X370」は、AMDが1月に発表したFusion APUの一つである「AMD E-350」を搭載するノートPCだ。液晶サイズは13.4型で店頭価格は65,000円前後と、従来であればIntelのCULV版プロセッサを搭載していたラインの製品といえる。このラインナップにFusion APUを採用した製品が投入された格好だ。

AMD E-350は現在発表されているFusion APUでは最上位モデルとなるもの。AMD EシリーズはTDP18Wのシリーズで、AMD E350は1.6GHzで動作するデュアルコアCPUと、Radeon HD 6310のGPUを統合したAPUとなる。

気になるのはそのパフォーマンスやバッテリ駆動時間だろう。まずはベンチマークの結果を紹介したい。PCMark05の総合テストは一部テストが実行できなかったためノーデータとなっている。

X-Slim X370のWindows エクスペリエンスインデックス

PCMark Vantage
PCMark 2354
Memories 1465
TV and Movies 1523
Gaming 1866
Music 2680
Communications 2476
Productivity 1961
HDD 2782
PCMark05
PCMark Score N/A
CPU 2858
Memory 2051
Graphics 1699
HDD 5217
3DMark06 (1,366×768ドット)
3DMark Score 1361
SM2.0 439
HDR/SM3.0 566
Vana'diel Bench 3
FFXI-High 2094
FFXI-Low 3328
動画エンコード
GPU 6分50秒
CPU 10分11秒
バッテリ駆動時間
3時28分33秒

比較としては、こちらのAtom D525とNVIDIA IONをベースとした製品が参考になるかと思うが、全般に良好な結果を見せているといえる。3DMark06で低いスコアに留まるため、ゲーミングPCとして利用できるほどではないが、若干の3D性能を求めるようなシチュエーションを含め、この価格帯の製品としては快適に利用できる。

また、Fusion APUに統合されたRadeon HD 6310は、動画再生支援のUniversal Video Decoder 3(UVD3)をサポートしており、YouTubeの再生でも720pであればまったくコマ落ちなく再生が可能だった。1080pになると一部でコマ落ちするシーンが見られるのが惜しいが、Adobe Flashのアクセラレーション対応次第では化ける可能性は残っている。期待したいポイントだ。

また、GPGPU利用も可能で、AMD Accelerated Parallel Processingに対応するアプリケーションを用いれば、GPU処理による動画エンコードなどを利用できる。対応アプリケーションはAMDのサイトに紹介されている。

ArcSoftのMediaConverter 7はFusion APUのアクセラレーションに対応する動画エンコードソフトだ

ここでは、ArcSoftのMediaConverter 7を使って、CPU処理とGPU処理のエンコード速度の違いをチェックしてみた。ソースは1920×1080ドット/17Mbps/3分4秒のAVCHDファイルで、これをiPad対応の720p動画に変換するのに要した時間を測定した。

エンコード時に右下のアクセラレーション設定を「AMD Accelerated Parallel Processing」を指定するとGPUを利用したエンコードが行われる

結果はFusion APUのCPUとGPUで3分20秒ほどの差。約3分の動画処理で生じたこの差を、1時間の動画処理に換算すると1時間を超える差が生まれる。GPUエンコードの威力を感じる結果といえるだろう。

バッテリ駆動時間についても検証を行った。液晶輝度を最大にしFFBench3Lowモードをループ実行させた場合の結果だ。バッテリは14.8V/4300mAhのものが搭載されている。結果は約3時間半といったところで、JEITA測定法に基づく公称値の6.83時間という数字からすると、(条件が悪いとはいえ)やや伸びなかった印象は残る。

バッテリは8セルで厚みのあるデザインになっている。標準でキーボードが傾くスタイルになり、キー入力における使い勝手の良好さにつながっている

バッテリを取り外した状態

ただ良好なパフォーマンスを考えると、液晶輝度を少し落とすなど工夫すれば、予備バッテリを一つ持つだけで8時間程度の駆動時間が期待できるのは、とくにビジネスマンにとっては意味を持つのではないだろうか。