神奈川県 パシフィコ横浜にて開催されたカメラと撮影機器のイベント『CP+』にて、写真家 斎藤巧一郎氏のセミナー「ストックフォト、写真コミュニティーで人気の作品とは?」が行われた。ストックフォトサービスの概要などが解説された前半に続き、セミナー後半では、ストッフォトで大切な権利に関する話や、売れるストックフォトの傾向などについて語られた。

ストックフォトを使用する際に覚えておきたい権利について

ストックフォトやマイクロストックフォトを使うときに、斎藤氏が「特に重要なので覚えておいてほしい」と語ったのが権利の話。購入した写真は、「RF(ロイヤリティーフリー)」か「RM(ライツマネージド)」の2種類に分類されている。RFの写真は、使用許諾範囲内であれば購入者は何度でも自由に使える。しかしRMの写真は、1回しか使えないし、使用可能な期限が定められている。ストックフォトはRMだが、マイクロストックフォトは基本的にRFだ。ここでもストックフォトとマイクロストックフォトの違いは大きい。

もうひとつの権利は、被写体の権利について。撮った写真を売るということは、写っているものの権利を売るということ。個人的に使うスナップショットとは異なるため、この部分をしっかり確認しておかないとトラブルの元となる。斎藤氏は横浜と東京のランドマークを例に出して、権利について説明した。

横浜コスモワールドの場合は基本的には撮影不可で、赤レンガ倉庫は1日撮影で3万円、大桟橋は1万5,000円。横浜市内の公園ならば、だいたい2万円が必要となる。これらを撮影地として使った場合、マイクロストックフォトで回収するにはハードルが高い。東京の場合は、レインボーブリッジは無料、葛西臨海公園の観覧車は200円、都内の公園は200円程度。ユニークなのは東京タワーで、半径1.5km以上離れていれば無料だそうだ。

なぜ横浜と東京でこれほどの使用料金に差があるかと言うと、石原都知事が行なっている撮影の誘致活動が影響している。東京を映画のロケ地として世界に広めるというニュースは話題になっていたが、スチル撮影にも影響があったわけだ。なお、以前の青島都知事の時代は、撮影許可を取るのはもっと難しかったとのこと。なお、撮影許可の情報を得るために有効な手段として、「STOCKPHOTORIGHTS.JP」のサイトが紹介された。販売用写真の撮影を行ないたい場合は、このサイトと撮影地の公式サイトをよく見てから予定を組むべきだ。

レインボーブリッジは無料で使えるため、斎藤氏も全面広告のビジュアルとして撮影したことがあると語った

権利情報がまとめられているサイト「STOCKPHOTORIGHT.JP」

ストックフォトで売れやすい写真について

権利さえしっかりしていれば、どのような写真でも販売できるのがストックフォトの利点。では、ストックフォトで売れやすい写真はなにか? 実はストックフォトを利用している業界で、もっとも多いのは旅行業界。次いで出版、広告業界となっている。このような統計から、美しい観光地の写真は売れやすい傾向にあるそうだ。斎藤氏は「作品的な写真ではなく、ごく普通の写真が好まれる」と語る。その理由は、広告業界はパンフレットを頻繁に刷新し、そこで大量の写真を掲載するから。美しく撮影された観光地の写真は常に需要があるそうだ。さらに、撮影日時が直近であればあるほど、購入希望者は増えると斎藤氏は語る。

続いての話題は、マイクロストックフォトで売れている写真の紹介に移った。紹介されたサービスは「iStockphoto」。ここはユーザー数が410万人もいるため、ヒットすると大きい収入が期待できる。ただし、登録しているフォトグラファーも8万人いるため、競争率はかなり高い。会場内のスクリーンには、さまざまなジャンルで検索した「もっとも売れている写真」が紹介された。ジャンルは風景や人物、東京、ビジネスなど。風景の写真は写真の上半分以上が空で、下は草原しか写っていない。斎藤氏は「よく見かけそうな写真が1万1,000回も売れるんです。おそらく1,100万円くらい収益を得ているでしょう。みなさんの近所でも簡単に撮影できるかもしれない。撮ってみてください」と、マイクロストックフォトの魅力を語った。

iStockphotoで最も売れている風景写真

最も売れている「東京」の写真がこれ。なにが写っているのかわからないため、権利を取得していなくても販売可能

写真を楽しみながらストックフォトで収益を得るコツ

セミナーの最後は、写真で収益を得たいとは思っていない人に向けての講演。斎藤氏は「稼ごうと思っていない人でも、自分の写真を他人から評価されてみたいはず」と言う。そんな人たちに勧めたのが、「Flickr」や「フォト蔵」、カメラメーカー各社の写真コミュニティ(オリンパス「フォトパス」、キヤノン「イメージゲートウェイ」、ニコン「マイピクチャータウン」)だ。これらは写真を売買するためのサービスではないので、作家性の強いアート写真も多くの人に見てもらえ、メッセージを得られる場合も多い。

斎藤氏は過去にストックフォトで生計を立てている人と撮影を行なったときに、「それは売れないから撮らない」と言われたことがあるそうだ。でも、それでは撮影自体を楽しめなくなってしまう。「写真というものは、売れることだけが目的ではない。撮りたいものを自由に撮ることも大事」と、斎藤氏は語る。

かつて斎藤氏の知人がFlickrに写真を投稿したら、アメリカの出版社から、「雑誌の表紙に使わせてほしい」と問い合わせがあったそうだ。写真コミュニティサイトで写真が売れるというのはまれな事例だが、いまのインターネット社会はなにが起こるかわからない時代だ。斎藤氏は「ストックフォトで販売するための写真と、作品としての写真を平行して撮り続ければ、撮影技術を向上させつつカメラを楽しめる」と、集まったカメラファンに向けてメッセージを送った。

写真コミュニティサイト「Flickr」を斎藤氏は、「誰でも今日から始められるので試してほしい」と紹介した

キヤノンの「イメージゲートウェイ」は、複数の写真をまとめて「写真集」として見せられる。芸術性の高い作品作りを目指す人に勧められた

オリンパスの「フォトパス」はユニークだ。写真が高評価を得るとポイントを獲得。そのポイントを消費することにより、同社の製品を格安で購入できる