MDR-Z1000は、今年の11月に発売されたスタジオモニターヘッドホン。MDR-EX1000は、10月に発売されたインイヤータイプのヘッドホンで、MDR-Z1000の技術をと入りれた、EXモニターシリーズの最上位モデル。モニターヘッドホンは、スタジオやステージ上で、音を確認するために使用される製品だが、音の輪郭や定位を正しく表現することから、音楽リスニング用に使用する人も少なくない。ただし、モニターとして優れた製品が、そのままオーディオ用として優れているかというと、必ずしもそういうわけではない。今回、このMDR-Z1000/EX1000を、音楽リスニング用のオーディオ機器としてどうなのか試聴してみた。

スタジオモニターヘッドホン「MDR-Z1000」

EXモニターヘッドホン「MDR-EX1000」

試聴結果の前に、ヘッドホンのパッケージや外観などで気付いた点をまとめておきたい。まずは、MDR-Z1000だが、スタイルとしては、耳被いタイプの密閉型。ハウジングのサイズは比較的小さく、装着時に重さはさほど感じない。側圧は弱めで、装着時の負担は少ない。数時間の試聴で、とくに耳や頭が痛くなるということはなかった。

MDR-Z1000のコードは着脱式。左側のハウジングにコードのためのジャックがあるのだが、この部分はねじ止めになっている。また、コード自体もかなり太めだ。音質はもちろん、明らかに耐久性も考えてのことだろう。また、このコードは、長短1本が付属しており、用途によって取替可能だ(3m/1.2m)。短い方は、デジタルオーディオプレーヤーなどで使用するだけでなく、ビデオカメラでの撮影時のモニター用途を想定したものだという。

耳全体を覆うタイプの密閉型だが、ハウジングのサイズは比較的コンパクト

コードは着脱式で、接続部分はねじ止め式になっている

次に、MDR-EX1000だが、形状的には、フレキシブルハンガーの採用が特徴となっている。これは、コードのハウジングよりの部分を、形状を記憶するフレキシブルな素材とすることで、耳に引っ掻けて安定性を向上させるというものだ。ハードな素材のイヤーハンガーとインイヤーヘッドホンを組み合わせたモデルはいくつかリリースされているが、それらに比べて耳の形状にかかわらずフィットできるというメリットがある。このフレキシブルハンガーとイヤーピースで高いホールド力を発揮しているようだ。付属するイヤーピースの種類は豊富だ。インイヤータイプのヘッドホンでは、S/M/Lの3種類のイヤーピースが付属するのが一般的だが、MDR-EX1000では、Sの幅でSよりも高さの低いSS、Mの幅でMよりも高さのあるML、高さの少ないMS、Lの幅でMよりも高さのあるLLを加えた7種類。さらに、標準タイプのハイブリッドイヤーピース(内側に固い素材、外側には柔らかい素材が使用されている)のほかに、ノイズアイソレーションイヤーピース(イヤーピース内部に低反発ウレタンの層が設けられている)がS/M/Lの3種類付属している。耳にジャストフィットするイヤーピースをセレクトすることで、高いホールド力と、設計者の意図した音を実現するというものだろう。

MDR-EX1000のコードも、MDR-Z1000のコードと同様に、しっかりとした作りになっている。フレキシブルハンガーにより、ハウジング付近が太くなって入るのもポイントだ。筆者は、インナーイヤータイプのヘッドホンは、基本的に消耗品だと考えている。プレーヤーと一緒にバックやポケットにほうり込んでおくと、たいていコードのハウジング付近の部分がダメージを受けてきて、最終的には断線する。この部分が太い形状はそういったトラブルも軽減しそうだ。堅牢性というのは、モニターにとって重要な要素だ。また、インナーイヤータイプではあるが、MDR-EX1000のコードは着脱式だ(MDR-Z1000のようなねじ止め式ではないが、しっかりとしたコネクタによって止められており、コードを引っ張っただけでは抜けることはない)。交換が効くというのは大きいだろう(断線や劣化した場合には、サービスセンターなどで取り寄せることが可能)。

フレキシブルイヤーハンガーとイヤーピースで、ヘッドホン全体がホールドされる

上がMDR-EX1000のコードで、下はEP830のコード。一般的なインイヤータイプに比べてコード自体も太い

インイヤータイプでありながらコードは着脱式

MDR-EX1000のコードは太めのものが採用されているが(下)、MDR-Z1000のコード(上)はさらに太い

上がMDR-EX1000で、16.5mmの大口径ドライバーを搭載。下のEP830と比べると、そのサイズがわかる

左がノイズアイソレーションイヤーピースで、左が標準のハイブリッドイヤーピース

付属するイヤーピースの種類は豊富だ

MDR-Z1000/EX1000の試聴

試聴環境は、クリエイティブメディアのデジタルオーディオプレーヤー「ZEN X-Fi2」を使用し、ヘッドホン端子にダイレクトに接続して聴くというもの。ヘッドホンアンプなどは使用していない。ソースは、、SPYROGYRAのACCESS ALL AREAS、THOMAS DOLBYのTHE GOLDEN AGE OF WIRELESS、BEACH BOYSのKeepin' The Summer Alive、富田勲の組曲 惑星の4枚のアルバムを(古いアルバムばかりな点は、ご容赦いただきたい)リッピングし、FLAC形式でエンコードしたものを使用している。要するに、カジュアルに音楽を聴く環境での評価ということだ。また、音の傾向を説明するのには、できれば、MDR-CD900STやMDR-EX700などと比較するのが正しいのだろうと筆者も思うが、今回、比較対照としているのは、オーバーヘッドタイプは、筆者がメインで使用しているELEGAのDR-592C2というヘッドホン(業務用モニターを作っていたELEGAが一般向きに出したモデルで、モニターレプリカといった感じのモデル)と、インイヤーは、クリエイティブメディアのEP-830だ(とはいっても、これらは比較のために並べているだけで、本当の意味で、並列に評価しているわけではない。性格がまったく違うので、それは無理なのだ)。

試聴開始時に、気づいた点がある。それは使用したプレーヤーから発生するノイズだ。これはMDR-Z1000、MDR-EX1000の両方で感じたことなのだが、音楽を流す前の状態で、ZEN X-Fi2が発生するノイズが、かなり明瞭に聞こえてくる。試しに、前モデルのZEN X-Fiを繋いでみたところ、さらに大きなノイズが確認できた。このノイズは普段、使用しているヘッドホン(この環境で普段使用しているのはEP-830)でも聞こえてはいたが、あまり気になってはいなかった。これは、MDR-Z1000/EX1000の、存在している音に気付かせる能力の高さのなせるところだろう。また、遮音性が低いというわけではないのだろうが、余計な音が入らないので、周囲の音が聞こえてくるという傾向はあると思う。部屋のノイズもまた気になってくる。MDR-EX1000には、ノイズアイソレーションイヤーピースが付属してくるが、それを使用した場合でも、外の音がまったく聞こえなくなるという程ではない。

まずは、SPYROGYRAのACCESS ALL AREASを聴いてみる。音の傾向としては、中域には厚みを感じ、低域はそれぞれの音を明確に把握できるが、それほど強いドライブ感というわけではない。同じように、高域も、それほどきらきらした感じではない。最近多く見かける、低域の再生能力を強化したヘッドホンなどと比べると、そのサウンドは穏やかだといってもよい。1曲目のShaker Songの出だし部分のJay Beckensteinのサックスが、この厚みのある部分に自然にはまる。はっきりとした輪郭で、クローズアップしているような感じだが、不自然さは感じられない。また、両モデルとも、音楽の主成分を聴かせ、それ以外の余計な音を抑えているという感じだ。EP-830で、同じ曲を聞いて比較してみると、にぎやかに感じる。これは、以前、MDR-ZX700とZ1000を聞いたときにも感じたことなのだが、Z1000/EX1000は、飾り気のないサウンドということなのだろう。ただ、モニター的なサウンドというと、定位はガチガチで解像度も高いが、上と下をばっさりと切った感じというのが、筆者の持つイメージなのだが(DR-592C2はそんなヘッドホンだ)、MDR-Z1000/EX1000は、そこまで極端ではない。DR-582C2に比べれば、相当にマイルドだ。帯域もDR-592C2より広い。また、MDR-Z1000とEX1000では、音の大まかな傾向は似ていると言えるのだが、Z1000のほうが中低域よりで、EX1000の方が高域よりという感じになっている。これは、オーバーヘッドの密閉型とインイヤー方式という方式の違いもあるだろうが、MDR-Z1000があくまでもプロ用のモニターとして開発された製品であるのに対して、MDR-EX1000がコンシューマ向け用途も考慮した製品であるという、製品の性格の違いによるものではないだろうか。

両モデルとも、各楽器の位置関係は非常に明確だ。というよりも強調されているのではという感じさえある。これは、DR-592C2に比べて、音の広がる範囲が広いために、そう感じられるのだろう。その広がった範囲において、それぞれの音は、それぞれの位置を確実にキープする。また、ある楽器の音の位置が、音のレベルが上下することでふらつくようなこともない。位置がふらつくというよりも、聞こえる範囲が広がるといった方がわかりやすいだろうか。2曲目のSerpent In Paradiseの中盤部分のJay Beckensteinのソロの部分で、EP-830だとサックスの音の出ている範囲が、音の強弱、高低によって拡がったり狭くなったりしているように聞こえる部分があるのだが、MDR-Z1000/EX1000では、そのような感じにはならず、ぴったりと1つのポイント、一定の範囲に収まっている。これは制振性の高さ、あるいは、振動板の特性から来るものなのだろうか。続いてThomas DolbyのThe Golden Age Of Wirelessを聴いてみる。電子音中心の音楽だが、気になったのは10曲目にCloudburst At Shingle Streetのコーラス部分だ。コーラス部分が、コーラス全体としてではなく、音が混ざらない状態で聞こえてくる。この辺りは非常に特徴的だと感じたので、続けて、BEACH BOYSのKeepin' The Summer Aliveを聴いてみる(10曲目のEndress harmonyは、アナログ時代には、テープデッキやレコードプレーヤーのワウフラッターを調べるのに適していた曲だったのだが、デジタル機器が主流になってからはあまり出番がなくなってきている)。こちらでも、やはりコーラス部分で、1つ1つの音を明瞭に聞き取ることができる。最後に富田勲の惑星を聴いてみる。音像の移動がリニアで気持ちよい。また、曲のなかで、ノイズが使用されている部分が多いのだが、例えば、Marsのロケットの打ち上げをイメージしている部分では、そのノイズが周囲全体に拡がってしまうことなく、その音は、方向を持ったものとして聞こえてくる。また、Jupiterの後半部分では(木星に吹き荒れる嵐をイメージしているのだろうか)ノイズのように聞こえる音が、さまざまな方向からの複数の音がミックスされたものとしてはっきり聞き分けることができる。

音楽リスニング用としてのMDR-Z1000/EX1000

MDR-Z1000/EX1000ののモニター色はそれほど強烈ではなく、バランスは普通の音楽リスニング用のヘッドホンとそれほどかけ離れているというわけではない。そのバランスの上に、高い定位、解像度を備えたモデル、それが、MDR-Z1000/EX1000ということになるのだろう。デジタルオーディオプレーヤーなどでカジュアルな使い方をしても、高い剛性に支えられた音の安定性と定位、分解能力による新しい発見があるだろう。ただし、そのプレーヤーには、ある程度の性能が求められるだろう(とくにS/N比)。なお、MDR-Z1000/EX1000のソニーストアでの価格は49,800円。一方、MDR-ZX700のソニーストアでの価格は9,800円で、DMR-EX600の価格は1万9,800円だ。一般的な感覚では高価なヘッドホンだということになる。しかし、現在使用しているヘッドホンのサウンドに、色が付いていると感じるようならば、MDR-Z1000/EX1000は、買っても後悔しない製品だろう。