米アドビ システムズでDigital Publishing部門を統括するジェレミー・クラーク氏と、iPad向けにWIRED Magazine誌などを提供している米Conde Nastのスコット・ダディッチ氏へのインタビュー第二弾。今回はふたりに電子出版物の良さを伺った。第一弾はこちら。

米アドビ システムズでDigital Publishing部門を統括するジェレミー・クラーク氏

まず、ダディッチ氏はiPadのようなタブレット型のデバイスで電子書籍を楽しむ人の市場について「現在は北米で紙の雑誌の読者が約1億9千万人に対して、電子雑誌の読者は約500万人です。2015年くらいには、2500万人から3000万人と予測する人もおり、よりアグレッシブな予測には、5000万人~6000万人というものもあります。これらの数字は北米市場のものです。タブレット型デバイスでのリッチな電子雑誌が求められていると思います」と説明。続けてクラーク氏は、今回のプロジェクトから得た傾向として、Webや紙と比較した電子雑誌の閲覧時間について「Webの雑誌系コンテンツの閲覧時間は、3分~9分と言われており、非常に短いですが、タブレットの読者は1時間~2時間も読んでくれます。むしろ紙よりも読む時間が長くなるということがわかったのです。より長い時間によって、ブランドとの関係性も強固になります」と説明した。

WIREDやThe New Yorkerのアプリは、コンテンツを再生するビューワーアプリと、雑誌のコンテンツである.issueフォーマットのファイルで構成されている。現在、ビューワーアプリおよび.issueファイルは、iPadのみに提供しているがiPhoneやAndroid、MacOS、Windows、Linuxにも対応可能だ。また電子出版において、どの読書環境がいちばんマッチしているのかに関しては「今は比較対象が多くありませんが、iPadのディスプレイのクオリティやタッチ操作などのパフォーマンスが、そもそもの基準値をすごく高めていると思います。Samsung Galaxyを見ても、AndroidOSのタブレット端末の将来を期待できます。我々としては、iPadよりもさらに高いスクリーンの解像度を期待しております。解像度が高まれば、デザイナーが望むような状況を忠実に反映させられるからです」と、タブレットPCに対する期待をクラーク氏は話した。

では、WIREDアプリのような新しいスタイルの出版物を作るスタッフはどのような人たちなのだろう。WIRED誌は紙媒体でも提供しているが、アプリ版のスタッフは別なのだろうか。ダディッチ氏によると「今回のプロジェクトでは、紙のグループからアプリのグループにデータを渡して作る体制をとっていません。雑誌チーム内のスタッフの肩書きや職務を変えました。これまで、紙媒体でデザイナーと呼ばれていた人は、"ブランドデザイナー"という肩書きに、編集やアートディレクションについても紙とアプリで同じ人が担当します。こうしたことで、ブランドの意図を忠実に反映できるのです。これまで、紙とWebではツールも別々でしたが、このプロジェクトでは、ツールは同じ、スタッフも同じ、目指すブランディングの方向も同じです」と語った。

米Conde Nastのスコット・ダディッチ氏

また、電子出版物の良さは広告主にとってもいい影響を与えるという。Webページの広告は、バナーを掲載して注意を引くものが多いが、パラパラとめくって読む電子雑誌なら、注意を引かなくても広告ページは見ることができる。しかも、画面全体を広告主が使えるので、読者により印象的なメッセージを伝えることができるメリットもあるという。

そして、その広告媒体としての魅力をさらに広げるのが効果測定の機能だ。紙媒体では困難な測定も、アクセス解析ツール「Adobe SiteCatalyst」のサポートにより、詳細な測定が可能となる。クラーク氏は、この機能が最もエキサイティングであるとし、「紙の雑誌の場合は、読者がどのページに興味を持ったかなど、電話インタビューやアンケートなどをして推測していくしていくしかありませんでした。今回、SiteCatalystを導入し、オンラインでもオフラインでもトラッキングできるようにしています。オフラインの間に取得したデータを蓄積し、オンラインになっときにアップロードするようになっています」と解説した。トラッキングできる内容は、記事ごとの閲覧時間やナビゲーションの深さ、インタラクティブな操作などとのこと。