『ダークナイト』(2008年)のクリストファー・ノーラン監督が贈る次世代アクション・エンターテインメント超大作『インセプション』。日本に先立ち公開されたアメリカでは、オープニング3日間の興行収入が6,040万ドルを突破し、週末ランキング初登場1位を獲得。本作の革新的なストーリー、脅威のビジュアル、そして衝撃のラストが話題を呼び、早くも『インセプション』旋風が巻き起こっている。その『インセプション』の仕掛け人、クリストファー・ノーラン監督が本作のPRのために来日。レオナルド・ディカプリオや渡辺謙らと来日記者会見を終えた直後、単独インタビューに応じ、舞台のひとつとなった東京の魅力や次回作、渡辺謙への想いなどを語ってくれた。

Christopher Nolan(クリストファー・ノーラン)
1970年7月30日生まれ。イギリス、ロンドン出身。幼いころから父親のスーパー8ミリカメラで映画を作り始め、自ら脚本を手掛けた『Doodlebug』(1997年)で監督デビュー。1998年の『フォロウィング』に続く『メメント』(2000年)で、アカデミー賞とゴールデングローブ賞の最優秀オリジナル脚本賞にノミネートされ、一気に注目を集める。2005年には『バットマン』シリーズの監督に抜擢され、『ダークナイト』(2008年)の型破りな興行的成功で、その名を広く世界に知らしめた。待機作は、2012年公開予定の『Batman 3』(仮題)と『Superman: Man of Steel』(原題)。私生活では、ノーラン作品のほぼすべてにプロデューサーとして参加している映画プロデューサーのエマ・トーマスと1997年に結婚。現在は、3人の子供とともにロサンゼルスで暮らしている

――まず最初に、舞台のひとつとして日本を選んだ理由を教えて下さい。

クリストファー・ノーラン(以下:ノーラン)「映画『メメント』(2000年)のころから、僕はプロモーションのたびに日本へ足を運んでいた。中でも大変印象に残っていたのが東京だった。東京は絵になる、シネマティックな美しい場所。しかし、撮影許可が下りなかったり、撮影に制限があったりするため、映画の舞台にするのは難しい。だからこそ、撮影は東京から始めたかった。本作はレオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、マリオン・コティヤール、エレン・ペイジ、マイケル・ケインなど、国際色豊かな俳優陣が関わっていて、モダンで未来を思わせるような要素が欠かせない。国際都市で未来的な雰囲気を持った東京は、映画のイメージにぴったりだったよ。

――京都で撮影中にレオナルド・ディカプリオがスニーカーを盗まれた(※ニューヨーク・ポスト紙が「ファンとの記念写真を拒否したディカプリオが、京都で寺院内部見学をしている間にナイキのスニーカーを盗まれ、裸足でその場を後にした」と報じた)と報じられましたが……。

ノーラン「そうなの? 僕は知らなかったな(笑)」

――監督は日本での撮影中、そういったハプニングや印象に残る出来事はありましたか?

ノーラン「撮影は大きなトラブルもなく終わったけど、印象に残ったことはたくさんあった。なんといってもヘリコプターで撮影したシーン。新幹線や東京の夜景の撮影も良かった。夜の東京上空は、とても素晴らしい眺めだった。日本に住んでいたとしてもヘリから東京を全貌する機会はなかなかないと思うし。貴重な体験をすることが出来て嬉しかったよ。

――映画には数々の印象的なシーンが出てきますが、監督の1番のお気に入りは?

ノーラン「やはり、無重力のシーンだね。そもそも、これはスタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』(1968年)にインスパイアされて思いついたアイデアなんだ。しかも本作では無重力状態にいるだけではなく、そこで敵とハードに格闘しなければならない。高価なセットをたくさん用意する必要があったよ。そして、優秀なスタント・コーディネーターであるトム・ストラザーズのチームが、無重力アクションを演じたジョゼフ・ゴードン=レヴィットと協力して、ファンタスティックなシーンを作ってくれた。出来上がったものを観た時は心から満足したよ。僕の頭の中にあったアイデアが、そのまま映像化されたんだからね」

『インセプション』

――その重要なアクション・シーンを、通好みの俳優レヴィットが演じたのは映画ファンにとってすごく嬉しいことでした。

ノーラン「そうだろう? 僕が本作で目指したことのひとつが、大作と小規模な制作費のインディーズ作品の間にあるバリアのようなものを取り去ること。ジョゼフもそうだし、エレン・ペイジやマリオン・コティヤールもそうだ。彼らは小品に出ることの方が多い。でも僕はこういった境目をなくし、多彩な俳優たちを集めて新しいものを生み出したかったんだ。その試みは成功したと思う」

――レオナルド・ディカプリオと渡辺謙を起用した理由と俳優としての魅力は?

ノーラン「僕はずっと前からレオと一緒に仕事をしてみたいと思っていた。これまでにいろんなプロジェクトがあったんだけど、実現しなかった。本作の脚本を書いている時、この感情的なストーリーを観客に引き寄せるためには、彼のように才能豊かな俳優が必要だと感じた。とはいえ、彼は役が用意されたからといって理由もなく出演するような、安易な選択はしない。自分の登場によって作品に貢献できると分かれば出てくれるんだ。だから僕は彼に納得してもらえるよう、懸命に説得したよ。謙とは、以前『バットマン ビギンズ』で仕事をした。この時には数日しか一緒に働けなくて、また仕事をする次の機会を探していた。本作には日本を舞台にしたシーンが含まれているので、彼のことはずっと頭にあったよ。謙は……レオもそうだけど、演技が素晴らしく、カリスマ的な存在だ。この2つのコンビネーションは、素晴らしい映画スターの定義と言える。とにかく、そのシーンに出てきたら目を奪われる。2人はそういった共通点を持った稀有な俳優なんだよ」

――最後に、次のプロジェクトのことを教えていただけますか? 2012年公開予定の『Batman 3』(仮題)や『Superman: Man of Steel』(原題)などが注目を集めていますが。

ノーラン「正直言って、僕は一度に一作と決めているんだ。撮影が終わって観客に楽しんでもらい、初めてそのプロセスが終了すると考えている。『インセプション』はその途中なんだけど、これが終わったら休暇を取る予定だ。次のことは休暇を終えた後に考えるよ」

そういってニヤリと笑うノーラン監督の顔には、確固たる自信が見て取れた。彼が次に仕掛ける魔法に世界が驚く日もそう遠くないようだ。

『インセプション』、2010年7月23日(金)より丸の内ピカデリーほか全国にてロードショー。

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