日本におけるワイン造りの歴史とマルスワイン

我が国のワイン造りの歴史を紐解くと、明治に入ってすぐの頃、山梨県の甲府にブドウ酒共同醸造所を設け、醸したのが最初の国産ワインとされている。そこからは新政府の殖産興業政策により、矢継ぎ早にワイナリーが設立されることとなるのだが、小さな民間のワイナリーが資本もなしにいきなりワイナリーを設立することが困難であることは今のご時世と変わらないだろう。当時、醸造技術や設備の整った環境を持っているとなると自然と限られてくる。日本酒の造り酒屋である。民間ワイナリーは造り酒屋から転換、もしくは平行して開設したところが多い。

だが、マルスワインの場合は事情が少し違う。時を同じくして、やはり殖産興業の目的で設立された本坊酒造は焼酎の製造業である。さつま芋の産地として名高い鹿児島の地に、まさに本坊酒造の経営理念である「地域に根ざし、地域の資源を活用」した本格芋焼酎を造っている。その理念のもと、88年の時を経て1960年、今度はブドウの産地として知られる山梨県にマルスワイナリーを設立してワイン造りにも着手した。

山梨県笛吹市石和町にあるマルスワイナリー

セルフ式のテイスティングスペース

試飲し、お気に入りのワインを見つけたら売店で購入しよう

場所は、現在の笛吹市石和町、県内屈指の温泉地でもあるが、ブドウの産地としても名高い。JR中央本線石和温泉駅から歩くこと10分、すぐにそれとわかる赤い屋根のワイナリーには、瓶詰めや箱詰めといった製造工程が屋外らでも見えるようガラス張りになっていたり、大勢の人が気を遣うことなく衛生的に試飲できるようにとセルフ式のテイスティング場があったりと、訪れる観光客たちを楽しませる工夫が随所になされていて、観光地ならではの経験がいかされていると感心した。

巨大甕でつくる酒精強化ワインは1945年から

ところが、同じ建物を今度は地下へと向かってみると、ここが本当にワイナリーなのかと我が目を疑うような空間が現れる。そこには、大小様々なサイズの樽。ではなく、甕がズラリと並んでいるのだ。大きいものは大人がすっぽり入ってしまうような1,000Lサイズ。中に入っているのは、フォーティファイド(酒精強化)ワイン。醗酵の途中にリキュールを加え(マルスワインの場合は、同社が信州ファクトリーで蒸留しているブランデーを添加)、醗酵を止めてしまうものだ。

これらはなんと、1945年から造り続けている。これがもし木樽で貯蔵されていればポートワインになるところだが、こちらは新甕だ。甕の中で熟成させることで、"日本の大地の味(土の味)"をつけたかったのだという。実際、1977年と1964年を試飲させていただいたのだが、トロリとした輝く液体を口に含むと、甘い中にも深いコクがあり、幾歳の刻の眠りを深い土の中で過ごしたような湿り気を帯びていて、口当たりがなんとも涼しく心地がいいのだ。木樽で寝かせたものとはまったく違った印象であった。元来、焼酎造りを生業としてきたからこそのなせる業である。このワイン「VINHO DE MARS」は、ワイナリー内のショップで購入、または有料試飲することが可能(ヴィンテージによって価格は異なる)。

地下にズラリと並ぶ甕の数々

「VINHO DE MARS」は有料で試飲が可能