今年もまた、例年通りパシフィコ横浜を会場に IT エンジニアのための技術カンファレンス Microsoft Tech・Ed Japan 2009 が開催された。やはり、今年の新製品の最大の目玉は Windows 7 であり、Windows 7 を中心に次世代のプラットフォームや開発環境が披露された。Microsoft としては不評だった Windows Vista のイメージを拭い去り、一気に Windows 7 への移行を推し進めたいところだろう。

セッション構成をトラック別にみると、昨年あった「モバイル & エンべデッド開発」が消失し、代わりに「IT とビジネスの可能性」が設けられていた。昨年のモバイル関連セッションが不評だったのか、または iPhone や Android の攻勢を前にシャイになってしまっているのかはわからないが Windows Mobile ユーザーにとって今が冬の時代であることは間違いない。唯一、休憩中の合間に行われるオープンステージで Windows Mobile のミニセッションが行われていた。Windows Mobile 6.5 のリリースで、少しでも状況が好転することを期待したい。

オープンステージ 「本当はすごい Windows Mobile エミュレーターの使いこなし術~そして6.5へ」より

製品別では、開発が終了し一般向けのリリースを間近に控えている「Windows 7」、同世代のサーバーOS「Windows Server 2008 R2」、次期 Office 製品「Office 2010」が中心になっていた。これらの主要製品については、キーノートでもデモンストレーションが行われた。ちなみに、キーノートの様子は同社の新しいメディア配信技術である Smooth Streaming でリアルタイム配信された。 現在も公式ページでオンデマンド配信されている。

Smooth Streaming は IIS の拡張機能として提供されるもので、ネットワークやクライアント PC の状態に応じて動的に帯域幅を変更するストリーミング技術である。これによって、再生位置を変更したときに発生するバッファリング待機や高負荷時の処理落ちなどを最小限に抑えることができ、ストレスなくネット配信で高品質なメディアを再生できる。Smooth Streaming で配信されたメディアの再生には Silverlight が必要となる。

キーノートでピックアップされた 3 製品

会場に設けられていた Windows 7 の体験コーナー

今年の Tech・Ed は、最先端技術の話題よりも"既存技術をどのようにビジネスに直結させるか"を解説することに力を入れた構成になっていたように思える。例えば、WPF や Silverlight といった RIA 世代のプレゼンテーション技術と、WCF や LINQ、ADO .NET などのデータアクセス技術などを組み合わせて業務アプリケーションを開発するテクニックなどの説明が多くみられた。

Visual Studio 2008 と .NET Framework 3.0 の登場以降、高品質な UX(ユーザーエクスペリエンス)を実現する RIA 開発のために従来の開発モデルとは大きく異なる新しいフレームワークが誕生した。しかし、現場では Windows Vista への移行が期待されていたほど進まなかったこともあり .NET Framework 3.0 以降の新しい技術の導入に二の足が踏まれている。今年の開発者向けセッションでは Micorosft が得意とするビジネス領域で、こうした新しい技術を根付かせることを重視しているように感じた。

Windows 7

開発者にとっても Windows Server 2008 R2 や Office 2010 も重要な製品だが、10月に一般リリースを控えている最新版のクライアント OS である Windows 7 の存在が最も気になるところである。評判の悪さから Windows Vista を買い控えていた利用者も、ハードウェアの寿命を考慮すれば買い替え時期になるため Windows 7 への以降が期待されている。当然のように、今年の Tech・Ed では Windows 7 関連セッションが豊富だった。

Windows Vista の反省から改善されたパフォーマンス向上の話題が先行しているが、開発者にとってはタスクバーの変更など Windows 7 固有の機能を自身のアプリケーションにどのように応用していくかの方が重要になるだろう。Windows 7 では、タスクバー上に表示されるアプリケーションのアイコンから、より対話的な操作が可能となっている。タスクバーに表示されているアイコン上に、小さな別のアイコンや進捗バーを表示させることができる。

タスクバーとアプリケーションの進捗バーが同期する(Window API Code Pack 付属サンプルより)

加えて、タスクバー上に表示されるサムネイル上にボタンを追加したり、右クリックで表示されるジャンプリストと呼ばれるコンテキストメニューをカスタマイズしてアプリケーションと対話できる。サムネイル上に「次へ」や「戻る」に相当するボタンを追加してスライドやプレイリストを操作するといった使い方が考えられる。

タスクバーのサムネイル内のボタンからアプリケーションを制御する(Window API Code Pack 付属サンプルより)

カスタマイズ可能なジャンプリスト(Window API Code Pack 付属サンプルより)

Windows 7 に標準搭載されているアプリケーションでは、これらの機能に対応しているものも多い。Windows Media Player でサムネイル上のボタンから一時停止や動画の選択ができ、Internet Explorer は右クリックで表示するジャンプメニューに「よくアクセスするサイト」を列挙する。

このように Windows 7 対応のアプリケーションを開発するには Microsoft Windows SDK for Windows 7 and .NET Framework 3.5 SP1 をインストールする必要がある。マネージコードから新機能を利用するには Windows 7 の API を呼び出さなければならないが、MSDN で公開されている Windows API Code Pack for Microsoft .NET Framework を利用することでネイティブコードの呼び出しを簡略化できる。

Visual Studio 2010 と .NET Framework 4

特に新しい発表はなかったものの、Visual Studio 2010 と .NET Framework 4 関連の情報は我々開発者にとっては最も重要なセッションである。並列化やクラウドコンピューティングなど、ここ最近のトレンドへの対応に加えて、UML のサポートなど開発ツールとしての機能も強化されている。Microsoft は、昨年に UML の標準を管理している Object Management Group (OMG) にも加盟している。ベータ版が公開されているので、詳細は自身で確かめてほしい。

Visual Studio 2010 のスタートページはカスタマイズ可能

これまでもアーキテクト向けに Microsoft 独自の分散システムデザイナが提供されていたが、国際標準のモデリング言語である UML はサポートされていなかった。Visio に UML モデリングの機能があったが、この場合は Visual Studio による実装との連携が乏しい。今後は UML によるモデリングと Visual Studio による開発をシームレスに行えるようになるだろう。

現在のベータ版では XMI をインポート・エクスポートする機能はサポートされていないため、Visual Studio でモデリングした UML データを他の UML ツールに持っていく方法は確認できない。OMG にも加盟している以上 XMI をサポートしないというのは考えにくいが詳細は不明だ。Visio と連携できるかどうかも気になるところである。

Visual Studio 2010 では UML がサポートされる

Visual Studio 2010 で新たに追加される関数型言語 F# も個人的に気になるところではあるが、今回の Tech・Ed ではテーマとして扱われることはなかった。他にも Visual Basic や C# 言語の強化、並列処理のための Parallel Pattern Library や PLINQ、Silverlight 3 開発など、新たに追加される機能の概要が説明された。これらの新機能については、Visual Studio 2010 のページで提供されている日本語ウォークスルーを参考に体験するとよいだろう。