ソフトからハードへ! 『HappyPrinter』

『Memorium』で知られる渡邊恵太氏が出展していたのが、プリンターを使って幸せな気分を体験できる『HappyPrinter』だ。渡邊氏は、インタラクションデザインでは、どちらかといえばソフトウェア志向の研究者であり、すべての情報や環境をコンピュータにとり込み、コンピュータの内部で付加価値をつけて再現する研究テーマを一貫してもってきた。

アップルのiPhoneがボタンというハードウェアをなくしてソフトウェア志向でデザインされているように、最終的にはコンピュータによるデザインでは、ソフトウェアが決定的な使い勝手を決めることになる。その意味でソフトウェア志向は当然ともいえるのだが、インタラクションデザインという観点からおなじiPhoneを例にすれば、iPhone自体はボタンをもたない「ハードウェア」でもあり、ハードウェアを抜きにして、インタラクションデザインを語ることはできないともいえる。

あの渡邊氏が日用品のハードウェアをデザインしたらどうなるのか、と夢想すると期待感は高まるわけだが、今回『HappyPrinter』は、その夢想の序曲として楽しめた。「写真を撮るのはすっかりデジタルになってしまいましたが、撮った写真をモノとしての紙の写真として印刷することは、どきどきする特別な体験です。ところが印刷するときの音は味気ない機械音だけで、とても楽しい時間ではない」と渡邊氏は語る。そのどきどき感を音楽や環境を使って演出することで『HappyPrinter』で幸せな気分を味わえる時間に変えようというわけだ。

『HappyPrinter』写真は、豪華なレッドカーペットを敷き、LED照明の光なかから厳かに登場する

『HappyPrinter』では、インクヘッダの部分に内蔵したRFIDを使ってヘッダの動作(すなわち印刷開始)を検出し、印刷と同時にタグやファイル名などから読み取った写真の内容に応じてBGMを流す。「内容に応じて変わるBGMは、人ごとに設定できる着信メロディのようなものです」と渡邊氏。プリントアウトのトレーには、豪華なレッドカーペットを敷いていて特別感を演出する。たしかにここから写真が出てきたら、ちょっとリッチな感じは増し、紙の写真の特別な宝物感は高まるだろう。

『HappyPrinter』はコンピュータの周辺機器という意味で、まだ序曲であろう。今後日用品をどうしていくのか。じつに楽しみである。11月21~22日に六本木アカデミーヒルズ40で行われる恒例の『SFC OpenResearch Forum 2008』でも展示されるという。今回見られなかった方は、ぜひそちらで、『CastOven』と『suGATALOG』を体験してみてほしい。