モックアップを超えた『CastOven』

『CastOven』のすごいところは、これがコンセプトモックアップというだけに収まらないところである。通常、この手の展示モックアップは、「動かない」ものである。研究展示なのだから、それがあたりまえだ。動くとしても、かなりバラックな基盤やコードが露出しているものである。それを見慣れていたので、よけいに衝撃を受けた。『CastOven』は、電子レンジとしても機能するのだ!ピーと時間が経過してドアを開いたときには、なかにPCが隠れているのかと思っていた。ところが電子レンジの中は空っぽ、しかも時間が経過して、あったまっていた!

開くと中は普通の電子レンジ。あったかかった。すごい。

PCは!? ディスプレイには電磁波の影響はないのか!? 扉だけ作り直した!? 扉の厚みにディスプレイが埋まっているの!?疑問符が頭からばらばら飛び出した。『CastOven』では、通常の電子レンジの扉の部分にディスプレイは完全に、まるでもう商品であるかのようにきれいに埋め込まれていて違和感がない。「メッシュで電磁波はカットされるので、ディスプレイには影響ないです。組込みは、0.5ミリとかで削る戦いです」とハードウェアを担当した松田氏。

底にPCとつながるケーブルが出ているが、それをのぞけば、もうただの電子レンジそのものである。操作もすべて従来の電子レンジのボタンで行え、内部的には「ICに入る直前で情報をとっています」とのこと。すごすぎる。液晶つながりでシャープなんかが商品化してもおかしくない完成度なのだ。PCの代わりにD4をパーツとして組み込むのでもいい。PCでなくて組込み端末を使えば、価格は抑えられるだろう。インターネットにつながる家電といえば、三菱電機がインターネットエアコンを出したり、最近だとPanasonicがYouTubeを見られるTVを出したりしているが、次は電子レンジだろう。価格を聞いてさらにのけ反った。

パーツ代だけなら何万円もしないのだと。それも安いほうから数えての何万円だという。ちょうどそのとき財布に入っていたので、取り出してそのまま押しつけてもって帰ろうかと思ったくらいだ。『記憶する住宅』にぴったりの電子レンジではないか。試作レベルでこの価格、このクオリティ。これは楽しみである。ハードウェアとソフトウェアとインターネットと生活の絶妙な融合という点でも興味深い。