シイラをご存知ない方のために、同アプリケーションの登場背景について少し説明しておこう。

シイラの開発をほぼ1人で担っている木下氏

シイラの開発が始まったのは2004年1月のこと。当時、アップルがMac OS X v10.3向けのHTMLレンダリングエンジン「WebKit」をリリース。容易にWebブラウザを開発できる環境が整った。

「これを機に優れたWebブラウザが数多く登場してくるはずだ」(木下氏)と期待を膨らませるが、一向に新ブラウザが登場する気配がなかった。そこで、「WebKitの機能を試すついでに自分でブラウザを作ってみよう」(同氏)と考え、開発に着手した。

開発開始からわずか3ヵ月後の2004年4月にはトライアル版となるシイラ0.9をリリース。ユーザの要望を取り入れながら徐々にバージョンアップを重ね、翌年の4月にはバージョン1.0を、同12月にはバージョン1.2を公開した。

バージョン1.2では、サイドバーと呼ばれる機能を搭載。Webブラウザ/ページに関するさまざまな情報を容易に確認できるようにした。また、Webページの遷移の際に実際の本をめくるようなアニメーションをつける「ページ遷移エフェクト」を組み込んだほか、「Tab Expose」と呼ばれる機能により、FinderのExposeと同様の方法で各タブの内容を一覧を表示させる(現在アクセスしているWebページの縮小版を半透明の画面上に並べる)ことを可能にするなど、数多くの改良を施した。

シイラ1.2のページ遷移エフェクト(シイラプロジェクトのWebサイトより)

シイラ1.2のTab Expose(シイラプロジェクトのWebサイトより)

このように、開発開始からわずか2年で多機能Webブラウザへと進化したシイラだが、当時は企画から開発までを木下氏がほぼ1人で担っており、独りよがりなものになっているのではないかと不安を抱く。そこで、シイラ2.0の開発に着手するにあたり、協力してくれるメンバーを募集。数名のWebデザイナー/Web管理者から応募があり、彼らと「Mac用Webブラウザのあるべき姿」について議論した。その結果導き出された結論が、本稿冒頭で触れた「Macの美しいUIを損なわずに、Safariよりも高い操作性を実現する」だ。このコンセプトの下、木下氏らはアイデア出しと実装を進め、今年4月24日、約1年半ぶりのリリースにこぎつけた。

シイラ2.0の開発思想を最もよく体現したものが前ページでご覧いただいたPageDockである。「最近ではタブ形式のブラウザが増えたが、現在のかたちで十分だろうかという視点で話し合った結果、開いているページを直接的に見えるようにしたいということになり、あのかたちになった」(木下氏)