フィルムは決してパーフェクトなものではなく、合わないシーンがいくらでもある。たとえば秋葉原の夕景をベルビアで撮ると、まるでマゼンタのスポットライトを当てたような非現実的な色になる。それをフィルムの個性として受け入れてきた。S5 Proのフィルムシミュレーションはそれと同じことをやっている。

「F2」は恐ろしく鮮やかだ。彩度の高い被写体では簡単に色が張りつく。階調もなくなる。絵として成立しなくなる場合も多い。しかしあまり色のない風景などでは実に心強い味方になる。隠れていた色を引き出し、生き生きと再現する。ただし注意して使用したいモードでもある。取り扱い説明書には「F2:空の色を鮮やかに再現」とあるが、「スタンダード」でも空はかなり鮮やかになるため、風景=F2と単純には考えず、シーンを選んで使いたい。

逆に「F1」は地味。非常に彩度の高い被写体でもまず張りつくことはない。スタジオでのポートレート撮影に向いているとのことだが、通常のシーンでも独特の深い色になる。また「スタンダード」に比べて若干青みが強くなるようだ。地味ながら抜けがいいのは、このせいかもしれない。

S5 Proでは「F1」が細分化され、「F1a」「F1b」「F1c」が追加された。単に鮮やかさだけ見ればF1→F1a→F1b→F1c→F2になるが、モードによって各色を加減したり、階調の付け方も異なっているので鮮やかさだけでは片づけられない。

「F1a」はF1に比べ彩度が上がっているが、赤は少し黄色寄りになる。スタジオで人肌をきれいに出すためだろう。「F1b」は青の彩度を上げ、赤の明度が上がる。屋外でのポートレート向きのようだ。「F1c」は階調が少し硬くなり、全体に青みが強くなる。曇天下でも抜けが良くなるはずだ。

キヤノンの「ピクチャースタイル」は、それまでのカラーモードとは比べ物にならないほどダイナミックに色を変えることに驚いたが、S5 Proのフィルムシミュレーションは考え方が違うように思う。非常に現場主義で、ピンポイントなのだ。些細な部分が仕上がりに大きく影響することを知っていなければできないことだ。チャンスがあれば一度試してほしいと思う。

フィルムシミュレーションの選択画面。撮影メニューの一番上にある

フィルムシミュレーション:スタンダード
非常に色乗りのいいスタンダード
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
22mm(33mm相当)
プログラムAE(F9、1/285秒)
ISO 100/WB:オート

フィルムシミュレーション:F1
F1では一転して彩度を抑え込んだ絵になる
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
22mm(33mm相当)
プログラムAE(F9、1/285秒)
ISO 100
WB:オート

フィルムシミュレーション:F2
F2は驚くほど鮮やかな絵になる
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
22mm(33mm相当)
プログラムAE(F9、1/285秒)
ISO 100
WB:オート

フィルムシミュレーション:スタンダード
こちらは色味の少ない植物で比較
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
52mm(78mm相当)
プログラムAE(F7.1、1/200秒)
ISO 100
WB:オート

フィルムシミュレーション:F1
色味の少ない被写体をF1で撮ると、沈んだような暗さになる
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
52mm(78mm相当)
プログラムAE(F7.1、1/200秒)
ISO 100
WB:オート

フィルムシミュレーション:F2
F2になると同じ被写体だろうかと思うほど発色がよくなる
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
52mm(78mm相当)
プログラムAE(F7.1、1/200秒)
ISO 100
WB:オート

フィルムシミュレーション:スタンダード
スタジオで大型ストロボを使用。どこといって破綻もない
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
52mm(78mm相当)
マニュアル(F13、1/60秒)
ISO 100
WB:マニュアル

フィルムシミュレーション:F1
彩度が低いF1。少し青みが強く、赤はより深い色になる
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
52mm(78mm相当)
マニュアル(F13、1/60秒)
ISO 100
WB:マニュアル

フィルムシミュレーション:F1a
F1よりも少し彩度の高いF1a。青みが抑えられ、軟らかい色になる
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
52mm(78mm相当)
マニュアル(F13、1/60秒)
ISO 100
WB:マニュアル

フィルムシミュレーション:F1b
アスティア調とのことで、青みが強くなる。屋外ポートレート用
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
52mm(78mm相当)
マニュアル(F13、1/60秒)
ISO 100
WB:マニュアル

フィルムシミュレーション:F1c
曇天下でのポートレートを想定したF1c。F1比較的コントラストも高め
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
52mm(78mm相当)
マニュアル(F13、1/60秒)
ISO 100
WB:マニュアル

フィルムシミュレーション:F2
極端に鮮やか。赤や黄色は階調を失っている。こういった撮影には向かない
AF-S DX 18-135mm F3.5-5.6G
L+Fine(JPEG)
52mm(78mm相当)
マニュアル(F13、1/60秒)
ISO 100
WB:マニュアル