ダイキン工業は、戦略経営計画「FUSION25」後半3カ年(2023~2025年度)計画を発表した。

FUSION25は、2021年度からスタートした5カ年の中期経営計画で、計画策定時には、2023年度までの中期実行計画を打ち出す一方で、2025年度の目標をイメージとして提示していた。今回の計画は、2025年度に向けた目標を明確化した。

ダイキン工業の十河政則社長兼CEOは、「FUSION25後半3カ年では、売上高は市場全体を上回る年率7%程度の成長を維持し、過去最高の更新を目指す。環境と空気の新たな価値を提供し、サステナブル社会への貢献とグループの成長を実現する」との方針を示した。

「FUSION25」を最初に発表した2021年6月時点では、2025年度の売上高は3兆6,000億円、営業利益は4,300億円、営業利益率を12%としていたが、2022年度には売上高、営業利益ともに、過去最高業績を更新。これを反映して、2025年度の計画は、売上高が4兆5,500億円、営業利益は5,000億円、営業利益率は11%とした。

  • 過去最高業績でFUSION経営を前倒し、ダイキンが掲げる「一流の実行」の中身

    ダイキン工業の業績推移

  • FUSION25の当初計画は前倒しで達成

  • 最高業績を反映して目標を引き上げる

また、研究開発投資や各地の生産能力の増強、生産の自動化などの設備投資で、3年間累計で1兆2,000億円を計画していることも明らかにした。営業利益率は当初の計画よりも1ポイント減少するが、後半3カ年では積極的な設備投資や研究開発投資、デジタル投資を実施する計画であり、「利益率に換算すると1ポイント相当になる。これを差し引けば、当初の12%の水準になる」と説明した。

十河社長兼CEOは、「FUSION25は、新型コロナウイルスの感染拡大により、これまでに経験したことのない環境変化が起こり、先行きが不透明のなかでスタートしたものの、前半2カ年は、当初計画を上回るスピードで、業績を拡大することができた。2022年度は、2023年度計画を1年前倒しで達成している」と語り、「FUSION経営とは、短期の収益力と中長期の成長性を両立し、ぎりぎりの接点を行くものになる。さらに、時々の状況によって、ときには短期、ときには中長期と、使い分けて判断する実行重視の経営システムである。また、世の中の変化を見据えて、それを先取りし、アクションテーマに取り込み、次の成長への一歩を形にしていく独自の仕組みともいえる。ダイキン工業が、これまで成長しつづけてこられたのは、FUSION経営に徹底的にこだわり、実践してきたからである」と振り返った。

  • ダイキン工業 代表取締役社長兼CEOの十河政則氏

環境や省エネをリード、そしてインドの一大拠点化

FUSION経営は、2001年にスタートし、FUSION25は、第5次計画となる。2001年時点に比べて、売上高は8倍、営業利益は6倍に拡大。現在、170カ国以上で事業を展開し、グループ従業員は9万5,000人を超える規模に成長している。

FUSION25では、成長戦略で3テーマ、強化地域/事業で1テーマ、経営基盤強化で5テーマの合計9テーマを重点戦略としてきたが、後半3カ年計画では、強化地域/事業において、「インドの一大拠点化」、「化学/高機能材料・環境材料のリーディングカンパニーへの挑戦」の2テーマを追加。また、従来から取り組んでいる成長戦略の「カーボンニュートラルへの挑戦」では、工場での GHG 排出実質ゼロ化や自然冷媒、サーキュラーエコノミーへの取り組みを追加。同じく成長戦略の「顧客とつながるソリューション事業の推進」では、業務用ソリューションおよび低温ソリューションに加えて、新たに住宅用ソリューションへの取り組みを追加した。

  • FUSION25、後半3カ年のポイント

  • FUSION25の重点戦略テーマ。赤字が今回の強化で追加されたテーマ

成長戦略では、「カーボンニュートラルへの挑戦」、「顧客とつながるソリューション事業の推進」、「空気価値の創造」の3テーマに取り組む。

「カーボンニュートラルへの挑戦」では、ヒートポンプ暖房・給湯事業において、欧州におけるダントツNO.1を目指すとともに、米国や中国などの世界各国でのヒートポンプ化を推進。また、化学工場を除く、グローバル全工場において、2030年までに温室効果ガス排出実質ゼロを実現する。堺製作所・臨海工場では、2023年度に度実質ゼロ化を実現する予定だ。さらに、冷媒の回収や再生の事業化による「冷媒エコサイクル」の構築も進める。

ダイキン工業 執行役員 経営企画室長の植田博昭氏は、「世界情勢の急激な変化もあり、環境や省エネは、時代のテーマとして、市場が活性化している。ヒートポンプ暖房・給湯、インバータエアコンなどの環境商品に対して、積極的に先行投資していく。また、冷媒の低GWP(地球温暖化係数)化や、回収、再生網の構築に取り組む」とした。

ヒートポンプ暖房・給湯の売上高は、2023年度見通しの4,200億円から2025年度には8,300億円に急成長させるほか、ルームエアコンのインバータ化率を、2025年度には93%に高める。

さらに、地域ごとに最適な冷媒を選択。米国では先行してR32化を推進。日本および欧州では、ビル用マルチエアコンのVRVのR32化に取り組むという。

「顧客とつながるソリューション事業の推進」では、顧客と直接つながる体制づくりのほか、市場別や用途別の提案力の強化、データ活用および分析のためのプラットフォームの構築、アジアでのソリューションハブの設立、米国でのデータセンター向けや計装エンジニアリング、エネルギーマネジメントなどの強化に向けたM&A などを推進する。

「業務用ソリューションでは、市場や顧客ごと、物件ごとで提案内容が異なるソリューション事業の推進に向け、オーナーに直接提案できる販売網や営業体制を強化。DX やカーボンニュートラルへの対応、省人化ニーズに対応する用途別、市場別の商材や、提案メニューの拡充に取り組む。住宅の省エネ規制、住宅機器の無線通信規格の標準化の加速を踏まえ、住宅ソリューションにも新たに挑戦。低温ソリューションでは、生産地から消費地までのコールドチェーンにより、脱炭素化の実現や食品ロスに関する事業モデルを創出。アジアへの事業展開や事業領域の拡大に取り組む。日本での店舗への本格参入を進める」とした。

2025年度の売上計画は、業務用ソリューションが8,700億円、住宅用ソリューションは2,000億円、低温ソリューションは2,100億円を目指す。

十河社長兼CEOは、将来の住宅ソリューションの考え方に言及。「日本では、都市部を中心に住宅が電力を作る場になると予想される。太陽光で発電し、蓄電池やEVで供給したり、街全体で利用したりする時代がくる。そのときにどんな住宅ソリューションを作るかが課題である。パナソニックや三菱電機は、太陽光や蓄電池、EVを持っているが、ダイキンにはない。空調機とエコキュート、換気商品だけである。ダイキンの強みになるのは、蓄熱や排熱などの熱エネルギーマネジメント。たとえば、蓄電池の排熱をどう利用するかといったところを切り口にやっていく必要がある。熱を電気に変えるといった取り組みにも力を入れたい。材料が解決の糸口になるのではないかと考えているが、コストと実現性のある材料が見つかっていない。技術陣に命題を与えているところである」と語った。

  • 顧客とつながるソリューション事業の推進

「空気価値の創造」では、空気清浄機や全熱交換機などの機器売りから、空気、換気、空気清浄機を組み合わせたシステム販売へと転換。さらに、感染予防やアレルゲン、酸素、自律神経の4テーマの事業化にも挑戦する。植田執行役員は、「オフィスや学校などでのエアロゾル感染リスクの低減、アレルギーフリー空間の提供による花粉症対策、運動や学習効果を向上させる空間の提供、睡眠時の冷え性を改善する環境の提供を行う。また、アレルゲンセンサーなどの開発も同時に進める」という。また、東京大学や京都大学、鳥取大学などとの産学連携により、新たな空気価値を探求し、将来の価値提供を目指す。 空気・換気事業では、2025年度に3,800億円の売上高を計画している。

  • 空気価値の創造

一方、強化地域/事業では、新たに2つのテーマを追加し、3つのテーマに取り組む。

FUSION25前半から取り組んできた「北米空調事業」では、インバータ機のFITを中心に、省エネ機器の販売を拡大。各地域での有力な販売会社の買収、サービスソリューションの拡大、独自の販売モデルの構築などに加えて、新たに環境プレミアム商品の拡販、業務用事業、アプライドソリューション事業を推進。ダイキンコンフォートテクノロジーズノースアメリカ(DNA=旧グッドマン)、ダイキンアプライドアメリカズ(DAA)との連携を加速することで、北米事業ナンバーワンを目指すという。

2025年度の売上高は1兆5,000億円を計画。営業利益率10%の達成を目指すことになる。

  • 北米空調事業

追加テーマとした「インドの一大拠点化」では、人口14億人の巨大市場を背景に、世界で最も空調需要が拡大すると予測し、2029年度には、空調機の市場規模が4,000万台になると推定。需要の急拡大に対応するため、南部のスリシティで建設中の新工場を2023年8月から稼働させることで、生産能力の増強と部品の現地調達化を推進。さらに、新たに西部での新工場建設の検討も開始する。これにより、ルームエアコンの生産規模を300万台~500万台に拡大できるという。

「インドを、中東やアフリカなどへの輸出拠点として育成することも考えている。インドで部品調達から生産までの一貫体制を構築し、世界戦略の要と位置づけ、事業展開を加速。販売網やサービス網の強化、R&D機能の拡充、エンジニアなどの人材育成を進める」(十河社長兼CEO)という。

インドにおける売上高は2023年度見通しの1,380億円を、2025年度には1,750億円に拡大し、さらに上乗せを目指す。「2025年度までに、住宅用、業務用ともに圧倒的ナンバーワンの地位を確立。開発機能と生産能力を増強し、スケールメリットを活かして、高い競争力を実現する」(植田執行役員)と述べた。

  • インドの一大拠点化

もうひとつ新たに加えた「化学/高機能材料・環境材料のリーディングカンパニーへの挑戦」では、培ってきた技術や顧客基盤を活かしつつ、提携や連携、M&Aを駆使して、フッ素にこだわらず、高機能材料や環境材料のラインアップを拡充していくという。

具体的には、高耐熱、低誘電のポリイミド(PI)、撥水性に優れたシリコン、高強度のPEEKなどに取り組むほか、バイオマス由来の高機能材料の開発にも取り組む。半導体や自動車、情報通信端末を中心に提案力を強化し、事業拡大を図るという。

  • 化学/高機能材料・環境材料のリーディングカンパニーへの挑戦

なお、FUSION25の重要課題では、「経営基盤強化」において、「技術開発力の強化」、「強靭なサプライチェーンの構築」、「変革を支えるデジタル化の推進」、「市場価値形成・アドボカシー活動の強化」、「ダイバーシティマネジメントの深化による人材力強化」の5テーマを掲げており、後半3カ年もこれに取り組む。

一流の戦略・二流の実行よりも、二流の戦略・一流の実行

ダイキン工業の十河社長兼CEOは、「変化は、リスクであるとともにチャンスであリ、ダイキンは、成長機会に恵まれた会社である。だが、欧州のヒートポンプ暖房給湯市場では大きな成長が見込まれるものの、多くの競争相手が参入してくるという課題もある。グローバル企業同士の熾烈な戦いに勝ち続けるために、FUSION25前半の成功体験にとらわれず、後半3カ年も創造的破壊と新しい発想で、挑戦し続けることが重要である。メーカーは、いかに技術で勝つかが重要なポイントである。一歩進んだ技術開発や差別化された商品開発が欠かせない。そのためには、コアになるところは自分で開発するものの、技術進歩のスピードにあわせるために、他企業との提携や連携といった協創を、加速できるかどうかが重要である。後半3カ年も外部との協創を加速する」としたほか、「ダイキン独自の強みは、地産地消に最寄化したグローバルでのモノづくりと販売網の構築である。また、課題に真正面から立ち向かう強靭さと、共に働く仲間との強い絆に基づくチームワーク、帰属意識や定着性の高さ、実行力を持っている点も強みである」とした。

また、「過去から脈々と継いできた企業風土や組織風土に磨きをかけたい。不確実性の時代において企業経営に求められるものは、未来を先読みする力と果断な意思決定、そして実行力である。未来に対する答えは自分たちで考える。『実行なき戦略は無に等しい』、『“一流の戦略、二流の実行”よりも“二流の戦略、一流の実行”』を掲げており、この姿勢を重視し、変化を先取りし、先手で意思決定し、それを実行することに取り組む。この姿勢で、後半3カ年計画をやり抜いていく」と述べた。

過去最高業績を起点に、実行力をベースにした中期経営計画の総仕上げが始まることになる。