パナソニックグループは、環境行動計画「GREEN IMPACT PLAN 2024(GIP2024)」を新たに打ち出した。

同社では、2022年1月に、2030年までに全事業会社のCO2排出量を実質ゼロにするなどの目標を掲げた長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を発表。2022年4月には、事業会社制のスタートにあわせて、2050年に全世界CO2総排出量の約1%にあたる3億トン以上の削減インパクトを目指すことを発表し、その後、各事業会社からサステナビリティに関する中期的な目標が発表されていた。

  • 全社CO2排出ゼロの更に先へ、パナソニックが打ち出す環境計画のインパクト

    パナソニックグループの中長期戦略のなかの「Panasonic GREEN IMPACT」

パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOは、「新体制発足後、各事業会社の中期戦略が策定された。これにより、地球環境問題の解決に向けたPanasonic GREEN IMPACTの取り組みについても、2024年度と2030年度のマイルストーンにおける解像度をあげることができた」とする。

  • パナソニックホールディングス グループCEOの楠見雄規氏

新体制がスタートして、約3カ月を経過。事業会社ごとの戦略策定に伴い、より明確な形で、自社排出実質ゼロおよび削減貢献に向けたロードマップを示してみせた。

今回、新たに発表した「GIP2024」は、Panasonic GREEN IMPACTで掲げた2050年の環境目標の達成に至るマイルストーンと位置づけ、自社バリューチェーンにおけるCO2排出削減量や、社会のCO2排出の削減貢献量に関して、2024年までに実現する具体的な行動計画と、2030年までの目標を定めた環境行動計画としている。

  • 新たに環境行動計画「GIP2024」を策定

  • 自社排出実質ゼロおよび削減貢献に向けたロードマップ

2024年度の目標として、3つの観点から明確な指標を定めており、「これらは、各事業会社の数値を積み上げたものであると同時に、あるべき姿からのバックキャストで中期の行動計画をコミットしたもの」だという。

ひとつめは、「OWN IMPACT」において、自社バリューチェーンにおける排出削減インパクトを明確に掲げた点だ。

OWN IMPACTとは、生産や部材調達に関わる活動などによるCO2排出量に加えて、パナソニックの商品を使う顧客が、それによった排出するCO2を含めた、同社に関わるすべての活動を指しており、スコープ1、2、3にまたがるものになる。

Panasonic GREEN IMPACTでは、2050年までに1億1,000トンの排出量削減インパクトを掲げていたが、今回のGIP2024では、2024年度のCO2削減量で1,634万トンを目指す目標とともに、2030年度には3,145万トンを計画していることを発表した。

また、ここでは、CO2ゼロ工場数を、2020年度の7工場から、2024年度末までに37工場に拡大する計画も明らかにした。

「2030年度には、工場およびオフィスのCO2排出量を実質ゼロにし、くらし事業領域における省エネの徹底により、スコープ3の製品およびサービスでの排出量を1,608万トン削減する」という。

また、「それぞれの事業会社が策定したスコープ1および2におけるCO2排出量実質ゼロ計画を加速させるため、グループ横断での情報や取り組みの横展開を進めている。再生可能エネルギーのコストや安定供給量は、国や地域ごとに異なる。地域に応じて率先した取り組みを進める9つのCO2ゼロ工場などをモデル工場とし、そこで蓄積したノウハウをグローバルに展開する。再エネは海外の方が、コストが安く、供給量も安定しているため、2024年度までは海外の再エネ導入が先行し、再エネ普及が遅れる国内では、まずは工場のムダ取り、工程の見直し、省エネ設備の導入などにより、エネルギーの使用量を徹底して削減し、その上で再エネの導入および調達を進めることになる」とした。

また、太陽光パネルや蓄電池、燃料電池の導入に加えて、滋賀県草津のRE100ソリューションの実証で得られたノウハウも横展開していくほか、インターナルカーボンプライシング制度によって再エネ導入を後押しする考えを示した。さらに、敷地の制限によって十分な太陽光パネルが設置できない工場では、オフサイトコーポレートPPAを活用し、再エネの調達を効率よく進めるという。とくに、パナソニック オートモーティブシステムズ、パナソニックインダストリー、パナソニックエナジーでは、CO2ゼロ工場の達成を優先的に加速させ、その知見をグループ全体に積極展開していくことになるという。

楠見グループCEOは、「省エネの徹底とともに、効率的な再エネの導入、調達を選定し、2030年度までには、すべての事業会社で、CO2排出量ゼロを実現することを約束する」と述べた。

2つめは、「CONTRIBUTION IMPACT」において、2024年度に3,830万トンのCO2削減貢献量を目指すという目標だ。

CONTRIBUTION IMPACTは、既存事業による社会へのCO2排出削減貢献インパクトを示したものであり、環境車の普及拡大への貢献などによる電化の加速、エネルギーロスの最小化、水素エネルギーの本格活用を目指した取り組みなどが含まれる。

Panasonic GREEN IMPACTでは、CONTRIBUTION IMPACTにおいて、2050年に1億トンの削減貢献インパクトを目標に掲げており、今回のGIP2024では、2024年度の目標とともに、2030年度に9,300万トンのCO2削減貢献量を目指すことも発表した。

「電化、エネルギー効率、水素の分野を中心に、既存事業の競争力を高めることで目標を達成していく。地球温暖化の流れをいち早く止めるため、あらゆる手段を速やかに講じて、より大きな貢献を果たしたい」とする。

  • 2030年度に9,300万トンのCO2削減貢献量を目指す

電化では、2020年度には970万トンの削減貢献インパクトの実績を、2024年度には2,510万トン、2030年度には7,000万トンに拡大する。

「供給電力を再生可能エネルギーに変える脱炭素の取り組みは世界中で進んでいくことになるが、化石燃料を燃焼させる商品が排出するCO2に課題が残ると考えている。パナソニックグループでは、化石燃料を燃焼させる商品の電化を進める。環境車の普及や、ガス機器の電化製品への置き換えによって貢献していく」と述べた。

電化の取り組みにおいて、中核のひとつになるのが環境車向け車載電池である。ここでは、2024年度に2,100万トン、2030年度に5,900万トンのCO2削減貢献量を目指す。2020年度の800万トンの実績に比べて、10年間で7倍以上となる意欲的な目標だ。

「モビリティの電動化は、カーボンニュートラル社会に向けた効果が最も大きい事業である。環境車向け車載電池の市場規模は2030年度までの年平均成長率が31%と高い成長が見込まれている。パナソニックグループは環境車の普及に必要な性能やコスト力を徹底して強化。とくにリチウムイオン電池の品質や性能の強みを必要とする顧客にフォーカスし、強固な関係性を築き、10年スパンでの投資判断を慎重に見極めていく」とした。また、「性能については、高容量、高信頼の電池技術で業界をリードする一方、資源採掘や原料加工、電池製造までのバリューチェーンにおいて、CO2排出量の半減にも取り組み、EVの環境性能を高めていく。さらに、材料や製造プロセスの革新を進め、材料費や設備コスト、省人化といったコストを決定する要素において、目標を決めて追求していく。また、原材料のマルチソース化や現地調達力の向上により、サプライチェーンの最適化を進め、供給力を高めていく」と述べた。

  • 電化の取り組みで中核となる環境車向け車載電池

電化におけるもうひとつの柱が、ヒートポンプ式温水暖房機である。この分野では、2020年度の110万トンのCO2削減貢献量を、2024年度には380万トン、2030年度には1,100万トンを目指す。

「温水暖房が普及している欧州では、脱炭素意識の高まりと、グリーンディール政策による補助金制度、ウクライナ情勢の影響により、ガスや石油を用いたボイラーから、ヒートポンプ温水暖房機への置き換えが急速に進んでいる」と指摘。同市場が2030年度までの約10年間で、約8倍に拡大すると予測されていることを示す。

「急拡大する欧州市場において、2023年度から、チェコ工場の生産体制の強化による地産地消の推進を進める。また、外部気温が低くても安定した能力で暖房性能を維持できる独自技術のほか、IoT対応によって、機器の異常や、その予兆を遠隔監視で捉えて、安心を提供できる点を訴求したい。すぐに駆け付けるメンテナンスサービスを順次展開し、シェア拡大につなげたい」と述べた。

  • ヒートポンプ式温水暖房機も電化の大きな柱になる

また、現地メーカーとの協業により、温水用換気システムとの連携や、家庭用管理エネルギーソリューションとの連携、パナソニックグループの業務用空調設備との組み合わせ提案などを通じて、エネルギーの有効活用を進め、快適性の実現とともに、化石燃料からの脱却に貢献するという。

エネルギー効率では、2020年度の240万トンの削減貢献インパクトの実績を、2024年度には630万トン、2030年度には1,700万トンを目指す。

「使うエネルギーを最小化するために、エネルギーを効率よく活用するソリューションの開発や、商品の省エネ化にも力を注ぐ。空質空調の機器連携や照明制御、分散型電源の普及を進める」という。

とくに、力を注ぐのが空質空調機器連携である。ここでは、2020年度に20万トンのCO2削減貢献量に対して、2024年度には70万トンに、2030年度には400万トンに拡大させる。

「コロナ禍において、空質に対するニーズが世界中で高まり、2030年度には7兆円規模の市場になることが想定されている。ニーズは地域によって異なり、気候や住宅事情、購買力などの観点から捉えていくことになる。現時点では、欧州、中国、北米、日本での需要が顕在化している」とする一方、「外気を取り入れる環境はエネルギーロスにつながるが、パナソニックでは、吸排気時に快適な室温を維持しながら空気を入れ替えることができる熱交換換気ユニットと、温度と湿度のバランス、気流を考慮し、体感温度を制御できる空質空調機器連携により、エネルギーロスを最小化できるソリューションを展開している。また、クリーンで、安心な室内環境を実現するために、除菌、調湿、換気に関する独自技術を活用できる。ナノイーXやジアイーノなどの独自のアクティブ型空気浄化技術は、空気中を浮遊する菌や、部屋に付着した菌を抑制し、室内空間全体の浄化を提案できる。快適な室温を保ちながら、定期的な換気や除菌によって、クリーンな室内環境を実現することができ、これらを安心して使ってもらえる販売網、エンジニアリング力も強化していく」と語った。

  • とくに注力する空質空調機器連携

水素では、2020年度には20万トンの削減貢献インパクトを、2024年度には60万トンとし、2030年度には600万トンを目指す。10年間での削減貢献インパクトは30倍に拡大することになる。

「エネファームや純水素型燃料電池の普及を通じて、脱炭素エネルギー化を進める。長期的な視点では、水素社会の実現に向けてグリーン水素生成などのバリューチェーン拡大も目指す」と述べた。

純水素型燃料電池については、「電化が進み、グローバルで電力需要が高まるなか、不安定な太陽光や風力などの自然エネルギーによる電源インフラの不安定リスクを解決する調整電力としての役割が期待される。また、高密度で長期間の貯蔵と、減衰がない移動を可能とするエネルギーキャリアとして役割も果たすことになる」とし、「脱炭素に向けた長期的シナリオのひとつとして注目されており、純水素型を含む燃料電池システムは、2030年度には9,000億円のグローバル市場規模が見込まれる。パナソニックグループは、水素を本格活用したH2KIBOUフィールドでのRE100の実証実験を世界に先駆けてスタートし、顧客とともに10数件の案件が具体的な検討に入っている。性能進化やモノづくりの革新に加えて、コンサルティングやエンジニアリング、サービス網の構築も進めていく。パートナーとともに、水素を作る、運ぶ、使うというサプライチェーン全体を推進する考えである。競合他社に比べて、競争力を長期的に有することができるかという視点で、今後の投資判断をしていく」とした。

  • 純水素型燃料電池は2050年度に3.6兆円のグローバル市場規模になるとの見通しも

なお、パナソニックグループでは、Panasonic GREEN IMPACTにおいて、OWN IMPACTと、CONTRIBUTION IMPACTとともに、FUTURE IMPACTも打ち出している。

FUTURE IMPACTは、クリーンエネルギーのさらなる実用化に向けた革新的なデバイス開発や、エネルギーの需給バランスの調整など、新技術や新事業を創出することで、社会のエネルギー変革をもたらし、2050年に1億トンの削減貢献インパクトを計画している。

だが、FUTURE IMPACTは、2030年度以降に貢献する技術や事業が中心になっているため、今回のGIP2024では、数値目標などは設定されていない。

  • 「OWN IMPACT」と「CONTRIBUTION IMPACT」とともに、「FUTURE IMPACT」も打ち出しており、ここでは新技術や新事業の創出による社会のエネルギー変革をもたらすことで、1億トンの削減貢献インパクトを計画

パナソニックホールディングスの小川立夫グループCTOは、「FUTURE IMPACTでは、水素生成やそれに伴うバリューチェーン、再生可能エネルギーをマネジメントするDERMS(分散型電源管理システム)にも力を注ぐ。また、形状が自由で、軽量化でき、様々な場所に設置できるペロブスカイト太陽電池にも力を入れたい」などと述べた。

楠見グループCEOも、「研究開発段階のものもあるが、要素を磨き、生産方法を磨き、競争力の高いものを提供できれば、FUTURE IMPACTの実現につながる。現時点では、GIP2024に、FUTURE IMPACTの数字は入れていないが、前倒しで入れていきたい」と述べた。

3つめは、サーキュラーエコノミー領域への貢献である。ここでは、工場廃棄物リサイクル率を2020年度実績は98.7%から、2024年度には99%以上に高め、2024年度までの3カ年累計での再生樹脂使用量を9万トン以上、サーキュラーエコノミー型事業モデルや製品を、2020年度の5事業から、13事業に拡大する計画を示した。

「廃棄物処理の手段が整っていない国や地域が残るなか、製品設計の見直しや分別の徹底などで、グローバルでのリサイクル率を99%以上で常態化する。再生樹脂の使用拡大については、これまでの3カ年に比べて2倍以上の規模を目指すことになる。サーキュラーエコノミー型事業モデルや製品の創出では、すでに事業展開しているセルロース混合樹脂などがあるが、2024年度までに家電サブスク事業、電動アシスト自転車シェア事業などにも乗り出すことになる」とした。

楠見グループCEOは、「まずはGIP2024の目標達成に全力で取り組むが、その先にある2030年度の目標値もクリアにすることができた」とし、「Panasonic GREEN IMPACTに込めた思いは、責務や貢献を果たしきるという決意だけではない。パナソニックグループの活動が、地球環境を憂慮する世界中の人たちの思いとつながり、社会へのインパクトとなって影響を与え、波紋となって広範囲に、お客様や他の会社の活動へと広がっていくという願いをIMPACT(インパクト)という言葉に込めている。この広がりが社会から認められ、活動を後押ししてもらうためのグローバルコンセンサスを形成することにも取り組む。一刻も早く、カーボンニュートラルを実現し、美しい地球環境と共存する社会の実現を目指して、国や企業、業界団体との活動も積極的に推進していく」と述べた。

なお、楠見グループCEOは、「削減貢献量は、まだ統一された算定方法が確立されていない。算定方法の標準化が進み、それが現在採用している算定方法と違うものになれば、その時点での見直しが必要になる」とも述べた。