親子で3DCG制作を学ぶことができる、「みらいのおねんど特別教室『親子で学ぶ!動きのデザインで3Dキャラを作ろう』」(以下、みらいのおねんど特別教室)が東京・日本科学未来館にて6月19日に開催された。本稿では、現地の様子と講師陣へのインタビューをお届けする。

  • 小学生とその保護者に、3DCGを使った造形を教える「みらいのおねんど特別教室」が開催された

    小学生とその保護者に、3DCGを使った造形を教える「みらいのおねんど特別教室」が開催された

「うごきのきもち」を3DCGソフトで表現!

みらいのおねんど特別教室は、小学生を対象にした3DCGの親子体験教室。SonoSakiとGKダイナミックスの共催で開催。機材協力としてワコムとエムエスアイコンピュータージャパンが参加している。

  • かっこいい、かわいいといったイメージを生み出すヒミツを学び、造形に生かしていく

    かっこいい、かわいいといったイメージを生み出すヒミツを学び、造形に生かしていく

世の中には「かっこいい!」「かわいい!」と感じさせるようなデザインがたくさんあふれている。それは、デザインでそう感じるように設計されているからこそ、大きく感情を動かされてしまうのだという。この教室ではデザインの概念を学び、ねんど遊びのように3DCGで形にしていくものとなっている。

前半はGKダイナミックスのさらさ先生と松田先生からデザインの概念を学び、後半はSonoSakiのかえで先生が3DCGソフトを使った制作の実践レクチャーを行う。

  • GKダイナミックスの松田先生(左)、さらさ先生(右)

    GKダイナミックスの松田先生(左)、さらさ先生(右)

生き物のような動きのあるデザインのことを「動態デザイン」といい、この動態デザインを考えることで大切なのは「うごきのきもち」を考えることだとさらさ先生は話す。まず、デザインするものの“うごき”に注目し、その“きもち”を明確にしておくことで、伝わりやすいデザインになる子どもたちに解説した。

さらさ先生はプロダクトデザイナーとして、バイクなどのデザインを手掛けている。バイクなどの乗り物を見て「かっこいい!」と感じるのは、そう感じるようにデザインされているから。デザイナーの意図した通りに感じてもらえるデザインは、「うごきのきもち」と表現が一致していることが重要。この2つが一致していると、「かっこいい」「はやい!」などが伝わりやすくなるという。

  • バイクに乗った人のイラストの比較。移動の方向を示す動きが加わることで、かっこよさが際立つ

    バイクに乗った人のイラストの比較。移動の方向を示す動きが加わることで、かっこよさが際立つ

子どもたちは持参した動物のテーマ資料にトレーシングペーパーを重ね、生き物がどんなふうに動こうとしているのかを考察し、”うごき”の矢印を記入。その矢印の”うごきのきもち”がどのようなものかを親子で考えて記入していった。

  • 動物の動きに矢印でうごきを記入

    動物の動きに矢印でうごきを記入

デザインするものの「うごきのきもち」がわかったところで、かえで先生にバトンタッチ。かえで先生は生物専門のスカルプトモデラーで、博物館などで展示される絶滅した恐竜の模型の原型など、さまざまな生き物の3DCGモデルを制作してきているほか、講師としても活動している。

  • SonoSakiのかえで先生

    SonoSakiのかえで先生

今回使うソフトウェアは、フィギュアやアクセサリーのデザインだけでなく、映画やCMなど、さまざまな場面で幅広く使われている3DCGソフト「ZBrush」のエントリー版である「ZBrushCore」。デジタル上で、まるでねんどのようにいろいろな形を作ることができる。

また、機材としてはワコムの液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq 16」を使用。液晶画面を見ながら直接ペンで操作できるので、子どもたちは直感的に使っている様子だった。

  • Wacom Cintiq 16とZBrushを使った3DCG制作に挑戦

    Wacom Cintiq 16とZBrushCoreを使った3DCG制作に挑戦

ペンの使い方からブラシ選択、彩色の方法など、基礎から丁寧にチャレンジ。最初は戸惑っていた子どもたちも、“おねんど”で、さまざまな動物たちのかたちを作っていくことができるようになっていた。ときどき先生からのアドバイスを受けつつ、試行錯誤をくりかえして初めての作品を完成させた。

  • 先生のアドバイスを受けつつ、作品作りに没頭

    先生のアドバイスを受けつつ、作品作りに没頭

最後の発表会では、緊張しながらも自分の作品のこだわったところなどをプレゼンテーション。子どもたちの作品は、完成度に驚きの声があがるほどの出来栄えだった。

3時間という長丁場ではあったが、低学年の子どもも集中して取り組むことができ、「あっという間で楽しかった」と笑顔で話していた。

  • 泳ぎの動きを取り入れたペンギンの3DCGモデル

    泳ぎの動きを取り入れたペンギンの3DCGモデル

先進国では3Dを教育に導入する動き

先進国をはじめとする諸外国では、すでに3Dを取り入れたSTEAM教育がスタートしている。3Dは子どもの思考力や探求心、発想力を伸ばし、新しい視点を得ることができるものとして、積極的に取り入れられている。しかしながら、日本は諸外国に比べて非常に後れを取っており、3Dを教えられる人材も非常に少ないのが現状だという。

  • 3Dを取り入れたSTEAM教育を実施している国も

    3Dを取り入れたSTEAM教育を実施している国も

3D教育によって自由な発想を得られるだけでなく、職業の選択の幅を大きく広げることにもつながる。3Dデータは世の中にあるさまざまなプロダクトに活用できるほか、映画やアニメなどの映像制作、ARやVR、ゲームなどにも使えるからだ。この日子どもたちが制作した3Dデータも、3Dプリンタでフィギュアにしたり、自作ゲームなどのキャラクターにしたりすることが可能なのだという。

非常に汎用性が高い3D制作技術。そう遠くない将来、日本でも3Dを学習することが当たり前になるのではないだろうか。

「3Dがもっと身近になってほしい」講師陣の思い

みらいのおねんど特別教室を終えたばかりの市瀬更紗(さらさ)さん(GKダイナミックス)、松田築さん(GKダイナミックス)、戸田かえでさん(SonoSaki)の3人の先生方と、主催のSonoSakiと一緒にこの教室を企画した本田宗久さん(GKダイナミックス)に、今回のワークショップの感想や、3D教育の今後について聞いた。

  • 左から、松田築さん(GKダイナミックス)、市瀬更紗さん(GKダイナミックス)、本田宗久さん(GKダイナミックス)、戸田かえでさん(SonoSaki)

    左から、松田築さん(GKダイナミックス)、市瀬更紗さん(GKダイナミックス)、本田宗久さん(GKダイナミックス)、戸田かえでさん(SonoSaki)

――ワークショップを終えて、子どもたちの印象など感想をお聞かせください。

松田:普段の業務では体験できない、子どもたちのクリエイティビティを全身で受けることができ、すごく楽しかったです。自分だったら真面目に作ってしまうところですが、意外なところを大きくしたりと自由な発想に驚きました。ダイナミックで感動しましたね。

市瀬:自由な発想は、自分にはないものだったというか…忘れていたものがまた戻ってきたような感覚になっています。すごく新鮮。子どもたちの話を聞くと、逆に子供たちが私の話も聞いてくれて、一緒に作っていく感覚が楽しかったですね。

本田:今回の狙いは、僕らが普段やっている業務のエッセンシャル版をやること。でも、僕らが普段使っているようなコンセプト、スタイリングキーワードといった言葉は使わず「うごきのきもち」に言い換えています。それがうまく伝わるのかがすごく楽しみでしたが、保護者の方のご協力もあって、うまく飲み込んでいただけたように思います。

戸田:今回、GKダイナミックスのみなさんと一緒にワークショップをさせていただきました。最初に、デザインを学び、動きをつけるところをさらさ先生と松田先生にやっていただいたことで、普段よりもかなりダイナミックに作ってくれていたように感じています。デザインをまず学ぶことで、クオリティが高い作品が作れることを感じられて楽しかったです。

  • みらいのおねんど特別教室の様子

    みらいのおねんど特別教室の様子

――みなさんが3Dに触れるきっかけはなんでしたか?

戸田:私は小さいころからずっとゲームが好きでしたが、25歳になるまで3Dにはまったくかかわっていなかったんです。将来性のある手に職をつけたいな、と探した中に3Dの仕事があることを知って、そこから独学でいろいろ勉強しました。

あと、恐竜もすごく好きだったので、恐竜をいっぱい作ろう!という意気込みでやっていましたね。それで、スピノサウルスをYouTubeとかを見ながら作ったんですけど、でき上がってみたらもう、プロになった気になれたんです(笑)。もちろん、今思うと全然なんですけど、3Dでなんでもできちゃうじゃん!っていう興奮がありました。

本田:僕はここにいるみなさんの2世代くらい前のソフトが使い始めです(笑)。学生のときの授業でSTRATAを使ったのが最初で、手のスケッチとは全然違う質感で衝撃を受けました。実物で作るのとは違う感覚、別物としてすごく面白かったのを覚えています。

どんどん技術が進んで、今は振り落とされないようについて行っている感じですが、3D技術は例えば最終的な製品になったらどうなるかというシミュレーションなどで圧倒的に時間短縮ができますし、失敗していた時の判断も早くなる。そういうところがすごくいいと思います。

市瀬:私も大学生のころでした。企業説明か授業だったと思うんですが、世の中って全部3Dでできているんだ!ということに驚いて、一気に見える世界が変わりましたね。世の中にあるもののでき上がる過程を知らなかったんです。それから授業の中で3Dデータを作って、3Dプリンタで出したときの喜びは、今でもよく覚えています。

それに、3Dは触っていくだけでどんどん上手くなっていくのが実感できるんですよ。こうしたい、という気持ちも考えも、すぐにできてしまう。どんどん伸びていくのがいいですね。

松田:美大に入るまで、3D技術には全然興味がなかったんです。というより、3Dでフィギュアとかはあこがれの対象で、自分ができることとして考えていなかった。

でも、今日の子どもたちと一緒で、ちょっと教えてもらってやってみると、意外と自分でもある程度は思い描いたものを作れる。そこに最初の感動がありましたね。

――今後、3Dが世の中にどのように広がっていくのが理想でしょうか。

戸田:ほかの先進国では3Dに関する教育がかなり進んでいて、講師も一緒に育てていくようなプロジェクトが始まっているんです。ただ、日本ではそもそも先生が忙しすぎるなどのいろいろな課題があって、進んでいません。

そうした問題を1つずつクリアにしていって、何とか日本でも先進国のように3Dを導入できればなと。やっぱり、世の中のほとんどのものが3Dでできているので、その重要性を多くの人に知ってもらいたいですね。

個人的にはMRグラスに強い興味を持っていて、早くそれがコンタクトレンズみたいになってほしい。自分が作ったキャラクターとかが、もう普通に見えちゃう。看板とかもバーチャルで好きなキャラとかもどんどん出てくる。そういう世の中に早くならないかな、って思っています。

市瀬:3Dソフトって言葉で聞くとすごく難しいし、とっつきにくい。私自身、そう思っていました。でも、実際はむしろ逆で、めちゃくちゃお助けしてくれるものなんです。

自分がやりたいことに対して、3Dソフトはすごく助けてくれる「すごくいい人」な感じなんですよ。だから、皆さんもどんどん気軽に取り入れて、どんどん作れるようになって、どんどんいろんなアイデアを形にしていってほしいなと思いますね。

松田:デジタルネイティブの世代がどんどん増えていく中で、僕が感じているデジタルは、一種の表現方法でしかないと思うんです。そのうえで、デジタルで表現するということが、絵を描くとか、歌を歌うとかと一緒くらいに認識されたらいいですね。絵や歌は得意じゃないけど、デジタルで表現するのは得意、そういう子どもたちが増えていくことを期待しています。

本田:漫画やアニメ、ゲームもそうですが、自分たちが普段楽しんでいるものを作るために、今日子どもたちが学んだソフトが使われているんです。それが、世の中の人には地続きに把握されていないんですね。

だから、たとえるなら「漫画家が、漫画家になってからソフトを勉強する」みたいなことが起こっているんです。最初から(ソフトのことを)知っていれば、もっとスムーズに仕事に導入できたと思うんですね。今日のワークショップのようなことが、そのきっかけになればいいなと思っています。

  • みらいのおねんど特別教室の様子

    みらいのおねんど特別教室の様子

世の中にあるほとんどのモノづくりに関わっているにもかかわらず、まだまだ知られていない3D技術。難しいもの、専門的な人にしか使えないものというイメージは確かにあるが、この日のワークショップに参加した子どもたちにも使うことができるほど、実際は非常に取り組みやすいものだった。

子どもたちの可能性を広げることができる「みらいのおねんど」に、ぜひチャレンジしてみてはいかがだろうか。