左右分離型ワイヤレスイヤホン(TWE)が人気だが、使い勝手のよさや音質だけにとどまらず、さまざまな付加価値を持った製品も登場している。今回はそんな中で、「スポーツ」と「健康」にフォーカスした機能を搭載する「Amazfit PowerBuds Pro」についてレビューをお届けする。
シャオミ傘下のスマートデバイス企業
Amazfitはスマートフォンシェア世界4位の中国・小米(シャオミ)のパートナー企業で、ウェアラブルデバイスを製造・販売している Zepp Health Corporation (中国国内向けブランド名は華米科技) が、2015年から展開しているスマートデバイスのブランドだ。ターゲットはミドル~ハイエンド市場ということで、低価格を武器にしているシャオミのウェアラブルと比べると、より高性能・高機能だったり、デザイン性の高い製品を提供している。本稿執筆時点ではスマートウォッチを中心に、スマート体脂肪計とTWEを販売している。
AmazfitブランドのTWEとしては「PowerBuds」がすでにあるが、上位機種として登場したのが、今回紹介する「PowerBuds Pro」だ。
防水対応のスティック型イヤホン
PowerBuds Proは、本体から枝のように飛び出た操作部が特徴の、スティック型とも言われるスタイルの分離型イヤホンだ。他社製品で言えば、Appleの「AirPods Pro」のスタイルがそれにあたる。
本体はオフホワイトで、外耳部分に装着するのだが、やや大きめに感じられる。耳に挿入するイヤーパッド部分は耳栓のような、いわゆるカナル型となっている。イヤーチップは標準でMサイズが装着されているが、S、L、XLと4サイズが付属しており、外耳道のサイズに合わせて細かく調整できるのはうれしい。イヤーチップ自体の遮音性もなかなか高い。チップを外した部分には後述する心拍センサーがある。
スティック部には装着したときに前側になる部分にマイクロスイッチを搭載しており、1~3回押下・長押しすることで音楽の再生・停止やNCのモード切り替えなどの操作が行える。ボタン操作の設定は後述する「Zepp」アプリで変更可能だ。
イヤホン本体はIP55の防塵・防水性能を備えており、汗や水滴程度であれば問題なく利用できる。イメージとしては、シャワーや水泳のときには利用できないが、ワークアウト中の激しい汗や、ジョギング中に雨が降ってきた程度であれば大丈夫、という感じだろうか。この辺りはスポーツユーザーにとって魅力的な部分だろう。
内蔵バッテリーは容量68mAhで、アクティブノイズキャンセル(ANC)オフの場合で公称9時間、ANCオンで5時間45分動作する。このあたりの数値は通信環境や音量などにも左右されるため、カタログスペック通りにいかないことが多いが、実際の利用でもANCオンで4時間以上利用できたので、バッテリー持ちはかなりいい方だと感じられた(筆者のAirPods Proでは2時間半程度)。
バッテリーは付属のケースで充電することで、約15分で2.5時間(ANCオフ時)の利用が可能になる(満充電には約2.5時間必要)。ケース自体のバッテリー容量は510mAhで、イヤホンを約3回充電できる。ケースとの併用では最大30時間(ANCオフ)/19時間(ANCオン)の利用が可能だ。
本体ケースは幅60.4mm、高さ47.3mm、奥行き25mm、重さは約42g(イヤホン内蔵時は約55g)。AirPods Proのケースと比べると縦横はほぼ同じで、3割ほど厚い。USB Type-Cポートを搭載しており、充電はUSB経由で行う。最近流行りの無線充電(Qi)には対応していないのが残念だ。
なお、ケースとイヤーチップのほか、充電用にUSBケーブル(USB Type AーType-C)が付属する。USB Type-CしかないノートPCなどのユーザーは別途ケーブルを用意しよう。
専用アプリ「Zepp」で細かくカスタマイズ
Amazfit PowerBuds Proの機能は、スマートフォン用の専用アプリ「Zepp」から行う。このアプリはAmazfitブランドのスマートウォッチや体重計と共通で、それぞれの機能の設定や、取得した運動データの表示、各プラットフォームとのデータ共有などを行える。実はAmazfit PowerBuds Proの目玉機能のいくつかはこのアプリと併用しないと有効にならないので、必ずセットでダウンロードしておきたい。
「Zepp」を起動したら「プロフィール」タブの「マイデバイス」でPowerBuds Proを登録する(要Bluetooshオン)。ここで登録したデバイス名をタップすると、バッテリーなどの状況が確認できるほか、各種設定が可能になる。一度接続すれば、次回からはケースを開けて装着するだけで自動的に接続されるのは便利だ。
ちなみに「Zepp」はiOSの「ヘルスケア」など外部アプリと連携して、Amazfit製品で取得した運動量などの情報を書き込むことができる。ただ、PowerBuds Proのアクティビティ情報はどうもほとんど関係ないようなので、PowerBuds Proだけを使っている場合は連携しなくてもいいだろう。
PowerBuds Proの設定画面では、ノイズキャンセルのモードやボタンのジェスチャー設定に加え、「聴覚の健康」と「頸部保護」、「音楽イコライザー」、「装着感度」、「ランニング検出」、「心拍数が高すぎますアラート」、「Motion beat mode」、「タップしてレポート」といった機能のオン・オフを行う。これらはアプリから設定する必要がある。またPowerBuds Proのファームウェアのアップデートもここから行える。購入時は必ず一度、ファームウェアをチェックして最新版にアップデートしておきたい。
「聴覚の健康」は、いわゆるヘッドホン(イヤホン)難聴を防ぐため、WHOが推奨するリスニング時間(80dBで週40時間以内)になるよう、現在の音量(dB表示)と、1週間のうちあと何時間利用できるかを表示してくれる機能だ。iPhone 11 Proで試した場合、iOS側の制約かもしれないが、最大音量でも80dB(ギリギリ緑の範囲)を超えることはほとんどなかったのだが、自分が聞いている音量を数字で確認できる機会は少ないので、ぜひチェックしておきたい機能だ。
「頸部保護」はPowerBuds Proのユニークな機能で、内蔵のジャイロで首の傾き具合を検知し、一定時間(およそ45分~1時間程度)経過すると、首の運動を促す音楽を流してくれるというものだ。スマートウォッチやスマートフォンではこうした角度まで把握することは難しいため、イヤホンならではという点で着眼点のいい機能だ。
音楽ははっきり左右のチャンネルに別れており、音が聞こえてくる側に合わせて首を捻ったり回すことでストレッチが行える(回し方は初回設定時にアプリでレクチャーされる)。音楽聴取中でも一時停止して音楽が流れてくるので最初は驚くが、原稿執筆やゲームなど、つい熱中して姿勢が悪くなっているところを気付かせてくれるので、筆者にはありがたい機能だった。
「イコライザー」は10種類のプリセットとカスタム設定が用意されている。標準ではやや高音域が籠り気味、低音が強調されがちな印象なので、イコライザーで調節するといいだろう。
「装着感度」はイヤホンの脱着を確認して音楽の一時停止を、付け直すと再度再生を再開してくれる機能だ。ちなみに左右を間違えて付けると、一時停止はしてくれるが、再生を再開してくれないという面白い挙動を確認できた。左右は間違えずに装着しよう。
走行中であることを確認して走行データを保存する「ランニング検出」については、100mほど走ったところで音がしたので同機能がオンになったようだ。ただし、走り終えた後もランニングデータが確認できなかった。ランニングなどは距離が短すぎると記録されない仕様なので、もう少し長距離走り込めばよかったかもしれないのだが、運動不足が極まっている筆者にはちょっと厳しい条件だったので、平にご容赦願いたい。
「心拍数アラート」は、前述した心拍数センサーを用い、ランニング中に心拍数が一定値を超えた場合に音楽と心音のような警告音を鳴らしてくれるもので、一定の負荷で長時間走行するようなランナー向けの機能だ。
注意したいのは、スマートウォッチなどのヘルスケアデバイスが搭載している常時計測の機能ではなく、あくまでスポーツ中の心拍数を計測するものであるため、1日の心拍数の変化を記録したり、不整脈を検知して警告を表示する、といった利用はできない。搭載バッテリー容量やセンサーの種類などによる都合もあるだろうが、個人的には肌が弱く、手首に付けるセンサー系よりもイヤホンのほうがありがたいので、将来的には装着中の心拍数を常時計測してくれるようになってほしい。
エクササイズ中に低音を強化する「Motion beat mode」については、「Zepp」アプリの「健康」タブからウォーキング、ランニング、サイクリングのいずれかをスタートした状態で作動する機能で、確かにベースが「ベベベベ…」から「ベ”ベ”ベ”ベ”…」といった印象になるほど、低音が1段階ブーストする。運動中に音楽でモチベーションを上げるにはちょうどよさそうだ。
「タップしてレポート」は、「Zepp」アプリの「健康」タブからウォーキング、ランニング、サイクリングのいずれかをスタートした状態でPowerBuds Proをトンとタップすると、「ユーウォークトxxキロミターズウィズインxxミニッツアンドxxシコンズカレントハートレートイズxx」といったように、音声で現在の歩行/走行距離と時間、心拍数を通知してくれる機能だ。ただし読み上げの音声と発音は上記のようにちょっと独特で、英文を日本語(ローマ字)読み上げ機能で読み上げたような変わった表現になる(たとえば「ナインティ」を「ニニティ」と発音していた)。便利な機能ではあるので、発音も修正してほしい。
ノイズキャンセル機能は3パターン搭載
ノイズキャンセル機能は、地下鉄や飛行機などの乗り物のノイズに最適化された「旅行」、都会の屋外に合わせ、ジョギング時などの環境に最適化された「運動」、人の声や周囲のノイズとバランスを取った「屋内」、そして周辺の音を判別して、それぞれのパターンに自動的に切り替わる「適応」の4種類が用意されている。利用上はANCオンに加え、外部音取り込みとANCオフの3モードが用意されている。NCパターンは「旅行」が最もNCのレベルが高く、「運動」や「屋内」では高音域のNCがやや緩和されるほか、「屋内」は「運動」より人の声が小さく聞こえるように調整されているようだ。それぞれのパターンの聞こえ方は好みがわかれそうだが、あまり頻繁に切り替わるようでもないので、通常は自動切り替えになる「適応」にセットしておいていいだろう。
NC機能は公称で風の音が40dB、その他のノイズは35dBぶん軽減できるとされているが、もともとイヤーチップの遮音性が高めなこともあり、確かに外部音の遮音性は高い。静かな環境では、全体にホワイトノイズがやや気になることもあったが、音楽を流しながらであればほとんど気にならない。
外部音取り込みモードにすると、それまでノイズキャンセルされていた音がワッと飛び込んでくる。人の話し声やBGMなどが聞き取りやすくなるが、同時にホワイトノイズも強めで、かなり「作られた」音という印象を受ける。もう少し自然な感じに聞こえた方が個人的には好印象だ。NCオフにではホワイトノイズがないものの、環境音(ロードノイズなど)がかなり気になったので、やはりNCは常時オンにして使いたい。
音質は低音強調の傾向あり
PowerBuds Proを音楽視聴用のイヤホンとして見た場合、高音帯はこもった感じになって抜けが悪く感じられ、中音域は可もなく不可もなくといった感じだが、低音帯はなかなかよく鳴ってくれる。ジャンルでいうとヒップホップやEDMといったあたりに向いている感じだ。低音が強いのは前述した「Motion beat mode」をさらに強化する意味もあるのかもしれない。
正直、2万円台という価格(23,800円)から、万能な高音質を期待すると若干肩透かしになるかもしれないが、高音域が抑えがちなのは、聴力保護という観点からは理にかなっている(高音のほうが耳に与える負担が大きいとされるため)。イコライザー機能である程度はカバーできるので、聞きやすいように設定するといいだろう。
姿勢が悪くなりがちなデスクワーカーに魅力的
健康・スポーツ志向の高いPowerBuds Proだが、個人的には頸部姿勢の注意や聴力保護といった、デスクワークの多い人が陥りやすい問題の改善に役立つ機能が興味深く感じられた。もちろんスポーツユーザーにも嬉しい機能は多いのだが、筆者のように日頃運動はおろか、ストレッチすらロクにしないような健康意識の低いユーザーにとって、注意喚起してくれるのはありがたい。
音質面で特筆する部分は感じられなかったが、ノイズキャンセル能力も十分高く、集中して仕事をしながら、定期的に姿勢を確認し、健康に保てるというのは悪くない。メーカーの意図とはちょっと外れてしまうかもしれないが、生活習慣を改善しつつ仕事に集中したい、というユーザーにこそおすすめしたい製品だ。