ドイツ・ベルリンで毎年開催されるエレクトロニクスショー「IFA」が、今年はコロナ禍の影響を受けながらも事前登録制の形を採り、来場者の安全を確保しつつメッセ・ベルリンを会場にリアルイベントとして開催。3日間で開催されるカンファレンスやバーチャル展示については、無料でオンライン参加できました。

ここでは、筆者が注目したIFA2020のコンシューマーエレクトロニクス関連の発表と展示をピックアップしてみます。

TCLのポップアップカメラを搭載した8Kテレビ

最初はTCLのユニークなテレビとモバイル製品群です。

TCLは1981年に中国で創立された家電ブランド。2000年代初頭には、フランスのエレクトロニクス企業であるトムソンと提携してテレビの製造部門を強化。現在はテレビやモバイル端末向けの液晶、有機ELパネルも製造する世界最大規模の企業に成長しました。日本法人も立ち上げて、2019年から量子ドットLED技術「QLED」を搭載する4Kテレビなどを日本市場で販売しています。2020年6月には、TCLの関連会社が日本のJOLEDと資本提携を結んだことも話題を呼びました。

IFAが開催されているドイツや、ヨーロッパの先進諸国でも、TCLは勢いのある家電ブランドとして注目されています。ヨーロッパではテレビだけでなく冷蔵庫にエアコン、洗濯機など白物家電のラインナップも展開しているTCLは、総合家電メーカーとしてコンシューマーに受け止められているようです。

そのTCLがIFA Global Press Conferenceのステージで発表した、テレビに関連する最新技術に注目します。ひとつは「QLED Pro」シリーズのフラグシップモデルX10シリーズが搭載する、Mini LEDバックライトシステムです。

従来のLEDバックライトシステムよりもLED素子のサイズを小型化することによって、バックライトの明滅制御がより高精度にできたり、輝度やコントラスト性能の向上にもつながる新世代の液晶高画質化技術として期待されています。最近では、米アップルが自社のデバイスにMini LEDの採用を検討しているのではないかとうわさに上ったことからも、この技術は注目されました。

  • TCLは、Mini LEDバックライトシステムを搭載する大型・高画質テレビの開発をさらに加速

X10シリーズは、TCLが得意とする量子ドット技術によって色彩表現力を高めた液晶パネルに、新開発のMini LEDバックライトシステムを採用した意欲的な4Kテレビです。65V型の「65X10」は日本でも発売されています。TCLは同じMini LEDバックライトシステムを搭載する8Kテレビも、CES2020で出展。ますますの大型化に力を入れる戦略をIFAのステージで発表していました。

QLED対応の8Kテレビの新製品「X915」は、本体ベゼルの上部に「ポップアップカメラ」が搭載されています。Android TVをベースにしたスマートテレビには「TCL Home」アプリがプリインストールされ、遠隔地にいる友人や家族と手軽にテレビによるビデオ通話が楽しめます。

  • ポップアップカメラを搭載するX915シリーズ

  • 本体のベゼル上部にカメラを内蔵

  • アプリを使ってビデオ通話が楽しめます

反射型液晶や巻き取り式OLEDなど、TCLがモバイル向けに開発を進める次世代技術

TCLはテレビ用パネルの設計・開発技術を、これから自社製のモバイルデバイスにも積極的に展開しようとしています。2019年にはTCLのブランドから6機種のスマートフォンを商品化して、ヨーロッパを中心に発売しました。2020年に入ってからは、ミドルレンジの安価な5Gスマホも発売。IFAではTCLブランド初のAndroidタブレット「TCL 10 Tab Max」も発表しました。

IFA2020のステージでTCLが発表した技術にも、目を見張るものがありました。そのひとつが「TCL NXTPAPER Technology」で、次世代のモバイルデバイス向けに、現在開発している液晶・有機ELディスプレイです。

  • TCLがモバイルデバイス向けに開発する「NXTPAPER」

登壇者が「ネクストペーパー」と発音していた技術は、反射型カラー液晶ディスプレイに電子ペーパーのような特性を持たせ、駆動時の消費電力低減とユーザーの視力を守ることを目的として、過去2年間にわたる開発が進められてきました。現在、フルHD画素のカラーNXTPAPERまで商品化の目処が立っているそうです。

NXTPAPERは、通常パネルの内部に配置されているバックライトの代わりに反射スクリーンを設けて、自然光のスペクトルを分析しながら反射させて色彩を再現します。TCLは、そもそもカラー化が難しい電子ペーパーに比べて約25%の高コントラスト化ができることや、液晶パネルよりも約36%の薄型化ができること、そして約65%の省電力化も合わせて実現できることなどを、NXTPAPERの特徴としてうたっています。

日本国内では、反射型液晶の技術は屋外デジタルサイネージなどへの活用が期待されています。TCLは、文教向けタブレットなどコンシューマーデバイスに搭載するため、引き続き開発に力を入れていくとしています。

  • 反射型液晶の色再現を高めてタブレットなどモバイル端末への採用を目指します

このほかにも、モバイル端末向けの次世代ディスプレイとしてロールアップタイプの有機ELや、左右のエッジ角度を120度まで曲げた有機ELのコンセプト「WATER FALL DISPLAY」、眼鏡型ウェアラブルデバイス「PROJECT ARCHERY 3.0」など、ユニークな技術と製品のプロトタイプがカンファレンスのステージで披露されました。TCLのプレゼンターは、「来年のIFA2021では来場者の皆様にハンズオンしてもらえるよう、がんばって準備を進める」と宣言していました。楽しみにしましょう。

  • 巻き取り式OLEDを活用したロールアップタイプのスマホ向けディスプレイ

  • 筐体内の青く光っている部分のように、ディスプレイを巻き取って伸縮できる筐体デザイン

  • 左右のエッジ角度を120度まで曲げた有機ELのコンセプト「WATER FALL DISPLAY」

  • TCLの眼鏡型ウェアラブルも開発中。2020年モデル「3.0」は、デザインのスリム化に成功したそうです

HONORがApple Watch対抗のスマートウォッチを発表

ファーウェイのサブブランドであるHONORは、14種類のMILスペックに準拠したタフネス・スマートウォッチ「Honor Watch GS Pro」を発表。ヨーロッパでは9月7日から249ユーロ(約3.1万円)で販売を開始します。

  • タフネス設計を重視したHonor Watch GS Pro

コンセプトはタフネスとスタイリッシュなデザインを両立した「アーバンアドベンチャー」モデル。約1.39インチの正円形有機ELディスプレイを搭載しています。ベゼルはステンレス、ボディは強化ポリカーボネイトをメイン素材として、気温や気圧、湿度の変化に対する強度を高めています。ファーウェイのKirinプロセッサーを搭載したことで、ハイパフォーマンスと省電力性能を両立。GPSオンで約100時間駆動を実現しました。

また、フィットネス機能を充実させた「Honor Watch ES」は99ユーロ(約1.2万円)という低価格が魅力のスマートウォッチ。ヨーロッパでは9月7日に発売を予定しています。

  • 廉価でスポーツ機能が充実する「Honor Watch ES」

  • カラバリは3色展開。価格は99ユーロ

Honor Watch ESは、約1.67インチの縦長な有機ELディスプレイを搭載。200以上のカスタマイズが自由に楽しめるウォッチフェイスを発売時から用意するほか、一般参加を募るコンペティション「HONOR Talents」を開催して、デザイン性に優れるウォッチフェイスを集めます。コンペの優勝賞金は何と約120万円。

Honor Watch ESは本体の耐久性能を高めて50m防水を実現。44のアニメーション動画付きワークアウトコーチングを収録するほか、心拍センサー、睡眠トラッキング、周期記録、ストレスモニターなど、多彩なフィットネス機能をプリインストールしています。

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IFAのオンライン開催を取材しながら、PCの画面越しに魅力的な製品が紹介されると、記者としてただひたすら触りたくなるばかりですが、今年は残念ながらそれがかないません。ウィルス感染症の影響が一刻も早く落ち着いて、またIFAのようなイベントがリアルに開催され、リアルに取材できるようになる日が来ることを待つばかりです。

ただ、2020年のIFAに出展している各社が意欲的に新製品を開発・発表する様子を目の当たりにして、明るい希望もわいてきました。困難な状況の中でIFAに出展した各社は、オンラインでイベントを視聴している人々に対して、企業として元気にがんばっている様子を強くアピールできていたと思います。