ノークリサーチは2月26日、中堅・中小企業におけるテレワーク導入と、そのほかのIT活用提案の関連について分析を行った。これは既存調査レポート「2019年版 DX時代に向けた中堅・中小ITソリューション投資動向レポート」のデータをもとに複数の追加分析を行った結果をまとめたものとなる。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い「中堅・中小企業に対してもテレワーク導入を訴求すべきか?」という問い合わせを受けるケースが徐々に増えており、詳細な調査は事態が収束した段階であらためて実施する必要があるが、今回は既存の調査レポートを分析した結果をもとに現段階で提言できる内容をまとめている。

以下のグラフは年商100億円未満の中堅・中小企業を対象とした場合の「テレワークが自社の業態に適さないと考える割合」を業種別に集計したものとなり、テレワークが適さないと考える割合はIT関連サービス業では3.6%に留まる一方、他の業種では1割弱~2割弱となっている。

  • 「テレワークが自社の業態に適さないと考える割合」の業種別集計

    「テレワークが自社の業態に適さないと考える割合」の業種別集計

行政からはテレワークの実施が呼びかけられ、すでに大企業やIT企業の実践例も報道されており、テレワークでの業務が可能な形態(主にオフィス勤務)の従業員数も多く、こうした取り組みは感染拡大を防ぐためにも重要だという。

しかし、小売業やサービス業における店舗勤務、製造業における工場勤務、建設業における現場勤務など、テレワークの実施が難しいケースも多々あり、中堅・中小企業ではオフィス勤務と比較すると上記のような業務を担う従業員の比率が高いため「企業としてテレワークを実践する」といった表現自体に違和感を感じる中堅・中小企業も少なくなく、上記のグラフが示す結果にはこうした背景が関連していると指摘。

IT企業が中堅・中小企業を対象としたテレワーク導入提案に取り組む際は「企業としてテレワークを実践するかどうか?」という画一的な視点ではなく「個々の業種や業態を踏まえた時にテレワーク関連のソリューションを効果的に適用できる場面はあるか?」をユーザ企業とともに見出していく姿勢が求められるほか、新型コロナウイルスが及ぼすリスクという点では「従業員の感染」だけでなく「来店客の減少」(特に小売業やサービス業)や「サプライチェーンの停滞」(特に製造業や建設業)なども考慮する必要があるという。

新しい感染症では従業員の感染に注目が集まりやすいが、来店客の減少やサプライチェーンの停滞は感染が収束した後も影響が続く可能性があり、IT企業側がこうした点を考慮せずに「企業としてのテレワーク導入」を無理に進めようとすると、中堅・中小企業から見た時には感染症の拡大に便乗した売り込み提案と映ってしまう。

下図が示すように、感染症に起因するリスクを軽減するためのIT活用提案においては来店客の減少やサプライチェーンの停滞なども含めた事業継続(BCP)の視点を持つことが大切だという。実際に調査データを分析してみると来店客の減少やサプライチェーンの停滞などを回避するために有効なITソリューションと並行して取り組んだ方がテレワークの導入意向も高まりやすいとしている。

  • 感染症に起因するリスクを軽減するためのIT活用提案

    感染症に起因するリスクを軽減するためのIT活用提案

以下のグラフは年商100億円未満の中堅・中小企業を対象に「テレワークの有効性を啓蒙するコンサルティング」の活用意向を尋ねた結果となり、一番上の帯グラフは年商100億円未満全体の結果、その下は「顧客の行動や動線を把握/分析する」「顧客との新たな対話手段を創出する」「同業他社との連携や協業の強化」「異業種との連携や協業の強化」などITソリューションの導入意向を示したユーザ企業における結果を示している。

  • 「テレワークの有効性を啓蒙するコンサルティング」の活用意向のグラフ

    「テレワークの有効性を啓蒙するコンサルティング」の活用意向のグラフ

上記4つのソリューションのうち、前者の2つは「来店客の減少」への対策、後者の2つは「サプライチェーンの停滞」への対策としても有効な取り組みだという。つまり、上記のグラフは各業種の本業に近いITソリューションを訴求した方がテレワークを社内で推進する啓蒙活動も進みやすいことを示唆している。

テレワークは「ITを活用することで、時間や場所の制約を受けない柔軟な働き方を実現する取り組み」と定義されており、以下のような形態が該当するとされている。

  • 在宅勤務: 従業員が自宅で業務を行う形態
  • モバイルワーク: 従業員が移動中や外出中に社外から業務を行う形態
  • サテライトオフィス: レンタルオフィスやシェアオフィスなどの施設を利用して業務を行う形態

上記に加えて「特定の拠点を定めず、様々な場所(飲食店など)を利用しながら業務を行う形態」を表す「ノマドワーク」という用語もあり、これをテレワークに含める場合もあることに加え、テレワークと同義の用語もしくは在宅勤務を指す用語として「リモートワーク」が用いられることもある。

ここで留意すべきなのは、実際に中堅・中小企業では「在宅勤務」の意味合いでテレワークやリモートワークを捉えているケースが意外と多いという点であり、冒頭でも述べたように中堅・中小企業では在宅勤務を適用できる従業員が限られてくる。さらに、在宅勤務では個々の従業員の自宅にセキュリティを担保した仕組みを導入/配置しなければならない。

一方、「モバイルワーク」は営業担当者を対象として、すでに実践している中堅・中小企業も少なくないほか、「サテライトオフィス」は育児や介護などの事情で自宅に近い拠点から業務を行う必要がある場合、そうした環境を一時的かつ手軽に実現するための有効な手段となる。つまり「テレワーク/リモートワーク=在宅勤務」と認識されていることでモバイルワークやサテライトオフィスという選択肢の存在が十分に訴求されていない可能性があるという。

以下のグラフは年商100億円未満の中堅・中小企業に対して、在宅勤務またはサテライトオフィスの意味合いとしてのテレワーク、およびテレワークとは切り離したモバイルワークへの取り組み意向を尋ねた結果を従業員数別に集計したものとなり、従業員数20~50人ではテレワークへの取り組み意向が高い一方、従業員数300~500人ではモバイルワークへの取り組み意向が高くなっている。

  • 在宅勤務またはサテライトオフィスの意味合いとしてのテレワーク、およびテレワークとは切り離したモバイルワークへの取り組み意向のグラフ

    在宅勤務またはサテライトオフィスの意味合いとしてのテレワーク、およびテレワークとは切り離したモバイルワークへの取り組み意向のグラフ

この結果には業種も関係する点に注意する必要があるものの、少なくとも「在宅勤務やサテライトオフィス」と「モバイルワーク」は切り分けて訴求する必要があることがわかる。したがって、IT企業が中堅・中小企業に対してテレワーク導入を訴求する際には「在宅勤務」「サテライトオフィス」「モバイルワーク」など一歩踏み込んだ具体的な表現を用いて、ユーザ企業と共通の認識を持つように努めることが重要だという。