正直いって、中国地方の日本海側、つまり島根県、鳥取県へ向けられる首都圏の観光客の意識は決して高くない。また、しばしば両県は混同される。昨年、あるテレビ番組で日本地図のテロップが出た際、島根県が鳥取県と表示された例があった。確かな情報を伝えなければならないテレビメディアにおいても、両県の区別が間違われることがあるという一例だ。この番組が流れた際、島根県・鳥取県の在住者からは「またか……また間違われた」というような、ため息交じりの書き込みがネットに数多く書き込まれたという。

自虐というキーワードも……

それは、日本地図上において、両県が隣県であること、島根県の“島”と、鳥取県の“鳥”の字が似たような漢字であること、地図上でみると中国地方の日本海側で両県とも南北ではなく東西に横たわっていることが、混同を生むのかもしれない。

こうした状況からか、両県の担当者はしばしば“自虐”という言葉を使う。この日のPRイベントでも、松江市の担当者から“自虐”という言葉が聞かれた。一方、隣県の鳥取県ではスターバックスコーヒーが県内になく、「すなば珈琲」という喫茶店をオープンしたが、これもある意味自虐といえるだろう。もっとも2015年にはスタバが鳥取県にオープンしたが……。

と、こんなことを書いてしまうと、両県の方々から怒られてしまうかもしれない。だが、広域でみれば、中国地方の日本海側は観光資源が多い。

ほんの一部地域だが、西から列挙してみよう。まず、“縁結びの神様”といわれている出雲大社がある。そして宍道湖、さらにその北東には松江城がそびえている。松江城は5番目に国宝に指定された現存天守で、いわゆる“お城ファン”と呼ばれる人々からにわかに注目を浴びている。さらに東には中海、その北にはカニで有名な境港が、さらに東には大山や鳥取砂丘が存在する。仮に2泊3日の旅程では、これらすべてをめぐるのはなかなか難しいだろう。

松江市産業観光部 井川浩介氏

しかも境港は海産物だけではなく、「ゲゲゲの鬼太郎」の生みの親、水木しげる氏の出身地でもある。「妖怪の町」と知られ、怪談をウリにする松江市との相性はよい。松江市産業観光部の井川氏は、「当然、山陰全体の観光資源の活用を進めていきます。そして松江は、地理的にそうした観光地の中心です。ぜひ“観光時の拠点”にしていただきたいです」と話す。

このように、観光資源を両県で生かす取り組みは以前から行われていた。昨年には海外からの誘客を目指す「山陰インバウンド機構」を発足させ、島根県・鳥取県へのUIターンを促す合同就職説明会も行われている。“自虐”という言葉を使いながらも、決して手をこまねいているわけではないのだ。

まったくの余談だが、筆者は「出雲縁結び空港」への着陸が気に入っている。宍道湖に滑走路が突きだしたこの空港では、着陸時に水面ぎりぎりの景色が窓から眺められるのが一興。一瞬だがまるで“水上不時着”のような雰囲気で、着陸まである意味“自虐的”な感じだ。