大きな課題はキラーデバイス・コンテンツの不在

5Gの導入に熱心なのは日本だけではない。より熱心なのは中国や韓国で、韓国では2018年に実施される平昌冬季五輪を目指して5Gの試験サービスを開始する意向を示しているほか、中国でも最大キャリアのチャイナモバイルが、やはり2018年に5Gの試験導入を打ち出している。

当初は5Gに積極的な事業者が限定されていたため、スケジュールの遅れが心配されていた5Gだが、業界全体での関心の高まりによって、技術やスケジュール面での課題は解消に向かっているといえそうだ。だが一方で、より大きな課題となっているのがユーザー側、つまり5Gの利用を促進する、明確なコンテンツやサービスが存在していないことである。

確かに5Gは、IoTやVR、遠隔医療などさまざまなニーズに応えるべく設計されているが、それらが本格的に普及するのは、5Gの導入よりもやや先のことになると見られている。一方、現在スマートフォンを利用している人達は4Gの環境で十分満足していることから、あえて5Gのサービスやコンテンツを積極的に利用する動機が乏しい。

4Gの時はスマートフォンという明確なキラーデバイスが存在したため、関心も高く普及も急速に進んだ。だが現在の動向を見る限り、5Gの導入を迎える2020年前後に明確なキラーデバイスやコンテンツが存在しているわけではなく、ユーザーの関心が高まりにくいことが、5Gの普及を妨げることになると考えられる。

そうした懸念は過去の通信方式、具体的には「3G」導入時の動向からも見えてくる。3Gは音声通話からデータ通信へと、今後携帯電話の利用が大きく変化することを受けて開発された通信方式であったが、NTTドコモが世界に先駆けて商用サービスを開始した2001年頃は、携帯電話でデータ通信を積極的利用する人自体まだ少なかった。そのため3Gへの移行はスムーズに進まず、追随するキャリアも2年近く現れないなど、NTTドコモは先行者利益を全く得られず苦渋を味わったという経験がある。

技術やスケジュール面での課題がクリアされた5Gにとって、いま必要とされているのは、ユーザーが明確なメリットを感じることができる、デバイスやコンテンツをいかに早急に生み出すかであるといえそうだ。

3Gの反省を生かしてか、NTTドコモは東武鉄道と連携し、東京スカイツリータウンで5Gを活用したサービスを検証するなど、5Gのコンテンツ・サービス開発を積極的に進めている