人間はアンドロイドをアイドルと認められるのか?

芸能界において、アイドルというのはある種の生鮮品のような存在だ。毎年何十組ものアイドルが現れては消えていき、ごく一握りの成功例だけが生き延びる、極めて厳しい世界だ。そんな成功例であっても、アイドルのアイドルらしい側面、すなわち可愛さや初々しさ、清純さなどは時間とともに失われていき、女優や歌手として転身していく。中には恋愛問題など様々な事情で引退していくアイドルもいる。アイドルとしての寿命はせいぜい数年といったところだろう。

そういう観点からは、アンドロイドという「歳をとらず、恋愛もせず、劣化しない」存在は、アイドルとしては理想的だ。絶対にスキャンダル等でファンの期待を裏切らず、アイドルらしい側面だけを何年でも見せ続けてくれる。もちろん物理的な故障や劣化は起きうるが、まったく同じものを作って再現できるのだから、トータルコストとしては普通のアイドルを育成するよりも安上がりかもしれない。

一方、人間は「作り物」をアイドルとして受け入れることができるのか、という疑問も起きる。アイドルは一人の個性を持った人間であり、わずかな期間のみ輝く、その希少性こそがアイドル性を生み出すという考えだ。人工的な存在はそのようなアイドル性を持ち得ないならば、「U」のような実験は成立しないということになる。

ただし、こと日本においては、架空の存在を、それと承知しながら「アイドル的な存在」としてある程度受け入れる素地がある。たとえば「VOCALOID」の「初音ミク」などはバーチャルアイドルの先駆けのようなものだし、アイドルアニメが人気を博し、キャラクターに声を当てる声優たちのコンサートに数万人が集まる昨今だ。

アイドルではないが、漫画「あしたのジョー」の登場人物である力石徹の葬儀が行われた例すらある。架空の存在であっても通常の人間と同様の存在としてみなすことのできる、いわば一種の高度な「ごっこ遊び」とも言える感性が日本人には存在する。「U」についても、ニコニコ動画を中心に、一定の「お約束」を許容できるファンの間でアイドル的存在になることは十分可能だろう。